2011年受賞部品

モノづくり部品大賞

『パラフィン系潜熱蓄熱材エコジュール』

JX日鉱日石エネルギー

製品概要

放出して冷房に活用するというもの。あるホテルの導入事例では、蓄熱量を130%も向上させることに成功。
昼間のピーク電力を5%削減したほか、安い夜間電力を活用することでコストの削減にもつながった。
自動車部品では、ガソリン蒸気の大気放出を抑えるキャニスターに使われている。これはガソリン蒸気を活性炭で捕捉する部品だが、温度変化が激しいと活性炭が劣化していくため、エコジュールが放熱と蓄熱を繰り返し、温度を一定に保つ役割を果たす。今後は「アイドリングストップ」でエアコンが止まった際、代わりに熱を放出する空調用途として、採用が検討されている。
ユニークなところでは、繊維に埋め込み、体温などの熱を蓄えてより温かくなる衣料品にも使われている。医療・医薬品や生け花などの移送用蓄熱材としても用途が広がっている。
今後は住宅・建材市場での展開が有望。壁材に挟み込み、昼に蓄えた太陽熱を夜に放出することで、より高度な省エネ住宅の実現につながる。蓄熱材には無機物を材料とした製品もあるが、エコジュールは耐久性に優れ、交換頻度も少なくて済むことから、同社では十分な競争力を持つと見ている。

Voice
JX日鉱日石エネルギー 常務執行役員 化学品本部長 下山田 孝氏

商品化以前の開発段階から、この商品に期待し、事業化に携わっていました。それだけに、今回の受賞を率直にうれしく思っています。
エコジュールは、省エネルギーや省資源に大きく貢献し、温室効果ガスの抑制効果も併せ持ちます。当社はエネルギーと素材の総合企業であり、エネルギーを効率的かつ安定的に届けるとともに、地球環境との共生を図ることが社会的責任だと心得ています。その意味で、エコジュールはエネルギーの時間的移動、空間的移動を可能にし、電力負荷のピークシフトや機器使用効率の向上、そして自然エネルギーの有効活用に大きく貢献するものです。それだけに、これから多分野で使って頂けると確信しています。
現在はビルの空調設備や自動車部品、衣類、医療用器具などに使われていますが、数量で最も期待しているのは、住宅・建材分野。壁材の蓄熱材などを想定しており、これにより、事業規模を飛躍的に伸ばしていきたいです。

モノづくり日本会議 共同議長賞

『フェライトICタグ(MBT-1003 )』

戸田工業

製品概要

ICタグといえば、ICチップにアンテナ回路を組み合わせたラベル状のイメージが強い。戸田工業の「フェライトICタグ(MBT-1003)」は、同社が得意とするフェライトに巻き線コイルを形成した独自の構造を持つ。従来のICタグでは不可能だった140℃以上の高温プロセスにも対応し、金属に貼り付けると機能しない弱点も克服した。溶剤浸食による性能低下もない。交信距離も60mmを確保している。それでいて設置面積は10mm×3mmと大幅に小型化した。他の形状のICタグと比較すると数十分の1のサイズだが、それ以上の交信距離が得られるという。素材メーカーの同社にとって、これが初の最終製品。
ICタグとしては最も汎用的な13.56MHのz 電磁誘導方式を採用した。開発に着手して足かけ10年になるが、今の形状に落ち着いたのは2006年。フェライト材料では、長年の知見を持つ同社も、ICタグに適した材料に行き着くまでは時間を要した。生産はチップ部品のプロセスである印刷積層工法に手を加え、コストアップ要因になる特殊な設備やプロセスを排した。材料開発のノウハウと構造設計、加工技術がかみ合うことで完成できた。量産工場を大竹事業所(広島県大竹市)に持ち、これまでに累計40万-50万個の販売実績がある。
従来は対応できなかった領域をターゲットに定めた。例えば、工場現場ではクリーンな環境ばかりではない。既存のICタグをクリーンな環境に限定して使用することは可能だが、情報の流れが途絶えてしまう。情報一元管理という意味でもメリットが大きい。金属対応でリフローハンダも可能なので、プリント基板にそのまま実装して使うことも可能だ。MBTシリーズがICタグ市場の裾野を大きく広げる可能性もある。

Voice
戸田工業 取締役社長 戸田 俊行氏

当社は江戸時代末期より200年近くにわたり、さまざまな部品の素材を作り続けてまいりました。今回受賞した製品は、モノづくりの領域を広げるべく、創業当時より培ってきた技術を応用し、素材から部品まで開発したものです。当社の強みを活かすことにより、今までにない世界最小クラスのサイズで金属にも取り付けることができるユニークなフェライトICタグを製品化いたしました。その製品がこのような名誉ある賞をいただいたことは、大変光栄でございます。
当社の製品は、従来のICタグが使えなかった用途でもご利用いただける画期的な製品です。今後ともお客さまのニーズにお応えできるようなモノづくりを続け、皆さまの生活がより豊かなものになるような製品の開発に取り組んでまいります。

ものづくり生命文明機構 理事長賞

『温泉水電解除菌装置』

竹中工務店/東京ドーム・リゾートオペレーションズ(静岡県熱海市)/ナカボーテック

製品概要

竹中工務店、東京ドーム・リゾートオペレーションズ、ナカボーテックが共同開発した「温泉水電解除菌装置」は、塩分を含む温泉そのものを電解水として電気分解し、塩素を発生させる。死に至る重篤な感染症を引き起こすこともあるレジオネラ属菌に対し”薬剤を使わない除菌”を実現した。
一般的な科学知識として、食塩水を電気分解すると陽極(プラス極)に塩素が発生することは有名。基礎的な実験を繰り返して塩素の発生条件を確認し、温泉入浴施設の配管を使って実際に電気分解して効果を検証した。さらに、遊離残留塩素濃度モニタリングによる自動制御方式も実用化し、電極・電解槽の構造を改良、一定時間ごとに電極の極性を変換することで長期間・安定的に効果を発揮する運転方法も見いだした。
対象となる塩化物泉は、国内にある温泉の3割近くを占める。温泉入浴施設のレジオネラ対策としては、液体または固体の塩素剤を投入する方法が一般的。ただ、温泉水の循環・浄化時に薬液を注入するシステムでは、温泉成分との反応で注入ノズルが詰まって感染症が起きている。また、固形剤の人手による投入は利用状況に応じた濃度管理が難しく、カルキ臭が温泉気分を台無しにしてしまうこともあった。
同装置は温泉水循環・浄化システム配管の一部を電解槽として利用する省スペース設計で、厚生労働省による管理指標である1リットル当たり0.2-0.4mgを満たす緻密な塩素濃度管理が簡単にできる。ランニングコストも容量8m3の浴槽で年間2000円弱と安価に抑えられる。

Voice
竹中工務店 技術研究所長 谷口 元氏

温泉水電解除菌装置は、東京ドーム・リゾートオペレーションズ、ナカボーテックの両社と、まさに一体となって開発しました。今回「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞できたことを大変うれしく思います。従来の循環式温泉施設では、塩素剤を投入することで除菌し、レジオネラ属菌対策を行ってきました。この装置は、塩化物泉を電気分解することで塩素を発生させ、それにより除菌できるのではないかという逆転の発想から生まれました。顧客のニーズに的確に応えていくということから開発できた技術だと思います。
私たちは安心・安全かつ環境に配慮した快適な”空間”を創造するという意識で研究開発を行っています。今後もこのような幅広い領域での研究開発に積極的にかかわっていきたいと思います。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

『IH定着ベルト及び温感磁性合金』

富士ゼロックス

製品概要

富士ゼロックスのトナー定着器は、IH(誘導加熱)技術を用いて世界最速3秒での立ち上げを実現した。定着器は電子写真方式の複合機やレーザープリンターに搭載し、用紙上のトナー像を加熱・加圧することで固着させる基幹部品だ。
従来の定着器は、複合機などの印刷速度を上げれば上げるほど、印刷指示後すぐに使えるよう予熱が必要だった。ただ、予熱はムダな熱が多く、製品の省エネルギー化とは相反する。ただ、定着器の消費電力は、複合機全体の大半を占めるため、避けては通れない。この二律背反する要求を満たしたのが、定着器のIH定着ベルトと感温磁性合金だ。
開発したIH定着ベルトなどは、従来より高速で温度を上昇させられ、過度の加熱を防ぐ効果がある。温度制御センサーも併せて搭載して温度管理を徹底することで、安全面にも配慮した。
定着器搭載の複合機販売は順調で、環境負荷軽減に加えて利便性も大きな特徴となり、主力製品に成長しつつある。中核となるIH定着技術の横展開も今後推進していく方針だ。

Voice
富士ゼロックス 代表取締役社長 山本 忠人氏

受賞は大変光栄であり、技術者の大きな励みになります。当社は省エネルギー技術と利便性の追求を続けていますが、今回の製品を実用化するには、樹脂と金属の精密部品加工技術が必須でした。耐久性のある樹脂ベルト製造技術とその上への精密薄膜めっき層の形成技術、また温度公差の小さい感温磁性材料配合技術とその加工熱処理技術からなります。高度な製品を成り立たせている部品技術は、まさに「日本力(にっぽんぶらんど)」の名にふさわしい技術であり、その名の賞をいただいたことに誇りを感じるとともに、技術者の大きな喜びと今後のモチベーションにつながるものです。今後もより優れた省エネ製品を提供し地球環境の保全に貢献していきたいと考えています。

『極微細ねじ加工用エンドミル マイクロねじ切り工具MMTS』

日進工具

製品概要

日進工具の「極微細ねじ加工用エンドミル マイクロねじ切り工具MMTS」は、呼び径0.1mmの雄ネジ・雌ネジの切削加工を可能にした。被削材は樹脂やアルミニウム合金のほか、医療機器や宇宙・衛星関係機器で多く使われるステンレスやチタンにも対応する。
同工具はマシニングセンター(MC)に専用工具を取り付けてネジ加工す る「スレッドミーリング」と呼ぶ方法に対応している。特殊な機械を新たに導入する必要はなく、一般的な高速MCで使用できる。工具の微細化による工具剛性の低下や加工精度の観点から、スレッドミーリング法が有利と考え採用した。
工具のサイズは、刃径60μm(μは100万分の1)、首径30μm、有効長150μmと極小径。一般的に髪の毛の太さが80μmとされ、それよりも細いことになる。
微小部品の結合には接着剤を使うことが多い。ただ、医療機器などの部品の落下や故障が許されない場所には、保険としてネジ止めをする。ネジの微細化は製品のコンパクト化につながる。
微細な加工ではレーザー加工やエッチング加工が多く用いられるが、どちらも2次元的な加工を得意とする。近年はエッチングで3次元形状の製作が可能になってきているが、まだ研究段階で設備も数億円と高額なものが多い。これに対し「マイクロねじ切り工具」は、既存の高速MCで使用でき、設備投資負担が少ない。
同工具による加工時間は下穴などを含めたトータルでも1時間かからない。仮に形彫り放電加工で行った場合、電極の作成などに多くの時間を要する。加工コストの観点からも同工具は優位性がある。

Voice
日進工具 代表取締役社長 後藤 勇氏

今回の受賞に際し、心から御礼申しあげます。 今年、東北地区は誰もが想像すらできなかった大震災に見舞われました。いまだに多くの被災者の方が震災の傷が癒えない状況にあることに、心からお見舞い申しあげます。
当社は、工作機械に取り付けて金属などの切削加工に使われる機械工具、「エンドミル」の専業メーカーです。生産現場においては、多くの若い人材、そして女性が活躍しております。今回の受賞となりましたマイクロネジの開発に携わったのも女性です。
今後ともメード・イン・ジャパンならではの高いクオリティーを維持して人類の生活に資する製品の研究開発に努力していく所存です。今後も皆さんと一緒に東北のモノづくりの力を世界へ発信していきたいと思います。