ものづくり日本会議

2011年講評

機械分野

中部大学教授 総合工学研究所長 稲崎 一郎氏

2011年”超”モノづくり部品大賞の機械分野では、総数29件の応募があった。例年通り工具の応募が多かったが、工作機械がその機能を発揮するための重要な支援部品と考えて積極的に評価している。

日本力(にっぽんぶらんど)賞に輝いた日進工具の「極微細ねじ加工用エンドミル マイクロねじ切り工具MMTS」は、通常のマシニングセンターを使用したスレッドミーリングにより、呼び径0.1mmの雄ネジと雌ネジの加工を世界で初めて可能としたもので、日本独自の技術として高く評価できる。

NTNの「卓上型微細塗布装置」は、先端に特殊加工を施した塗布針に塗布材料を付着させて対象部位に塗布する独自の塗布方式を取り入れた装置である。針の内部に塗布材を通す従来方式と異なるため、目詰まりの発生を完全回避できる。

野上技研の「狭ピッチ液晶デバイスフィルム個型打ち抜き金型」は、同社が培ってきた超精密研削加工技術による高い部品精度と組み立て精度によって、精密で超長寿命(従来の24倍)の金型の製作に成功したものである。

日立ツール/日立製作所の「AVアーバ(防振アーバ)」は、工具アーバー内にダイナミックダンパーを組み込んでビビリ振動発生を抑制することに成功したもので、加工能率と工具寿命の向上に効果的である。

協和精工の「スパイラルPCD(多結晶ダイヤモンド)ボールエンドミル」は、PCDを使用した直径3mm以下のスパイラルギャッシュボールエンドミルを世界で初めて量産化したもので、従来の直刃形状に比べて切削抵抗の低減が著しく、工具寿命の延長が達成された。

アイダエンジニアリングの「大容量 低速・高トルクサーボモータ装置」は、大容量駆動の基幹部品として重要な低速・高トルクサーボモーターを、ダイレクト駆動、エネルギー蓄積装置などの独自なアイデアと技術によって商品化し、省エネ化、小型化(50%)も達成している。プレス加工機などへの幅広い展開が期待できる。

ナノテムの「真空チャック機能および非接触による浮上搬送機能を持つ多孔質セラミックス製テーブル『エアロフィックス』」は、通常の多孔質セラミックスよりも高い気孔率をもつセラミックス(40%以上)を製造する独自の液相焼結法を開発し、これを用いて真空チャック機能と浮上搬送機能を併せ持つテーブルを開発したものである。

前述に加えて、機械分野から4 件が奨励賞に輝いた。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

現在日本が優位にある製品分野の一つに電子部品、特にセラミック電子部品がある。積層技術をベースにした積層インダクター、積層コンデンサー、積層サーミスターなどだ。これらの部品に使用される材料は、強磁性体のフェライトや強誘電体のチタン酸バリウムのセラミックスである。これらのセラミックスは日本発の材料で、日本のセラミックス電子部品産業を支えてきている。

今回、モノづくり日本会議 共同議長賞に輝いた戸田工業の「フェライトICタグ(MBT-1003 )」 は、前述のフェライトを使用しているため、コイルやICチップ接合部への負荷・疲労がなく、他社製のICタグに比べ格段に耐久性に優れている。また、メタ ル層や磁性層を組み合わせて受信感度を上げる技術を導入したことにより、良好な交信距離が得られている。さらにフェライトの高透磁率によって小型にしても 優れた交信距離が得られている。

TDKの「パルストランスALT4532シリーズ」もフェライトを応用したデバイスである。従来はトロイダルのフェライトコアを採用していたが、ここではドラムコアと平板状の二つのフェライトを採用し、自動化を可能とした。従来の手巻きでは不可避だった特性のバラツキなどの問題を解消し、同等性能の従来品に比べ実装面積の大幅な削減を可能としている。

大日本印刷の「不揮発性磁気メモリーパッケージ用シールドメタル」は、非常に薄く、チップより小さいサイズのシールド材を半導体パッケージ内のチップ上に配置した。次世代の不揮発性磁気メモリーパッケージを形成する画期的技術であり、各モジュール製品を小型、薄型化へとダウンサイジングに寄与している。

震災後の節電には、ソディックLEDの「インテリジェント型電力変換・調整素子内蔵『Sodick LED灯SL-1200』」も寄与している。発光ダイオード(LED)蛍光灯の点灯・制御に必要なインテリジェントなAC-DCコンバーターを、低コストでコンパクトな交直電力変換素子部品として独自に開発し、LED蛍光灯内部に組込んだことは、全世界レベルでも評価され、昨今の電力逼迫事情による大幅な電力削減に貢献している。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

東日本大震災、この厳しい大災害が「モノづくり」の根幹を脅かした現実に、改めて思いを寄せながらの審査となった。

自動車分野の部品は、製品と商品の両面をあわせ持つフィールド特性を受けて、基本単位の「要素部品」からシステムとしての機能を付加した「機能部品」、さらにはカーライフの価値観を主張する「付加価値部品」など多様化が進んでいる。また、これまでトレードオフの関係にあった機能や性能を両立させる画期的な新技術が生まれ始めている。

自動車部品賞は3 件。東洋ゴム工業の「低燃費タイヤ”SUPER ECO WALKER”」は、トレードオフの関係にある低燃費化と湿潤路面の制動力確保を高次元で両立させている。コンパウンドとプロファイル、そしてパターンの統合化により、日本初の転がり抵抗30%の低減効果は意義深い。

日本精工の「冷間成形ハブユニット軸受」は、車両の足回りの要であり、独創的な冷間加工で、強度の向上と軽量化、さらに製造時の熱エネルギー削減による環境効果も大である。

大成プラスの「自動車部品用超軽量筐体『ECU BOX』」は、アルミ圧延材と樹脂の一体成形により放熱性・気密性の最適化、大幅な軽量化とコスト低減など部品としての誇りを見る思いがする。

奨励賞は2 件。大和化成の「大型リチウムイオン電池封止部品(ガスケット)」は、フッ素樹脂材を活用した射出薄肉成形技術と品質が注目される。

小島プレス工業の「補助バッテリー搭載用ブラケット/ハイブリッド成形」は、物性論をベースに小型ハイブリッド成形機を実現し、経済性・省エネに効果をもたらしている。

健康・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

東日本大震災に被災した今年、次世代型の熱エネルギー技術が、”超”モノづくり部品大賞のグランプリに選ばれたことは、当然の帰結かも知れない。大容量電力ネットワークの危うさを体験したわが国のエネルギーデザインにおいて、ガスや熱の効率的活用は、急務の課題だからだ。

しかも、JX日鉱日石エネルギーが注目したのは、オフィス、住宅、車など、多様な空調設備に導入可能な潜熱の有効利用である。パラフィンの融解潜熱を冷房用の蓄熱源に最適化した「エコジュール」は、16℃程度の中温冷水で凝固溶融を設定できるため、日常的な生活温度領域での潜熱蓄熱が可能になる。そもそも空調に氷のような低い温度はいらないのだ。潜熱への着眼、材料特性の研究、伝熱性と施工性を考えた小型パック化と、ゼロエミッションビル実現の切り札となる技術として高く評価したい。

また、快適な入浴条件を保ちながら、浴槽中のレジオネラ菌を殺菌する竹中工務店、東京ドーム・リゾートオペレーションズ、ナカボーテックの「温泉水電解除菌装置」が、ものづくり生命文明機構 理事長賞を受賞した。これまで温泉水の殺菌には、次亜塩素酸ナトリウムや塩素剤が用いられてきたが、この装置は温泉水にもともと含まれている塩化物イオンを電気分解し、発生させた塩素を除菌に使うという、「その手があったか」というクレバーな技術。塩化物泉は日本で最も多い泉質であり、温泉地の多い震災被災地復興にも貢献することが期待できる。

そして、厚さ数μm(μは100万分の1)の銅発熱層を内包する厚さ0.3mmの極薄IH定着ベルトを開発した富士ゼロックスが日本力(にっぽんぶらんど)賞を受賞した。そのベルトが搭載されたプリンターの定着器は、世界最速3秒の立ち上げを実現。しかも、アルミや鉄を基材とする従来の厚肉ヒートロールに比べ、熱容量を4分の1-6分の1にまで低減することに成功している。国際的な市場規模を考えた時、その環境貢献性は極めて高いものとなろう。

前処理のいらないるつぼ一基で、あらゆるアルミニウムスクラップを容易に再生できるリサイクル炉を完成させた日本ルツボ、アルミ鋳物部品をパイププレス部品に代替する技術開発に成功した國本工業、敗血症の原因となる毒性成分を吸着により除去する血液体外循環療法を未熟児、新生児に展開できる商品開発を行った東レと、今回の顕彰の特徴は、「省エネの時代から少エネの時代へ」というキーワードでくくれるかも知れない。

生活関連分野

東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏

東日本大震災以後、モノづくりの価値観は大きく変化しているように思う。それは新規な価値観が生まれたということではなく、柳宗悦のいう「用の美」、すなわち「用とは共に物心への用であり、物心は二相ではなく不二である」と言われるような、本来「もの」が持つべき価値観が改めて問われていると言ってもよい。それは、美しく、簡にして明であり、愛着を呼び起こし、また、このような価値観が地球環境を基盤として成立しているモノづくりとも言えるのではなかろうか。

今回は、このような視点を意識しながら審査をさせていただいた。”超”モノづくり部品大賞を受賞したJX日鉱日石エネルギーの「パラフィン系潜熱蓄熱材エコジュール」は、生活温度領域(3-30℃)で潜熱蓄熱が可能で、従来の氷を用いたものより、より効率的に、さらに利用する熱源に応じ、数℃程度の最適な温度範囲で潜熱蓄熱制御が可能である。従来のものとは全く発想の異なる画期的な素材の開発と言える。さらに、パックにすることで、高効率、省設置面積、低環境負荷のシステムをつくり上げ、まさに丁寧で繊細な商材である。

ニシムラの「隠し丁番(アーチ ステルス丁番)」は、プレス成型で加工を行い、施工後もドライバー1本で扉の3次元調整を可能にし、安価で高い施工性を発現させた。

竹中工務店の「伝統木造建築用超塑性亜鉛アルミ合金制震ダンパー」は、施工方法を工夫することで、合金の性能をフルに引き出す。

ともに、部分最適ではなく全体最適な商材を技と工夫で成し遂げている。これらの応募商材は、まさに現代型匠の技の集結とも言えるのではなかろうか。