機械分野
中部大学教授 総合工学研究所長 稲崎 一郎氏
2010年“超”モノづくり部品大賞に機械分野では総数42件の応募があった。例年通り中小企業からの応募が多くを占め、わが国のモノづくりを支えている中小企業の技術開発意欲が旺盛なことがうかがえる。通常の機械部品としては考えにくい工具の応募が今回も多かったが、機械加工システムの重要な構成部品と考えて積極的に評価している。
日本力(にっぽんぶらんど)賞に輝いた日本トムソンの「マイクロ精密位置決めテーブルTM」は、断面高さ20mm、幅17mmという業界最小の位置決めテーブルを商品化したもので、同社のマイクロリニアウェイ、細径ボールネジ、ACサーボモーター、位置検出センサーの組み込みによって150mm/秒の高速駆動と繰り返し位置決め精度1μm(μは100万分の1)を達成している。高速、高精度位置決め機構への広範囲な応用が期待できる。
日立ツールの「超高能率加工用エンドミル『エポックミルスシリーズ』」は、不等間隔ピッチの切れ刃配置によってびびりの発生を大幅に抑制し、金型、各種部品の「高切込み、高送り」を可能として従来比8倍の高能率切削加工を実現した。野田金型の「一体品削り出しエルボ」は、従来溶接、パイプの曲げによって生産されていた配管継ぎ手90度エルボを切削加工によって可能としたもので、肉厚を自由に調整できる。オーエスジー株式会社の「ダイヤモンドコーティング超硬ダブルアングルドリル」は、航空機部品に代表される炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の穴加工において問題となる「むしれ、バリ、けば立ち」などを抑制する新たな切れ刃形状工具の提案をしたもので、従来の多結晶ダイヤモンド工具と比較して価格は数分の1に低減された。フジキンの「高温250℃対応圧力制御式ガス流量制御器」は15℃から250℃までの広範な温度域で高精度の流量制御を可能としている。東北大学との共同研究の成果であり、性能評価も信頼できる。寺尾機械の「TR多条ネジ」は、1本のボルトにピッチが異なるネジを同時に転造加工して、ナットの緩みを防止することを可能にしたもので、構造の独自性に加えて、加工方法にも独自性が見られる。シモカワの「テーパータック」は、アルミ材の締結作業工程を大幅に改善する方法として、テーパータック挿入とネジ締結を組み合わせた新たな方式を提案したもので、組み付け時間は従来方法に比較して85%短縮され、繰り返し使用が可能などのメリットがある。ハイオスの「PG‐7000トルクセンサー内蔵合否判定ドライバー」は、トルクセンサーを内蔵して、ネジ締めの合否判定と管理を高能率化、高信頼度化したものである。
電気・電子分野
早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏
電気・電子分野では今回もパッケージ関連の部品・材料に優れた成果が見られる。また、センサー類にも見るべきものがあった。この分野の部品は確実に進化していると言えよう。 今回、モノづくり推進会議共同議長賞に輝いた太陽誘電の部品内蔵配線板「EOMIN」は厚さ0.34mmの銅コアに部品を埋め込んでいる。そのため、内蔵部品を外圧から保護するとともに、銅コアは伝導ノイズも低減し、安定的な電源を供給することから、高速に動作する中央演算処理装置(CPU)の安定動作にもつながる。さらに、内蔵部品の接合で銅を使用しているので、ハンダフラッシュ現象もなく信頼性も高く、市場拡大に寄与することが大きい。
また、日本力(にっぽんぶらんど)賞のTDK「積層ギガスパイラビーズ MMZ1005‐Eシリーズ」は金属導体とフェライトを数十回以上積層しコイル状に形成し、同時焼成して製品化される1mm以下の微細部品である。用途は電磁ノイズの放射源となる携帯機器の通信伝送回路に直列に挿入することで、ノイズを除去できる画期的な製品である。今後、携帯電話をはじめとする携帯用デジタル情報家電の高機能化に伴う機器のノイズ除去部品として採用され、機器の小型化、高機能化に貢献するものと思われる。これら2件は他国がまねのできない日本が誇る代表的なモノづくり製品と言ってよいだろう。 パッケージ関連の部品・材料ではNECトーキン「新構造ポリマータンタルキャパシタNeoCapacitorG/PSシリーズ」、三洋半導体「リチウムイオン電池充放電保護回路用MOSFET『EFC4612R』」にレベルの高い成果が見られ小型化・高密度化を達成している。これらの部品・材料は欧州特定有害物規制(RoHs)を十分意識しているのも特徴である。
今回はパッケージ関連部品・材料以外にセンサー類で見るべきものがあった。山武「UVチューブ」は従来海外から輸入していた火炎検知器用センサーを自製したものであり、山武のモノづくりに対する姿勢が評価される。アルプス電気「ピエゾ抵抗式防水タイプMEMS圧力センサ(絶対圧検知)『HSPPA』シリーズ」は従来使用されていた圧力センサーよりも体積比で60%減の小型化がなされ、この種の圧力センサーとしては最薄の商品となっている。スポーツウオッチに採用され市場で高い評価を受けている。
自動車分野
芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏
モノづくりの基盤である「部品」の概念が、どうやら変わり始めたようである。部品といえども「要素部品」もあれば「機能部品」もあるが、さらに部品の構造機能を超えて部品の「企画・研究・開発・生産・保守管理」を統合して取り扱う「経営戦略部品」の考えも出始めている。自動車は本来的に学際的な特性を秘め、しかも物事の伝統的な体系を超える体質を内包しているため、部品のシステム化が進むにつれて概念規定も急激に拡張しているようだ。 さて、今回の自動車部品の全般的な傾向としては高機能化、軽量小型化、電子化、新材料、高質制御がキーイシューズとしてクローズアップされている。部品賞のNTNの「シートリフタ用トルクダイオード」は、トレードオフの関係にある小型・高トルクを構造機能の最適設計によって実現し、座位姿勢での操作性を無段階確保、かつ車体空間設計にも貢献している。
太平洋工業の「光輝フィルム ドアハンドル」は、光輝フィルムのメッキ調意匠と電波透過性機能を両立させた乾式の金属蒸着システム。新たな機能意匠と環境配慮が注目される。アイシン精機の「3分割メタルトップルーフシステム」は、ECUシーケンス制御によりスピードと優雅さとステイタススポーツを実現し、かつベスト価格は世界市場への更なる展開の強みを感じさせる。 奨励賞の小島プレス工業の「自動車外装部品内蔵デジタルテレビアンテナおよび自工程完結ライン」は、構造設計と加工技術の独自性と統合技術の優位さ、車両デザインへの経済的貢献、加えて生産時の環境貢献も評価される。
自動車技術は今、エネ・エコ・ユーズのパラダイムシフトの動きが加速している。モノづくりの量から質への更なる転換を期待したい。
環境関連分野
資源・環境ジャーナリスト 谷口正次氏
いまや、環境を考慮しないモノづくりはありえない。その考慮の仕方には大きく分けて二つある。「環境配慮(A)」と「環境貢献(B)」である。そして、A、Bそれぞれの結果がローカル・ソリューション(1)かグローバル・ソリューション(2)か、言い換えれば、貢献の普遍性、広がりによって分類できる。 評者としては、(B)‐(2)にウエートを置きたい。すなわち、グローバルな環境貢献に期待しているわけである。
さらに、貢献あるいは配慮の内容は三つに分類できる。(a)省エネルギー・温室効果ガス(GHG)削減(b)資源生産性向上(c)廃棄物削減あるいは環境浄化。 このような視点から、最終候補部品をみると、岡藤機工の「排風機発電システム『ウィンドステン』」は(B‐2‐a)。共和レザーの「有機溶剤を使用しない水性ウレタン合成皮革『アクアウィッシュ』」は(A‐1‐c)。ソニーエナジー・デバイスの「無水銀アルカリボタン電池」は(A‐2‐c)であろう。
このうち、唯一「環境貢献(B)」でグローバルな普及の可能性がある「排風機発電システム『ウィンドステン』」を有力視したが、まだ実績面で難点がある。今後の実績拡大が望まれる。対して「無水銀アルカリボタン電池」は「環境配慮(A)」型ではあるが、有害汚染物質水銀を使わない電池はグローバルな課題であり、その普及効果は大きい。そして実績も申し分がない。以上の観点から評価した。
健康・医療機器分野
ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が国内開催された2010年、これまで機械、電気・電子、環境関連部品から選ばれていた モノづくり部品大賞のグランプリが、私が選考にかかわった健康・医療機器分野から選出された。ライフサイエンスのみならず、生物資源の知的、持続的利用の観点からもバイオテクノロジーが世界的に注目され、ゲノム、プロテオーム、メタボローム解析などの新たな生命分析技術が台頭し、モノづくりの世界でも、生物模倣工学などがさまざまに実用化され始めた。今回の顕彰は、時代の潮流を占う、モノづくりの新たなホットスポットとしてとらえることができるかも知れない。 大賞を受賞したのは東芝の「電流検出型DNAチップ」である。従来の蛍光検出方式は、信頼性、簡便性、コスト性などで多くの課題を抱えていたのに対し、同社は電子デバイスに基づくまったく新規の検出技術を開発した。個人のゲノム情報に基づくテーラーメード医療に期待が集まるなか、日本がこれまで蓄積してきた人工物技術と生命研究を融合させた画期的な成果として高く評価することができる。
部品賞を受賞した2件についても、同じ可能性がたたえられている。二重織りした銅布の電位のバリアーで、銅イオン抗菌、接触殺菌、電位殺菌のトリプル効果を形にした「超抗菌マスク用銅布フィルター(DMFP‐05)」は、町工場的なローテク熟練技能と細菌研究の、そして「3D気道解析ソフトウェア」も、情報技術と生体研究の、優れた融合の成果である。 人工物技術と生物技術の融合。それは、新たな日本のモノづくりの光源かも知れない。
生活関連分野
東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏
生活関連の部品は、直接生活に密着するものから、間接的なものまで幅広い応募があった。審査に当たっては、地球環境への負荷に配慮がなされ、その上で、シンプルで機能的にも美しい部品であることを評価の基本的な考えとさせいただいた。
応募部品の傾向としては、ほとんどのモノが、環境への配慮や負荷に言及しており、地球環境への意識を強く感じることができた。その中でも、「ARバグバンパー(ARINIXⅡシリーズ)」(ものづくり生命文明機構理事長賞)は、製品への昆虫異物混入が問題となる建築物の開口部に設置し、薬剤で害虫を根絶するのではなく、安全性の高い忌避成分を樹脂に練りこみ、さらに外観形状を逆U字型にすることで、昆虫を入りにくくした。また、数ある蓄光素材の中で、有田焼の「盛絵具」の技法を使った「高輝度蓄光・蛍光高意匠建材『ルナウェア』」(日本力〈にっぽんぶらんど〉賞)は、群を抜いた高い耐候性と最高クラスの発光性能を両立させた。両者ともに、極めて日本的な発想、技法をさらに美しく昇華させた見事な部品である。
縦方向に10%以上も伸びるファスナー「YKK『SOFLEX』(ソフレックス)」は、誰もが望んでいたものであり、着用感や美しい仕上がりにまで高い効果を発現している。「後施工プレート定着型せん断補強鉄筋(Post‐Head‐bar)」は、コンクリート構造物の地震によるせん断破壊を防ぐための補強鉄筋で、構造物の内側から短納期で補強が可能である。「IHジャー炊飯器用内釜」は、固化炭素材から手作りで削り出し、日産50個程度の生産で価格も高いが、その飯のうまさに市場から圧倒的な支持が寄せられている。これらの部品を見ていると、地球環境だけでなく、細やかで、本質を問う日本らしさも、今回のうれしい傾向といえる。