2009年講評

機械分野

中部大学教授総合工学研究所長 稲崎一郎氏

通算で6回目になる部品大賞は機械分野で44件の応募があり、昨年の41件を上回るなど安定的な応募数を確保し、本賞が広く周知されていることがわかります。機械部品としてくくってはいますが、応募の種類は多種多様です。通常の機械部品としては考えにくい工具の応募が毎回多いのですが、機械加工システムの重要な構成部品と考えて積極的に評価しています。
評価は次の2点から行っています。1.優れた性能によって高く評価され、すでに多くの実績があるもの。2.まだ広く普及はしていないが極めて独創的であるもの。これらに加えて、環境負荷の低減をうたった部品の応募も増えています。 今回、機械分野から「日本力(にっぽんぶらんど)賞」となったソディック新横の「ワイヤ放電加工機用 高性能リサイクルワイヤ電極線『e‐wire』」は、ユーザーとワイヤ循環システムを構築してワイヤ電極線の完全リサイクルシステムを完成したもので、資源再利用の経済効果が極めて大きく、使用量の実績も顕著です。
山梨日立建機の「アタッチメント型地雷処理装置『BM307‐V24』」は、対人地雷処理と対戦車地雷の両処理をアタッチメントの交換で可能にしたもので、その性能と信頼性が国際的に高く評価されています。国際貢献への寄与も特筆すべきです。
島津製作所の「トロイダル回折格子」は、縦方向と横方向の曲率が異なるトロイダル面を用いた回折格子で、スペクトル像の収差を効果的に補正することができる、同社の技術力と実績に裏づけられた部品です。フジキンの「気体作動高耐久ダイレクトダイヤフラムバルブ」は、大学との共同研究を通して、半導体製造におけるガスの供給制御用バルブの耐久性と高速応答性を格段に向上させました。
今回も工具の応募が多数ありました。日立ツールによる「小径刃先交換式エンドミルアルファ スーパーエクセレントミニ ASM形」と平和テクニカによる「結合剤部分傾斜型レジノイド切断砥石」は、切削工具と研削工具に独自な方式と構造を与えたものです。以前からあるチェーンの剛性を格段に高めることによって、椿本チエインは伝動部品から直線作動部品という新たな機能を持たせた「ジップチェーン」を提案しました。ユーシー産業が開発した「カフレス」は、ホースと接合部品を一体成形する技術で、配管作業の高効率化を可能としました。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

電気・電子分野ではここ数年の傾向である発光ダイオード(LED)やその応用部品あるいは液晶デバイス、有機ELなどフラットパネル・ディスプレー関連部品に関する応募は相変わらず多くありましたが、今回の特徴としてはパッケージ関連の部品・材料に優れた成果が見られました。

今回、日本力賞に輝いた住田光学ガラスと豊田合成が共同開発した「ガラス封止LED」は、白色LED用ガラス組成の開発から出発し、蛍光体の一分散、ガラス封止工程の最適化までをすべて工業技術として確立し、従来の樹脂封止では不可能であったLEDの寿命を大幅に改善したもので、市場拡大に寄与することが大きいです。
パッケージ関連の部品・材料では大日本印刷の「積層可能・超薄型0.15/0.2mm厚パッケージ用リードフレーム」、フジクラの「全層ポリイミドIVH多層配線板」、日東電工の「HDD用ワイヤレスサスペンション回路基板(CISFLEX)」にレベルの高い成果が見られ、小型化・高密度化を達成しています。これらの部品材料は欧州特定有害物規制(RoHS)を十分意識して製品化されているのも特徴です。
ソニーが開発した「裏面照射型CMOSイメージセンサー『Exmor R』」は、従来の画素構造とは異なり、シリコン基板の裏面側から光を照射することで、約2倍の感度や低ノイズなどの撮像特性を大幅に向上させたもので、画質に対するAV評論家の評価も高いです。
NECエレクトロニクスの「超解像システムLSI『μPD9245GJ」」も映像の画質向上を図ったもので社会的に大きな意義をもちます。メモリーが不要かつ実装面積を削減でき、また録画データの軽容量化は資源の節減にもつながり、まさに省エネに貢献できる製品とも言えます。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

技術は時代を開き、時の流れは技術をはぐくみます。自動車技術は、次世代に向けた環境・エネルギーのパラダイムシフトを積極的に受けとめ、その開拓にむけたさまざまな動きがみられます。キー・イシューズには、先進のテクノロジー技術力、コストパフォーマンス価格力、リライアンス信頼力、オンネット情報力、カスタマイズ消費者力、そしてソーシャルミッション社会力などが目立ちます。
これらは、魅力あるモノづくりの礎であり、それを一つひとつ具体化し実現するのは、「モノづくり部品力」によるといるでしょう。 モノづくり推進会議共同議長賞に輝いたTDKの「車載用DC‐DCコンバータ GEN4.5シリーズ」は、環境対応の先達であるハイブリッド車や電気自動車のモジュール部品として、変わる自動車技術の主要サブシステムとして注目されます。磁気素材メーカーがそのプロフェッショナルとしての技術力を駆使して、小型軽量化・高効率化・低コスト化などを実現しています。産業のビジネス効果を越えて、エコ社会構築の道を開くものとして評価されるでしょう。

自動車部品賞は3件です。黒田精工の「接着剤で鋼板同士を固着接着したモータコア」は、自動車の電動モータ技術への期待を備え、構造・機能・経済性の優位性を確かなものとしています。 日本精工の「機電一体コラムタイプ電動パワーステアリング」は、モーターとECUなどを一体化し、コラムシャフトの短縮を実現しました。かつ衝突エネルギー吸収機構やチルト機構を有し、限られた空間への集中設計に大きく寄与しています。
小島プレス工業の「車両空力性能及び歩行者保護性能向上を図ったエンジンアンダーカバー」は車体の空気抵抗低減による燃費向上技術をエンジンアンダーカバーに適用し、燃費改善と二酸化炭素削減を実現しました。同時に車体の歩行者保護機能を向上しており、時代の要請にこたえるダブル効果の技は高く評価されます。
今年の応募を振り返ると、部品づくりのソフトウエア、部品のユーズウエアなど、従来みられなかった応募もあり、技術の広がりを印象づけました。また、年初来の困難な経済状況と車技術の遷移動向による活力の一時帰休が応募に反映していたようです。再度のさらなる発展と新たな領域の台頭を期待したいと思います。

環境関連分野

国連大学ゼロエミッションフォーラム理事 谷口正次氏

「”超”モノづくり部品」と銘打つと、賞の候補に対して、最終製品の一部としての機械部品をイメージします。しかし、環境関連では、地球環境の持続可能性に直接貢献する「モノづくり」という視点が必要となります。

昨年の審査にあたっては、1.省エネルギーと温暖化ガス排出削減 2.資源生産性向上 3.廃棄物削減あるいは環境浄化―という三つのカテゴリーに分けて審査しました。
本年はこの分類に、候補部品が世界に展開が可能か、あるいは普遍性があるかという視点を加えました。気候変動、生物多様性、水資源、エネルギー・鉱物資源枯渇など地球規模の問題がますます深刻さを増しているからです。
この視点によって、候補部品は大きく2分類できます。A「ローカルのソリューション」か、B「グローバルなソリューション」かということです。
環境関連分野で最終選考に残った部品を分類すると、アウラの「CHIKU‐SA PULP」、大成建設とIHIの「二重ビット」およびマイウッド・ツーの「超つよスギ 圧密ポプラ厚貼フローリング」の3件はA分類でしょう。
E.I.エンジニアリングの「エネルギーシミュレーションソフトENEPRO21 『Regular』」とデザイナーズギルドの「バブル90」はB分類となります。選者としては、B分類で世界展開の可能性を重視し、加えて、水資源の生産性向上に大きく貢献することから「バブル90」を大賞候補に推しました。

健康・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

今回、この部門で特別賞を受賞したのは、心臓手術に対応したテルモの人工肺「キャピオックスFXシリーズ」です。拍動を止めて行う心臓手術において、肺の機能を代替して血液を循環させる人工肺は、重要な医療機器です。同社は、ポンプによる人工肺と、血栓や異物、空気を捕捉する動脈フィルターを一体化させることで小型化し、輸血や輸液の投与量を最大3割減らすことに成功しました。これにより、副作用や感染リスクが低減するだけでなく、新生児や乳児の安全な治療を可能にしました。医療のキッズデザインとして、顕彰にふさわしい先端部品です。
また、専門医不足と地域医療格差が取りざたされるなか、遠隔医療支援機能を持つ画像情報システムは、地方と都市部の高度な医療施設を結ぶユビキタス医療を形にします。現画像を圧縮せず、リアルタイムカンファレンスを可能としたViewSend社の「遠隔医療支援機能付 ViewSend PACS」は、地方医療を救済するユニバーサルな通信システムとして、従来製品を大きく凌駕する高い性能を備えています。
さらに、被験者が安心で快適に検査を受けられる医療環境を実現する部品として、竹中工務店が開発した「開放的なMRI検査室向けの磁気・電磁一体型シールドサッシ」も極めて優れています。MRI装置の入れ替えに伴う改装工事の合理化にまで配慮した同部品は、医療にかかわる多様なステークホルダーに対して、数多くのメリットを与えるでしょう。 今年の健康・医療機器部品分野の特徴は、このように医療装置、医療システム、医療施設のそれぞれにおいて、ユニバーサルデザインとして高く評価できる案件が受賞したことでしょう。

生活関連分野

東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏

どのような部品であれ、地球環境への配慮はその前提でなければならないし、その上で心豊かな生活を担保できる「生活美」を支えることの可能なモノづくりがどこまでできているのかを審査の基本的なコンセプトとしました。応募部品の多くはこのコンセプトに該当するものであり、モノづくりに新たな潮流が生まれているのを実感できたことは、大きな収穫でもあります。
中でも、日本人にしかできないのではと思わせたのが「バブル90」(デザイナーズギルド)である。節水用の蛇口ノズルであるが、従来の節水の概念を大きく変え、少量の水に大量の空気を含ませ、使用感や洗浄力を下げずに90%以上の節水を可能にしました。我慢することなく節水するために、ノズルはミクロンオーダーの加工精度が要求され、まさに匠の技の集積ともいえます。早く家庭用のノズル開発をお願いしたいところです。環境面でのレベルも高く、大賞として推薦させていただきました。
「ez‐TRAK」(YKK)は、高齢化社会も意識したファスナーでのユニバーサルデザインの新しい可能性を見せてくれ、「nanoeデバイス」(パナソニック電工)は、空気中の水蒸気を利用した帯電微粒子水が、健康、脱臭、除菌、美容などに効果的であることを明らかにしてくれました。ともに、これからどのような展開を見せてくれるのか、大いに期待したいと思います。
また、「低流動圧対応ブースター」(INAX)は、タンクレストイレの低水圧を補う補助装置として水のエネルギーをスプリングにためる小さな無電源ブースターです。これも目からうろこの「技」です。「種麹『吟味』」(秋田今野商店)は、苦味であるアルギニンの生成が抑えられる清酒醸造用の新しい麹の開発です。精米歩合を抑えられコストメリットもありますが、新しい味の開発に期待したいと思います。