機械分野
中部大学教授 総合工学研究所長 稲崎 一郎氏
機械分野では、総数36件の応募があった。機械分野への応募製品が他分野での受賞となることもあり、各分野での評価対象がオーバーラップする例が増えている。
「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に輝いたスズキプレシオンの「CNC自動旋盤用4倍速スピンドル『IBスピンドル』」は、遊星歯車機構によって小型回転軸の回転数を4倍に増速することを可能にしたもので、回転振れを3μm(μは100万分の1)以下とし、温度上昇も40℃までに抑えている。同社の精密機械加工技術によって実現されたもので、技術レベルの高さを高く評価した。
例年通り、工具の応募が今回も多かった。日立ツールの「エポックSUSシリーズ」は、切れ刃逃げ面形状と外周刃形状を改良して、工具寿命の延長と切りくずの排出性能を向上させたもので、現場からの評価も高い。日進工具の「硬脆材加工用スクエアエンドミル DCMS」は、切れ刃枚数を増加させて個々の切れ刃に作用する切削力を低減させて切削性能を高めた。それぞれのアイデアは、必ずしも新規なものではないが、その効果を発揮するための細部の工夫によって着実な成果を上げている。これらに加えて、オーエスジー株式会社の「高硬度鋼用超硬ドリルシリーズ」を奨励賞とした。
大阪フォーミングの「E-LOCK四角溶接ナットタイプM4~M10」は、鉄板に溶接して使用する緩み止めナットである。溶接ナット上面に緩み止め用の板バネを取り付けた新たな方式を採用し、生産能率の向上を可能とした。
フジキンの「スティック IGS」は、ガス供給システムの構成要素をモジュール化することによって、設計生産効率を従来の2倍以上に向上したもので、国内半導体メーカーのガス供給システムとして採用が決定している。
三友製作所の「卓上プラズマエッチング装置」は、吸引プラズマという独自の方法によって、以前からの問題点である試料残渣による汚染と発熱を抑制した独創性の高いものである。
マグネスケールの「デジタルゲージ DK800S」は、独自の4条ボールスプラインベアリングの採用により、大幅な耐久性向上に成功している。
ソディックとソディックF.Tの「ワイヤ放電加工機用高速ワイヤ電極 はやぶさ」は、高速、高精度加工を可能として、従来の「高速ワイヤ」と「真鍮ワイヤ」の欠点を解消したもので、価格の面でのメリットも大きい。
不二越の「パワーフィット」は、圧力補償制御方式の採用により、油圧回路でのリリーフバルブを不要として、エネルギー損失を大幅に低減した。
消費電力を著しく低減した三木プーリの「省エネ無励磁ブレーキ BXL-ESモデル」は、奨励賞となった。
電気・電子分野
早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏
電気・電子分野は、時代の要請に応えて省資源技術、省エネルギー技術、エコ技術に関連した電子部品群の応募に優れたものが多かった。
今回の「超モノづくり部品大賞」には、東芝の「ecoチップ」が輝いた。現在、エネルギー危機、地球温暖化の対策として、電気製品の省電力化が求められている。家電製品のリモコン待機時など、未使用時の消費電力は、 家庭内消費電力の6%にも及ぶ。この待機電力の内訳は、映像、情報通信、冷暖房機器が半数以上を占め、リモコンなどの信号待ち受け電力である。東芝は、その点に目を向け、家電製品のリモコン待機電力をほぼゼロに極小化するecoチップシステムを提案した。将来の省エネ社会に貢献するもので特筆に値する。
電気・電子部品賞には、4件を選出した。TDKの「IC内蔵基板 SESUB」は、携帯機器の小型化、薄型化の要求に応えた製品だ。ICベアチップのみを50μ~100μm(μは100万分の1)に薄加工して、基板内に埋め込んだIC内蔵基板である。このIC内蔵基板上に受動部品を実装することで、超小型かつ超低背の機能モジュールが可能となった。当該製品では、ICは薄加工しても機能が確保されることに着目し、この薄加工ICのみを基板内に内蔵することによって、基板厚み300μmを達成している。
大日本印刷の「小型・高信頼性LGAパッケージ用リードフレーム」は、廉価なリードフレームを用いて、最も小型なパッケージながら高信頼性の半導体パッケージを実現した革新的な製品である。従来製品と比べ、容積比で10分の1縮小、面積比で2分の1縮小、厚さ比で4分の1縮小と小型、薄型化を実現した。
島津製作所の「ローノイズ小型固体グリーンレーザモジュール BEAM MATE-LN」は、固体レーザーのマイクロデバイス化と新たな機能を付与する高性能化を目指すものである。乾電池駆動が可能で高効率、低消費電力設計である。
ネツシンの「細管型標準白金抵抗温度計 NSR-U230」は、従来製品が保護管に石英ガラスを用いていたので、割れるなど取り扱いに苦労があったが、世界最小級のセラミックス素子を開発し、この問題を解決している。厳しい温度管理が要求される半導体産業や宇宙航空産業での活用が期待される。
自動車分野
芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏
モノづくりの新たなキーイシューズの展開が始まった。 超モノづくりにふさわしい部品への挑戦であり、部品がシステムそのものの概念を変える可能性が出て来た。
これまでのモノづくりのエンジニアリングは、それぞれの分野の中で、また現実との折り合いの中で適度に割り切りながらつくり出すのが主流であった。しかし、近ごろはサイエンスの発想を可能な限り追究し、さらに製品をこえて、商品としてのソーシャルミッションをも追求する、いわば学際思考のモノづくり部品へのチャレンジがみられる。
その一方で、部品の基本ともいえる構造・機能の徹底追求が行われ、そのすごさに圧倒されるモノづくり部品もみられる。まさに二極化への動きを強く感ずる。
さて、自動車分野の部品では、「モノづくり日本会議 共同議長賞」に、デンソーの「自動車エンジン冷却用ラジエーター『GSR』」がその栄誉に輝いた。熱交換の高性能を確保する薄肉・高強度フィン材の開発と合理的な成形製法、高度な風流れによる熱伝達の向上など、その小型・軽量化と環境対応は、世界に冠たるモノづくりとして評価されよう。
自動車部品賞は、4件がその栄誉に輝いた。小島プレス工業の「電池パックモジュール内蔵コンソールボックス」は、車両の基本構造をベースに高機能の追求と限定空間活用、軽量化とコスト削減、乗員と電池の衝突安全性向上などの最適設計が評価される。
市光工業の「電気自動車用LEDヘッドランプ」は、長寿命確保のため、放熱量および配光最適化設計、消費電力低減設計など基本的条件を追求、デザインの自由度をもたらす配光制御を可能とし、照明性能・軽量化・環境負荷対応など最高レベルの性能を実現している。
日野自動車の「大型商用車用高性能コンパクトな排出ガス浄化システム」は、独創的な浄化協調制御などを駆使して、ディーゼルエンジンのトレードオフの関係にある窒素酸化物と微粒子、そして二酸化炭素を低減、燃費改善の軽量・小型化など、環境負荷の改善と地球温暖化防止への貢献は誠に大である。
太平洋工業の「燃費向上2槽式オイルパン」は、エンジンのオイルパンの役割・機能を最大限に生かす構造を追求している。エンジンのオイル温度制御と油量制御を二層構造により実現したその発想と徹底したその技術は、世界初の意義深いモノづくりとして評価される。
構造・機能の原点に徹するモノづくり、そしてさまざまな先進の学術を統合する学際思考のモノづくり、それぞれへの期待は大きい。
環境関連分野
資源・環境ジャーナリスト 谷口 正次 氏
環境関連分野の応募件数は、合計14件であった。そのうち、他分野の関連として環境に分類されたものが7件、環境が主な分野として分類されたものが7件であった。
審査結果では、超モノづくり部品大賞として、東芝の「ecoチップ」、環境関連部品賞として立山科学工業の「カーボン電極 CNT-V」と、ケーヒンの「二輪車用インジェクター KN-7」を選出した。これら3件は、他分野の関連としての環境である。一方、環境が主として分類された7件のうち、環境関連部品賞に選ばれたのが1件、新領域技術研究所の「高効率・低振動ヘリウム循環装置」だけであった。
環境関連分野の審査を担当するものとしては、後者に分類されたもの、すなわち環境を主としたものの応募が多く、かつ受賞してほしいという期待感があることは否めない。
もっとも、「ecoチップ」は、環境関連を主とした案件としても通用するのではなかろうか。審査の過程で、「カーボン電極 CNT-V」は、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」候補という声も上がったが、環境関連部品賞になった。
いずれにしても、日本力賞候補の案件が多く、しかも競争が激しいほど、好ましいことではなかろうか。
なお、一口に「環境」といっても、きわめて多岐にわたり、モノづくりすべてに関わることなので、なんらかの評価の基準がなくては、あいまいな評価になる傾向がある。そのため、環境分野の案件の評価をするときの、私のおおよその評価基準を紹介しておきたい。
大きく分けて、「(A)環境貢献」か「(B)環境対応」か。バリューチェーンあるいはサプライチェーンの「(1)川上」か「(2)川下」かである。さらに分類すると、「(a)地球温暖化防止」、「(b)生態系・生物多様性保全」、「(c)汚染防止」となろう。
この基準でみると「ecoチップ」は、「A-1-a」となる。「カーボン電極 CNT-V」は、「A-1-C」。この基準で分類した上で、その効果の大きさを評価するわけだが、私自身としては、「A-1系」を「B-2系」より高く評価する傾向にある。
健康・医療機器分野
ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏
イタリアで開催された今年の国際家具見本市「ミラノサローネ」において、海外メディアの注目を集めた日本のバスシステムがある。LIXIL(リクシル)が今春に発売した泡入浴の提案、「フォームスパ」だ。お湯を微細なシャボンに変えることで、画期的な節水と冷めにくさを実現し、しかも幼児が誤って浴槽に落ちても呼吸ができるため、水死を防ぐことができるという優れモノである。
実は、その泡を生成する基盤技術が、「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞した、アイシン精機の「マイクロバブルフルイド入浴装置」である。自動車用の排煙浄化技術を応用し、泡を回転翼でせん断することで、微細で水分量が多いシャボンを生成するという機構だ。泡がお湯の蓋になるため、追い焚きがいらず、温かなクリームに包まれる心地よさは、高いリラクゼーション効果をもたらす。実は、自然界に泡のシェルターの中で生育するアワフキムシという昆虫がいるが、この技術はその合理性、機能性とも整合する、「自然に学ぶものづくり」としても高く評価できる。
健康・医療機器部品賞を受賞したのは、堀場製作所の「pH複合電極用比較電極『イオン液体型比較電極』」と、ジーシーの口腔内細菌の検査キット「サリバチェックミュータンス」である。
前者は、試料と電極液を混合せずに電気を安定化する、ゲル状イオン溶液を採用することで、低伝導率の雨水や純水などを瞬時に、高精度に図れる画期的なシステム。製薬、化学、環境ビジネスの分野で高い貢献が期待できる独創的な技術である。
また、口腔に関わる二大疾患は虫歯と歯周病。口腔の健康を脅かす両者は、全身の健康や生活の質(QOL)にも甚大な影響をもたらす。その原因菌の菌数レベルを簡便に、短時間で測定できる検査キットは、自発的な口腔のセルフケアを促し、虫歯予防の強力なツールとして普及していくに違いない。
この三つの技術に共通しているのは、既存の技術や生活習慣の先入観を見事に覆していることだ。新しいライフスタイルを提案し、実現する技術開発は、これからのモノづくりにおいて極めて重要なフィールドになっていくだろう。
生活関連分野
東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏
今、日本はえたいの知れない閉塞感に包まれている。一人あたりの国内総生産(GDP)は、ドイツやフランス、英国よりも高く、一部の企業は確かに多くの問題を抱えてはいるが、概観するに危機的状況ではない。では、何がその閉塞感を生みだしているのか。それは「もの」の機能だけを追い、「もの」本来の役割、すなわち「もの」は人を豊かにするためにある、という人との関わりが、あらゆる場面で希薄になった結果ではないかと思う。
本来「もの」とは、人との関わりの中で存在感を示すものである。それは「用の美」に代表されるような、無駄なものをそぎ落とし、簡にして明なるものであり、無論、その前提として地球環境に負荷をかけてはならない。その視点からすれば、今回の応募の多くが部品の機能だけを強調し、たとえ部品であっても、それがどのように人との関わりの中で生かされるのかについての訴求は、いささか弱く残念な気がしている。
その中でも、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」となった、富士電機の「清涼飲料ディスペンサ用空中ミキシングノズル」は、まさに日本の技とも言え、爽快感を味わわせていただいた。これは飲料用の2種類以上の粘性の異なる液体を空中で混合することを可能とし、その結果、装置の洗浄性を大幅に向上させ、部品点数を大きく削減し、環境負荷にも貢献するものである。匠の技を汎用的な形にした点でも高く評価できよう。
生活関連部品賞の対象となった、文化シヤッターの「重量シャッター用危害防止装置『エコセーフ』」は、電気的な装置を全く使用せず、機械的なシステムで安全性の高い危害防止装置を実現した。
住友ゴム工業の「木造住宅用制震ダンパー『MIRAIE』(ミライエ)」は、高減衰ゴムと鉄板だけを用いて、地震エネルギーを熱エネルギーに変換させるもので、少ない設置個数で地震の揺れを効率的に吸収する。
三興建設の「マルチ-V工法(パスカル君)」は、下水道の工事を、工事中でも家庭の下水道利用に制限をかけず、低コスト・省スペースな工事を進めるものである。
これら3件は、どれも、求められる機能を原点に立って見直したものであり、思わずニヤリとさせる、簡にして明なる技術と言える。