モノづくり部品大賞
『ecoチップ』
東芝
製品概要
「ecoチップ」は、電源をオンオフするリレースイッチ、キャパシターを組み合わせた電源制御システムにより、家電機器の待機電力をゼロ(注)にするリモコン信号受信と電源制御を行うLSIである。
同社は、エネルギー危機、地球温暖化の対策として、電気製品の省電力化に積極的に取り組んでいる。一般財団法人 省エネルギーセンターの調査報告によれば、一世帯あたりの家電機器の待機電力は、家庭内消費電力の約6%を占める年間285kW/hに達する。この待機電力は、その大半が映像機器、情報通信機器、冷暖房機器によるものであるが、リモコン信号の待受けによる発生が大きな要因となっている。待機電力は、今後のネットワーク機器の家庭への普及に伴い、さらに増大することが予想されている。
多くの家庭では、使わない家電機器の電源プラグを抜くことで節電しているが、デジタルテレビの場合、電源プラグを抜くと録画予約
時にテレビが動作しないという事態が起こってしまう。
そこで、ecoチップは無駄な待機電力をなくし、かつ利便性も確保するために、次のような技術を搭載した。
まず、家電機器の電源プラグを抜いた時と同等の状態を、100V電源部にリレースイッチを搭載し、これをecoチップが制御することで実現した。これにより家電機器は電源部の根元から切断され、AC/DC変換器の損失を含めて、待機電力をゼロにできる。
次に、ecoチップ本体の消費電力を極めて少なくしたことにより、ecoチップの電源をキャパシターから供給することを可能にした。電源部をオフする前に充電すれば、ecoチップは約10時間連続でリモコン信号を受信できる。
このecoチップの消費電力はデジタルテレビの待機電力のおよそ1000分の1に相当する。
更に、ecoチップにタイマー機能、自動起動機能を搭載した。これにより、テレビの録画予約時刻をecoチップが記憶し、リレースイッチによって、自動的に録画の開始、終了動作を行えるようになった。
これらの技術により、ecoチップはリモコンの使い勝手の良さを失うことなく、電源プラグを抜いた時と同等に無駄な消費電力をなくすことができる。
現在、ネットワーク技術や電力技術などを融合したエネルギーの有効利用のしくみを進化させたエネルギーイノベーションの推進が望まれている。ecoチップは省電力化の観点から、このイノベーションを支える一つの有力な技術であり、同社は本成果を生かしてシステムおよび半導体技術をさらに深耕していく。
(注)「エコ待機」モード設定時。約10時間以上待機状態が続くとキャパシターを充電するために約3分間平均0.5W程度の電力を消費する。
Voice
東芝 取締役 代表執行役社長 佐々木 則夫 氏
消費電力の無駄削減
栄誉ある「 モノづくり部品大賞」を賜りましたこと、誠に光栄に存じます。
「ecoチップ」は、リモコン受信部と待機電力をゼロにする制御部を併せ持つ超低消費電力のLSIです。ecoチップを家電機器等の機器に搭載することにより、リモコン操作で電源をオフにした場合でも、待機電力をゼロとすることができるため、電源コンセントを抜いたときと同等な省エネルギー効果の実現が可能になります。当社は、本チップを搭載したデジタル液晶テレビ「レグザ 32BE3」を昨年末に発売し、高い評価をいただいております。
現在のエネルギー事情に鑑み、無駄な消費電力のきめ細かな電力制御技術の開発が強く望まれています。ecoチップは、環境にやさしい、省エネルギーに必要な技術であり、このアイディアを活かし、環境負荷の低い社会の実現に貢献してまいります。
モノづくり日本会議 共同議長賞
『自動車エンジン冷却用ラジエーター「GSR」』
デンソー
製品概要
製品名「GSR」は、グローバル・スタンダード・ラジエーターの略称。名前からも分かるように、新世代自動車用ラジエーターの標準品と位置付ける。
冷却性能を保ったままで、従来製品より寸法、重量とも約40%削減した。燃費向上につながるほか、小型化でエンジンルームの設計自
由度が高まる。ラジエーターは、送風ファンとセットで使われるため、小型化でファンの消費電力も下げられる。
基幹部品である冷却フィンの形状をはじめ、材料から製造方法まで全面的に見直した。フィンの表面には「ルーバー」と呼ぶ細かな突起があり、空気と冷却水が熱交換しやすくなっている。このルーバーの枚数を28%増やし、フィン内の風の流れを改善。薄肉・軽量化して強度を保つため、3層構造になった新しい材料をアルミメーカーと共同で開発した。
機器設計部門をはじめ、生産技術や材料技術とさまざまな担当のエンジニアが集結して形にした製品。この製品を武器にラジエーター世界シェアトップの座を盤石にする考えだ。
Voice
デンソー 熱機器事業部 副事業部長 杉山 俊樹 氏
このたびは「モノづくり日本会議 共同議長賞」の受賞、誠にありがとうございました。
機器本体の設計担当者だけではなく、材料技術、生産技術と、技術陣皆が協力して成し遂げた成果です。受賞は今後の励みにもなります。
この「自動車エンジン冷却用ラジエーター『GSR』」は、新興国を含めた世界中のお客さまに良いものをお届けすることを目標の一つとして開発してまいりました。海外でも調達できる材料を使いながら、従来品に比べ4割軽く、4割小さく、また3割の省電力になる良い製品に仕上がったと自負しております。
これからも、お客さまの期待にしっかりと応えながら、世界中に製品を供給すること、環境と安全に貢献することを使命として取り組んでいきます。
ものづくり生命文明機構 理事長賞
『マイクロバブルフルイド入浴装置』
アイシン精機
製品概要
「快適な新しい入浴形態を提案したかった」(杉山祐司アイシン精機ライフ&アメニティ技術部住宅設備第一グループ先行開発第二チーム主担当)。アイシン精機として、初めての浴室関連製品は、新しい概念の”泡入浴”を実現させる泡生成装置。専用の入浴剤入り湯を浴槽にはり、装置を稼働すると泡が生成される。
最大の特徴は、泡の直径が400μm(μは100万分の1)以下と微細なこと。同1mm以上のジェットバスとは異なり、泡と泡の間に多くの湯を保持できる。これにより暖かいクリーム状の泡を生成。「日本人が入浴に求める暖まり感を満たし、触った感じも心地よい」(杉山氏)。湯の上に泡を乗せるため、湯量は浴槽の半分ほどで済む。また泡がふたの役割をし、湯気がたちにくく「本が読め、携帯電話も操作できる」(同)という。
開発は、装置を浴槽の隅に設置できるよう、いかに小型化するかが課題だった。抹茶の茶せんにヒントを得て、泡をせん断し、微細化する方式を取り入れることで、装置の小型化を実現した。装置内では、まず専用入浴剤入り湯とコンプレッサーから送るエアによって直径5mm程度の大きな泡を生成。それを回転翼によって、せん断して微細化する仕組み。
同装置を搭載した浴槽を、住生活グループのLIXIL(リクシル)が2012年4月に発売した。まずは泡入浴が普及していない日本市場で「広く認知されるようになりたい」(同)。さらに、浴槽入浴の文化がない海外でも「泡入浴という新しいアプローチによって広められたら」(同)と意気込む。
Voice
アイシン精機 常務役員 田内 比登志 氏
今回の受賞、大変うれしく光栄に思っております。私どもは常に「お客さまに喜んでいただけるコトを考え、それをカタチにし、お客さまに届けること」すべてを「ものづくり」と考えています。
「マイクロバブルフルイド入浴装置」は、日本で清浄する場のみへと変化しつつある入浴スタイルを、昔ながらの癒やしやコミュニケーションの場とするため、快適性向上や環境性向上を目指して開発したものです。当社の信頼性の高い自動車部品技術を生かし、非常にきめ細かな泡を、浴槽に組み込むことが可能な小型装置によって生成することで快適な「泡入浴」を実現させました。
今回の需要を励みに、今後もお客さまに喜ばれる商品の開発に取り組んでまいります。
日本力(にっぽんぶらんど)賞
『CNC自動旋盤用4倍速スピンドル「IBスピンドル」』
スズキプレシオン
製品概要
超精密遊星歯車を組み合わせた増速機構を持つユニット。小型自動旋盤に取り付けて使い、機械本体の先端の回転を毎分5000回から4倍の同2万回に増速できる。従来と同等の電力消費量で4倍の数量を加工でき、省エネ効果が高い。ワンタッチで装着できるため、製造現場での段取り時間の短縮や加工機関での流用も可能だ。
軸に対して垂直に装着するタイプ(クロス用)と平行に装着するタイプ(端面用)がある。クロス用は直径50mm、全長200mm、端面用は直径80mm、全長150mmとコンパクトにし、広い加工エリアが維持できるようにした。
遊星歯車機構のスピンドルについては、部品加工と組み立てに高い精度が要求されるため、実用化は難しいとされてきた。同社は、医療機器部品などでの微細加工の経験を生かし、製品化に成功した。
遊星歯車の支柱にマイクロベアリングを用いることで、回転時の駆動抵抗を減らし、振動や回転音を抑えた。回転振れ精度は3μm(μは100万分の1)以内で、精密部品加工に適している。摩擦抵抗を極限まで抑える特殊な形状の歯車を設計開発し採用。本体に熱変異などの影響を与えることなく、単体で高速回転ができる。
スピンドルのみの装着で生産効率を改善できるため、大規模な新規設備投資が難しい中小製造業にとっても、加工コストや生産性などの面で競争力を高める一助になることが期待される。すでに納入先で、医療機器部品の花形のスパナ穴加工や自動車向け量産部品の穴あけドリル加工で、加工時間短縮の実績がある。
Voice
スズキプレシオン 代表取締役会長 鈴木 庸介 氏
当社にとって初めての自社開発製品がこうした評価を受けたのは、非常にうれしいです。増速機構の認知度向上につながると期待しています。国内で部品加工のみを手がけるには厳しい状況が続く中、下請けからメーカーへの脱皮を実現した点で記念すべき製品です。加工を専門にしていたからこそひらめいたと考えます。自社の技術によって、今までにない製品を生み出した経験は今後の励みになります。市場が限られている製品ではありますが、今回の受賞を入り口にビジネスを広げていきたいです。社内の効率化を進め、提案する先を拡大していく予定です。
社員と経営者がともに喜び合える企業を目指しています。高利益を出せる体質にするためにも、自信を持って次の開発に踏み込んでいきたいです。また、他社との連携にも積極的に取り組んでいく予定です。
『清涼飲料ディスペンサ用空中ミキシングノズル』
富士電機
製品概要
対象部品が使用されている清涼飲料ディスペンサは、ファストフード店やファミリーレストランのフリードリンクコーナーなどで主に使用されており、濃縮シロップを炭酸水あるいは冷水などの希釈液と混合して清涼飲料水を供給する製品。濃縮シロップは糖度が高いため、雑菌の増殖は抑制されるが、炭酸水や冷水によって希釈されることにより、雑菌の繁殖しやすい状態となる。
同社では、業界で初めて、ノズル内ではなく、空中でシロップと希釈水を混合してカップ内に飲料を供給する、空中ミキシングノズルの開発に成功し、従来製品と比較して衛生性に優れたオンリーワン技術として市場展開してきた。
今回、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した新型空中ミキシングノズルでは、シロップ用ノズルの先端形状に工夫をこらすことで、シロップの流れに竜巻のような回転力を与え、希釈水とシロップの混合を効率的に行うことを特長としている。更に、専用の洗浄カバーを具備することで、毎日の洗浄を簡単におこなえる機能を付加した。
構造面においては、内部のゴムシール等を一切なくすことで、雑菌の発生し易い隙間を無くすとともに、組立ておよびメンテナンス性向上を両立させた。そして、従来よりも2品種多い6品種のシロップ飲料に対応することを可能としている。さらに、最新の樹脂成型技術(二段階微細射出発泡成型)を導入して、プラスチック部品の多機能化を実現させて、従来20点以上で構成していた機能を1部品に集約することで徹底的な簡素化を行い、組立工数の大幅な削減を行った。
Voice
富士電機 執行役員 食品流通事業本部長 朝日 秀彦 氏
当社の開発した「清涼飲料ディスペンサ用空中ミキシングノズル」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」という名誉ある賞をいただき、大変光栄に思っております。
今回受賞した「空中ミキシングノズル」は、ファミリーレストランやファストフードで活躍している清涼飲料ディスペンサにおいて、食の安全や衛生性の確保、メンテナンス操作の簡略化を実現しました。
また、モノづくりの面においては、最新の成型技術により部品点数を従来の20分の1に抑えることで、環境に優しい部品作りに取り組みました。
今回の受賞を大きな励みとして、今後ともお客さまに喜んでいただけるモノづくりを行い、社会に貢献できる機材の開発に取り組んでまいります。