2013年講評

機械分野

中部大学 特任教授、学監 稲崎 一郎氏

 今回の機械分野には昨年より9件多い45件の応募があった。
 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に輝いたNTNの「パラレルリンク型高速角度制御装置」は、球面リンク機構という独自な要素を組み込み、作動角90°、旋回角360°の広い可動範囲での位置決めを可能にした。
 「機械部品賞」に輝いたのは9件。ケーエスエスの「超コンパクト複合機能(V-Z-θ)アクチュエータ」は、直動、回転、吸着の3動作を一つのユニットで可能にしたもので、機構の複合化で今までに例がない機械部品を実現した。日本精工の「ダブルナット冷却ボールねじ」は、各種機械のテーブル駆動機構として多用されるボールネジの熱膨張抑制を、ナットの冷却によって成功させた。これらは高機能な機械部品としてわが国が誇れるものである。
 工作機械用部品では、日本ジャバラ工業の「テレスコカバー用衝撃吸収装置”DICシステム”」、椿本チエインの「つばきケーブルベヤ TKZP形」が機械部品賞となった。テレスコカバー用衝撃吸収装置は、工作機械のテーブル案内面を保護するテレスコカバーの伸縮時に発生する衝撃と騒音を抑制するコンパクトな構造のダンパーだ。ケーブルベヤは、シート状態の樹脂を折り曲げてジップ部を閉じるだけでケーブルやホースを収納できる簡便で新規な構造。
 今回も工具関連の応募が多かった。日立ツールの「エポックハイハードボール」は、ボールエンドミルの刃先形状に改良を加えて加工能率の向上を達成した。不二越の「アクアドリルEXフラットシリーズ」は、曲面や傾斜面に穴あけ加工をする際のドリル先端の横すべりを防止するため、先端形状をフラットにした独自な刃先形状を持つ。新世代加工システムの「金型磨き加工の無人化ツール『機上ポリッシングツール』」は、マシニングセンターの主軸に取り付けて金型の磨き加工を可能にし、磨き加工の手作業から機械加工への一部置き換えを可能にした。
 ソディックの「TMMアンプ」は、モーター駆動電流を高周波応答でかつ高電圧で制御することを可能にしたモータードライブ用アンプだ。オリエンタルモーターの「スピードコントロールユニットNexBL UStype BMUシリーズ」は、各種産業機械に使用されるモーターを多面的に高性能化したものである。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

 電気・電子分野では、時代の要請に応えて省資源や省エネルギー、エコ技術に関連した優れた応募部品が多かった。東芝テックの「消せるLoopsトナーと低温定着器ユニット」が「大賞」に輝いた。従来の印刷複合機を対象とした環境評価によれば、機械本体の生産や使用による環境負荷より紙の生産や消費に伴う負荷の方が大きい。当該部品は複合機の機能を向上させつつ環境性能を飛躍的に改善するイノベーションを実現しており、省エネ・エコ社会への貢献が期待される。
 「電気・電子部品賞」には5件を選出した。
 アルプス電気の「小型地磁気センサ『HSCDシリーズ』ワイドダイナミックレンジタイプ」は、高度な半導体技術を、プロセス技術により制御ICのチップサイズを小型化し、センサー素子と制御ICを超小型LGA(ランドグリッドアレイ)パッケージに実装した結果、体積で95%、電流も90%のダウンを実現している。
 TDKの「絶縁型双方向DC-DCコンバータ『EZA2500』」は従来、昇圧用と降圧用と2台必要としたDC-DCコンバーターを1台で実現し、高速で高効率な昇降圧双方の電圧変換を可能としている。
 フジキンの「フローレシオコントローラ(FRC)」は、従来のマスフローコントローラーに代わり、減圧プロセスにおける半導体製造装置の中で数多く使用される同社製圧力制御式流量コントローラーによって制御したガスを高精度に分流するユニットを開発、半導体製造プロセスの信頼性などの向上に貢献する。
 パナソニックの「超高密度 部品縦埋め基板を用いた『BGA電流プローブ』」は、超大規模・多ピンの半導体集積回路における電源ピンやグラウンドピンに流れる電流をピンごとに直接測定する画期的な手法を実現した。半導体集積回路および応用システムの高安定化設計技法の一般化に多大な貢献が期待される。
 岡野製作所の「マイクロハクマク圧力センサ」は、種々の真空プロセスで適切な真空環境をつくり出し、維持するための圧力・温度分布の計測が可能。水銀を使わない新規材料TaAlN薄膜を用いた地球にやさしい真空計として期待される。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

 「モノづくり」、そこには優れた技術と感動がある。これら先進の技術は、企業の実績を越えて社会の誇りとなり、広く国際的な意義をもつ。
 モビリティーを支える自動車技術は、航空機や船舶の「点のモビリティー」や鉄道による「線のモビリティー」とは異なり、いわゆる「面のモビリティー」が対象となり固有の課題をもつ。そこでは、移動力、居住力、価格力、美感力、そして何よりも安全力そして環境力が鍵となる。
 「モノづくり日本会議 共同議長賞」の栄誉に輝いた小糸製作所の「ADB(配光可変ヘッドランプ)」は、夜間の安全・安心を支える本質的かつ先進の情報授受を光学技術と制御技術により実現、さらにヒューマン・マシン・インターフェースのさらなる革新へのリードアイテムとしても期待される。
 「自動車部品賞」は3件がその栄誉に輝いた。これらは、いずれもモノづくりへのチャレンジ精神を秘めた設計現場と製造現場の連携による意義深い成果である。
 ジェイテクトの「アイドルストップ用電動オイルポンプ」は、燃費・環境対応のアイドルストップの意義に注目して、最適制御により納得のゆく動特性を創出。樹脂材構造による小型軽量化さらに低コスト化を実現し、一層の普及が期待されている。
 平安製作所の「センシング機能一体化CVT用ピストン」は、高精度の肉厚高強度鋼板の成形技術を駆使し、無段変速機(CVT)のピストンと回転センシングカップを一体化。この世界初の成果には、独自の成形技術と低コスト・軽量化の徹底がみられる。省エネ・省資源・環境配慮への社会的要請に応えようとする強い信念がもたらしたものともいえよう。
 トヨタ紡織の「表皮一体発泡工法を用いたスポーツシート」は、新製造工法により優れた機能性とデザイン性を高次元で統合している。高級車への採用を契機に、シートの理論に基づくあらゆる分野のシートづくりへの展開が期待される。
 最後に、今回応募されたそれぞれのモノづくり技術を理解すべく繰り返し読み込むにつれ、現場の取り組みへの真剣さとそのすごさに感動した。ここに敬意を表したい。

環境関連分野

資源・環境ジャーナリスト 谷口 正次 氏

 21世紀になり、地下資源、生物資源など地球の自然資本の減耗は急速に進み、その限界がみえてきた。今年度の環境関連分野の評価基準は、この自然資本という観点から、その減耗をどれほど抑制するものであるかということを重点に審査した。
 当初、環境関連としても分類された東芝テックの「消せるLoopsトナーと低温定着器ユニット」は、最終的に電気・電子分野で審議され、「大賞」を受賞することになった。それは、本件が電気・電子分野の対象としても極めて優れていたためであることは言うまでもない。しかし、環境分野として大賞を受賞してもおかしくない部品であった。理由は、コピー用紙の大幅節減による紙のサプライチェーンの最上流における自然資本減耗抑制効果である。
 「10周年記念賞」に選ばれたエコホールディングスの「シェルターバッグ」は、福島第一原発事故による汚染土壌浄化という喫緊の課題に効果的に対応する部品で、とくにメタンガス爆発による放射性物質の大気中への飛散防止効果を評価したい。劣化した日本の国土という自然資本を復元する意味で価値がある。
 「環境関連部品賞」は5件。
 太平洋工業の「超軽量・発泡成形エンジンカバー」は、自動車の永遠の課題である軽量化による車体移動に要するエネルギー低減効果への評価である。
 河西工業の「遮熱ヘッドライニング」は、車内のエアコンディショニングの効率化による大きな省エネ効果に対する評価である。  サトーホールディングスの「燃焼時に発生するCO2を削減するラベル『エコナノ』」の審査を通じて、世界で使用されるラベルの種類・数量は膨大なものと推測できる。同部品は、ラベル燃焼時にCO2を削減できることが大変ユニークである。
 マイウッド・ツーの「純国産重歩行フローリング」は、安い輸入外材に品質的、経済的に対抗できる国産材によるもので、わが国林業の活性化、外材の産地の環境保護の双方で好ましい。
 大阪ガス、トーヨーカネツ、新日鉄住金の「LNGタンク用7%ニッケル-TMCP鋼板」は、採掘するとき環境破壊が大きいニッケルの消費量を減らす価値が多大であることから選んだ。

健康・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

 今、話題の”アベノミクス特区”でも喧伝されているようにライフサイエンス領域の技術開発は、日本が深掘りすべきホットスポットである。10周年を迎えたモノづくり部品大賞でも、健康・医療機器分野には数多くの素晴らしい技術が集まった。
 「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞した、東芝メディカルシステムズのX線コンピューター断層撮影装置(CT)向け「AIDR 3D」は、診断に支障をきたす画像のノイズ成分を抽出するモデルとソフトを開発し、X線の被ばく線量を、なんと最大75%削減する快挙を成し遂げた。ビジネスとしてのインパクトも巨大で、「さすが東芝」とたたえたくなる王者の技術である。
 ネツシンが開発した「極最小型白金抵抗素子『NES-OV45』」は、温度センサーを直接液体に浸漬できる工夫を重ね、微小な液体をも測温の対象とすることを可能とした。DNA研究やiPS細胞(万能細胞)の培養研究に貢献するだけでなく、バイオ以外の微小な測定対象を扱う分野にも広がっていくだろう。
 同様に、島津製作所の「小動物血漿・血球分離用遠心ディスク『CD-Well』」は、導入した放射性元素の挙動を高感度に測定して高分解能画像を提供できる画期的な診断機器で、がんやさまざまな疾病の早期発見に有用なだけでなく、生体の分子、細胞レベルの機能解明に幅広く貢献することが期待される。
 「10周年記念賞」を受賞した八光の「胎児シャント」は、胎児胸水を排出する世界初の医療機器で、胎児の出生率を高める確実に高めることから、新興国にも普及していくだろう。キッズデザイン協議会主催の顕彰制度「キッズデザイン賞」の審査委員長の立場からも、「胎児のためのシャントが必要だ」と決意した同社に心からの賛辞を贈りたい。
 最後に特筆したいのは、山科精器の「内視鏡用洗浄吸引カテーテル『エンドシャワー』」である。診断者の操作性の向上と、患者への低侵襲検査を実現したのは、噴射機構のデザインにある。しかも同社は、工作機械や熱交換器を手掛けてきた異分野業界からの医療機器分野への参画。技術と技能を持つ製造業が、ホットスポットであるライフサイエンス分野に進出した模範例として、同社もたたえたい。

生活関連分野

東北大学大学院 教授 石田 秀輝氏

 部品は無論のこと高度な機能を備えていなければならないが、それを突き詰めていけば余分なぜい肉は削がれ、部品自身が美しさを放つようになる。それがまた人を惹きつけるのだと思う。
 今回、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に選ばれたスギノマシンの「バイオマスナノファイバー『BiNFi-s』」は、その思いを強くさせてくれた。例えばBiNFi-sの一つ、セルロースナノファイバーはすべての植物の基本骨格物質であり、地球上には1兆tを超える蓄積があり、鉄の10倍の強度を有し、重さは5分の1。こんな素晴らしい素材がありながらなぜ使えなかったのか。それは、使いこなす技術が確立されていなかったからに他ならない。BiNFi-sは、有機溶媒を使わず、超高圧のウオータージェットで超極細繊維をつくり、懸濁液からフィルム、ペースト状などの形状への加工が容易で、その用途を一気に広げられる可能性を有する。地球環境や技術、将来への夢など、どの視点から見てもその美しさを放っているといっても過言ではなかろう。
 「生活関連部品賞」に選ばれた、池山メディカルジャパンの「オーダーメイド人工乳房」、サンエツ金属の「耐脱亜鉛黄銅棒Z00」、富士電機の「パルス駆動型電子膨張弁」、フジデノロの「人工炭酸泉生成装置(デノロ・ビーダ)」はどれも力任せではなく、本質的視点からのアプローチの成果であり、「なるほど」と思わず膝を打ちたくなるような匠の心と技を感じさせるものばかりであった。
 「奨励賞」に選ばれたJX日鉱日石エネルギーの「不織布 難燃ミライフ」、文化シヤッターの「簡易型止水シート 止めピタ」も同様である。
 今回、選出された部品に共通するものは、原理原則に基づき、簡にして明で、従来の常識にとらわれない独自の視点(物差し)を持っていることである。まさに、日本の匠の原点とも言える。地球環境のことを真剣に考え、同時に人を豊かにするための商材に求められる部品としての要求を満足することを真剣に考えると、このようなものが出来上がるのだろう。審査委員でありながら、たくさんのことを学ばせて頂いた「部品」に心から感謝したいと思う。