ものづくり日本会議

2008年講評

機械分野

中部大学教授 総合工学研究所長 稲崎 一郎氏

“超”モノづくり部品大賞と名称は代わったが、通算で5回目となる機械分野には総数41件と前回を大幅に上回る応募があった。このうち中小企業が19件と半数近くを占めており、わが国のモノづくりを下支えしている中小企業の間で技術開発意欲が旺盛なことが垣間見える。
工具関連が11件と多かったが、この中で「”超”モノづくり部品大賞」に輝いた日立ツールの微細超深穴加工用ドリルは、従来のドリル工具形状の固定概念を覆す極めて独創的なものである。独自の構造によってL/D =100までの深穴加工を0.05ミリメートル以内の真直度で可能にした。
また、日進工具は微細な刃先形状を研削で達成する独自技術により、超微細3次元形状の機械加工を可能にするマイクロボールエンドミル(超硬材で直径5マイクロリメートル)の商品化に世界で初めて成功した。協和精工は刃径6ミリメートル以下のCBN製チャンファ付きスパイラルボールエンドミルの製品化に成功、放電加工から機械加工への転換による環境上の効果が期待できる。 伊東電機のコンベヤー駆動用モーターローラーの着想は独創的で高く評価される。コンベヤーの自立分散駆動ともいうべき新たな様式の発端となるもの。
テクニスコは耐食性に優れた超微細流路を独自の機械加工と電鋳技術で作成するプロセスを完成させた。また、アイコクアルファは需要が急増しているターボチャージャー用のインペラを鋳造から独創的な技術で削り出しにすることで格段の性能向上を達成した。長峰製作所の耐摩耗性や耐薬品性に優れるセラミックス製マイクロノズルは射出成形技術などの独自性に支えられている。いずれも高度な加工技術が根底にある。
安川電機のアクチュエータは着実な技術の積み上げで極めてスリムな形状を実現したもので、ロボット関節部分の干渉を大幅に抑えた成果は高く評価できる。三木プーリの受賞製品は通電時にごく短時間だけ高電圧をかける独創的な仕組みを開発、電磁クラッチブレーキの応答性を5倍以上高めた。ブレーキ開放後は低電圧で状態を保持できる構造のため、大幅な省電力も実現している。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

電気・電子分野ではここ数年の傾向として、発光ダイオード(LED)やその応用部品、液晶ディスプレー、有機エレクトロルミネッセンス(EL)などフラットパネル・ディスプレー関連、あるいは画像処理デバイスなど表示装置に関連する部品の応募が多かった。
携帯電話などモバイル通信端末に関連した部品、あるいはネットワーク関連のソフトウエア的な部品も数多くみられ、ユビキタス時代の本格化を感じさせた。また、ほとんどの部品が欧州特定有害物規制(RoHS)を十分意識して製品化されているのも特徴と言える。
テレビはブラウン管から液晶、プラズマと進化しているが、ソニーの開発した有機ELはその長所だけを集めた理想のテレビであり、それに今回のモジュールはディスプレー部に搭載されている。 小糸製作所が開発したLEDヘッドランプは、大幅な消費電力低減につながるものである。光量と輝度の両立が必要なヘッドランプ光源として白色LEDを実用化しているが、今回の開発はヘッドランプのみならず一般用LED照明の開発を加速し、LED照明普及に向け大きな前進が期待できる。
電子機器では伝送信号の高速化に伴い差動伝送方式が主流となっている。これに伴いコモンモールドフィルターの需要は年々増加している。TDKの開発したフィルターは従来品に比して大幅な製品のサイズダウンに伴いセラミックスなどの使用部材料の削減が可能となり、同時に導体の薄膜化により使用金属量の減少も可能となっている。
島津製作所の「小型グリーンレーザ」は緑色レーザー発生を媒質、ミラ、波長変換素子などを集約したモノリシックな素子によって可能とし、小型化と使用の簡便性を格段に向上させている。
東芝の開発した「SpursEngine」はコンテンツのハードディスク(HD)化というソフトの進化に対応する部品であり、今後の普及が期待される。カーナビシステムの種々の機能を実現させるためには莫大ばくだいな電子データを超高速で処理する必要があるが、NECエレクトロニクスの開発した「ナビエンジン」は機能の実現を可能としている。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

今回の審査では「モノづくりの魅力・基本の技・新たな挑戦」といった思いがひしひしと伝わってきた。一口に自動車部品といっても、その多岐にわたること星空の如しだ。しかし、それら部品それぞれが車の「機能と性能と効能」のどこかでつながりを持っている。しかも、知能化、新素材、軽量小型化、安全・環境対応、モジュール化そしてコストパフォーマンスが部品開発のキーワードとして定着してきた。
モノづくり推進会議共同議長賞のIHI「RHF25型ターボチャージャー」は、小型軽量と低高速域にわたる動力性能を実現し、燃費改善と環境負荷低減が期待される。加えて、環境対応小型ディーゼルエンジンへの適応も視野にあり、まさに過給技術のプロの技といえる。 自動車部品賞は3件。愛知機械工業の「デュアルクラッチ式トランスアクスル」は手動と自動のユーズウエアの両立を確保し、速やかな変速と伝達効率がもたらす走りは秀逸の技といえる。NTNの「ステアリング用等速ジョイント『CSJ』」は、新たな発想による操舵応答の高質化と予防安全に貢献する真摯な技といえよう。西川ゴム工業の「ボディサイドシール」は、車の品位を決定付ける水密と遮音を保ちつつ軽量化を実現、地味な存在ながら感動の技だ。奨励賞は2件でいずれも素晴らしい技を秘めていた。

環境関連分野

国際連合大学ゼロエミッション・フォーラム理事 谷口正次氏

環境関連分野の選定にあたり、内容を①省エネルギーとそれに伴う温暖化ガス排出削減=原油消費量減②資源生産性向上(とくにメタル資源消費量の削減あるいは代替材料開発)③有害廃棄物などの削減=ゼロエミッション化あるいは代替材料開発―の3カテゴリーに分類した。
応募21件のうちカテゴリー①が9件、カテゴリー②が4件、カテゴリー③が8件だった。この結果は地球温暖化問題が世界の関心事であることから当然と言える。
しかし、私はカテゴリー②を重視した。中でも兼工業の「エコバルブ」が光っていた。カテゴリー①では環境経営総合研究所の「ナフサ原料の削減とCO2排出量削減に貢献する『紙製DVD/CDディスクホルダ』」が良かった。両部品ともに甲乙つけがたかったがカテゴリー②のエコバルブをものづくり生命文明機構理事長賞に推薦した。
カテゴリー②の分野を重視する理由は、世界のメタル消費量が膨大になり途上国の自然破壊などが深刻になっており、銅という「産業の血管」と言われるメタルの消費量を減らし、資源生産性を向上することは国益上も地球益上も大きいからである。工業化社会における二酸化炭素(CO2)削減よりも、ある意味で効果的だ。熱帯雨林の破壊を防ぐことにつながるからだ。

健康・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

モノづくりを支え、新たな価値開拓が期待されている新材料やツール、装置系には、高い品質や機能、性能に留まらず、時代が望むニーズやマーケットに対する想像力、新しいアプリケーションを生み出す企画力、そしてそれを形にする独自の技術力が求められる。大賞の冠に、”超”が付けられているゆえんだ。
まさに今回部品賞を受賞した案件には、いずれもこの”超”モノづくり部品の名に恥じない、高い独創性と技術力がたたえられていた。健康・医療機器分野の受賞案件においても、時代要請を反映した優れた装置形技術が数多く見受けられた。
なかでも「人工炭酸泉製造装置」は中空糸膜技術を応用し、二酸化炭素(CO2)を血流促進という健康分野に展開したユニークな技術だ。スパ施設やマンションのバス、ヘッドスパとしての美容院への導入、飲用や災害被災者に対する社会貢献利用など、その市場性の拡大に期待できるだけでなく、何より悪玉視されていたCO2をプラントから回収し、その「炭酸力」を有効活用しようという社会的提案においても極めて優れている。
検出素子を独自に配列したデザインで、1回転で臓器の動態観察・診断を可能にさせた「320列エリアディテクタ」も、コンピューター断層撮影装置(CT)の常識を覆すユニバーサルテクノロジーとして高く評価できる。
日本の高度な素材技術や要素技術を新しいアプリケーションに拡張する。いずれもこの賞のミッションを象徴する健康・医療装置の提案だ。

生活関連分野

東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏

生活関連部品とはどのように定義されるか、今回から始まった生活関連部品賞選考で改めて考えさせられたハードルである。結果、生活を構成する要素であることを前提とした。一般的に部品とは人工物の構成要素であるが、これを含め、ここでは生活という行為を構成する要素も含むこととした。さらに、美しいこと、そして環境に配慮していることの3点を選考の主眼とし、審査の結果4点の部品賞を決定した。
アルミ防火シャッタードアは、まさに発想転換のたまものである。誰もが不可能と思っていたものにあえて挑戦し、斬新なアイデアで極めてシンプルな構造を見つけ出した。高級包丁用の高機能多積層クラッドメタル材料は、とにかく美しい。毎日使う包丁が美しいということは心を豊かにする。間違いなく愛着を持つ一生ものの包丁となる。紙糸「OJO +」は古い歴史を持つ抄繊糸を再度見直し、従来活用できなかった天然繊維の生分解性繊維として工業化した。ハイブリッドエコロジーシステムは美しく、節水にも貢献し、タンクレストイレで問題になっていた低水圧でも運転可能である。「縅錣」は奨励賞となったが、匠の技の極みで美しく皮革素材の新しい領域を示した。どれもが結果として、極めてシンプルな形や原理から成り立っている。美しいとはこういうものかもしれない。