ものづくり日本会議

2014年講評

機械分野

中部大学理事・名誉教授、慶應義塾大学名誉教授 稲崎 一郎氏

今回、機械分野では34件の応募があった。
 オムロンの「微細電鋳プローブピン」は電気・電子部門でも高い評価を得て日本力(にっぽんぶらんど)賞に輝いた。材料の開発と独自の電鋳加工技術を適用し、高密度の実装端子を持つ電子部品検査用プローブピンの微細化に成功した。検査用ジグの高密度化、長寿命、検査時間短縮を達成し、応用範囲が広い。
 三協オイルレス工業の「自動車プレス金型用カムユニット」は、プレス金型に取り付けて、プレス下向きの力を斜め方向に変換してパネルに対して垂直の角度から穴あけや切断を可能にする金型構成部品。強度向上、軽量化、互換性の向上、摺動部材の改善によって効果的にコンパクト化が図られている。
 今年も高性能工具の申請が多く、部品大賞事業を特徴づけた。日立ツールの「アルファボール」は、刃先交換式ボールエンドミルで初めて4枚刃を実現。多刃化で従来の2枚刃に比べて同じ切削速度の下で加工能率、工具寿命2倍を達成した。日進工具の焼結ダイヤモンド(PCD)を使用したエンドミル工具も注目だ。金属加工現場からのニーズが高い水溶性、不水溶性の汚れの両方に有効な洗浄剤(JX日鉱日石エネルギー)が部品賞となった。工具や切削液など、加工現場を支える縁の下の力持ちともいえる製品が、わが国の高い製造技術を支えている。部品大賞事業の意義が改めて認識される。
 空圧機器の電動化を目指し、低コスト化と電動化による省エネルギ-化を実現した安川電機のACサーボドライブも注目だ。三菱電機の「高収束スキャン光学系」は、高密度多層プリント配線板の微細孔加工に使用するレーザー穴あけ装置に搭載する光学部品。従来の紫外レーザーに代わって波長が長い炭酸ガスレーザーを使用して生産性を向上した。スギノマシンの「スターバースト minimo」は、同社が得意とする超高圧噴射を用いて電子材料や化粧品、医薬品のもととなる素材粒子を1μm以下に粉砕する装置。広範囲な応用が期待される。
 応募書類を見渡すと、熱意をもって作成されたものとそうでないものとの差が大きいことが気になる。少なくとも評価をするに必要な情報を記述することは必須だ。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

電気・電子分野では省資源や省エネルギー、エコ技術の高度化が進み、優れた応募部品が多かった。
 東芝の「重粒子線がん治療装置用超伝導磁石」が「モノづくり日本会議 共同議長賞」に輝いた。本部品は重粒子線がん治療装置でビーム輸送用電磁石として使われ、特に回転ガントリーの小型・軽量化に大きく貢献する。重粒子線がん治療装置に超伝導電磁石を採用したのは世界初の事例となる。これにより電磁石電源の容量は従来の常伝導のものと比べて約30%にまで低減でき、電磁石全体での電力消費量も約3分の2とする省エネルギー化を実現した。
 「電気・電子部品賞」には4件を選出した。
 村田製作所の「ショックセンサ(加速度センサ)」は外部から加わった加速度(衝撃)を検知し、加速度に比例した電気信号を発生させるセンサーである。ハードディスクドライブではデータの保護用途に、自動車関係ではタイヤ空気圧監視システム(TPMS)のウエークアップに使用される。自動車が動いているときのみTPMSモジュールを駆動し、省電力化に貢献している。
 TDKの「車載イーサネット用コモンモードフィルタ」は差動伝送方式の一つであるイーサネットのコモンモードノイズを除去する製品である。優れたモード変換特性を持つコモンモードフィルターは車載イーサネットの普及を確実に後押しするものだ。自動車の軽量化ひいては燃費の改善や衝突防止などの安全性向上、車内マルチメディアによる快適性の向上に貢献する。
 オリエンタルモーターの「αSTEP アブソリュートセンサ搭載AZシリーズ」は各種産業用に使用されるステッピングモーターである。高精度樹脂部品の採用と小型化にこだわった機構設計を行い、磁気センサーを併用することで、小型で安価な多回転アブソリュートセンサーの開発に成功した。使い勝手が向上し、好評を得ている。
 ノリタケカンパニーリミテドの「金属セラミック基板」は次世代の電気自動車や発電所などの高効率電力変換に用いる次世代パワー半導体デバイス用の放熱基板である。金属箔を使わずに独自の銅ペーストの印刷法を用いた部品であり、高速スイッチングの次世代電力変換システムを下支えする、まさに最先端分野の縁の下の力持ちである。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

日本のモノづくり産業の「安全・環境・エネルギー」への真摯なる取り組みは、地域を越え・国を越え・国際社会への誇りある貢献へとつながりはじめた。クルマづくりの技術は、この流れのなかにある。これからは、単線のテクノロジーを越え、目的志向の「ハードウエア」「ソフトウエア」「マインドウエア」への学際的な取り組みがより一層重要になろう。しかもさまざまな分野とのつながりをもつモノづくりへの展開が不可欠である。
 「ものづくり生命文明機構 理事長賞」の栄誉に輝いた住友ゴム工業の「100%石油外天然資源タイヤ『エナセーブ100』」は、環境保全の自動車社会をひらく世界初の先進的な技術として評価される。タイヤは自動車そのものであり本質的な基幹部品である。「エナセーブ100」は車両の運動性能や快適性などの力学特性を確保し、100%天然資源化へのチャレンジとその実現は真に尊い。
 「自動車部品賞」は3件がその栄誉に輝いた。いずれも明確な目的志向と徹底したチャレンジであり、その成果は高く評価される。  NTNの「ダイレクトアダプティブステアリング用メカニカルクラッチユニット」は、電子式のステア・バイ・ワイヤ操舵方式のバックアップシステムであり、万一の場合に操舵機構を連結して安全性を確保する。電磁クラッチなどの優れた応答特性と信頼性を重視し、かつ経済性などを確保している。
 デンソーの「COA HVAC」は、小型軽量化、消費電力低減、騒音レベル低減などを実現した車両用エアコン。その性能・機能・構造・コストなどのトレードオフを巧みに乗り越えた世界トップレベルの造りを実現している。  島津製作所の「エンジン燃焼発光計測用光プローブExDop」は、量産エンジンの現場における各種走行負荷時の燃焼計測を実現し、高性能にして廉価なる実用の道をひらいている。
 最後に、今回応募されたそれぞれのモノづくり部品につき、その斬新なアイデアや真摯な取り組みそして成果など、改めてモノづくりのすごさと魅力を拝見し、ここに衷心よりの敬意を表する次第である。

環境関連分野

資源・環境ジャーナリスト、京都大学大学院特任教授 谷口 正次 氏

昨年より、有限な地下資源、生物資源、水資源、生態系、土地といった自然資本の減耗・劣化防止と、温暖化ガス排出抑制にどれだけ積極的に貢献するかということを審査基準とすることにしている。
 大賞に決定したパナソニックの「家庭用燃料電池の『基材レス ガス拡散層(GDL)』の開発と実用化」は世界的に期待されている水素社会創生に向けた重要な燃料電池システムの進化に貢献大ということで選定した。ものづくり生命文明機構理事長賞の住友ゴム工業「100%石油外天然資源タイヤ『エナセーブ100』」は、高機能バイオマス材料の開発に成功し、100%脱化石燃料資源を達成。本部品はその性能、経済性から自動車分野の審査でも非常に高い評価を得ている。島津製作所の「エンジン燃焼発光計測用光プローブExDop」も自動車分野で高評価を得た。
 環境関連分野一次審査で候補に挙がった7件の内5件が機械分野、自動車分野そして生活関連分野でも高評価で選定され、そのうち、3件はそれらの分野で受賞することになり、4件が環境関連分野での受賞となった。このことは、全分野で環境関連部品が入賞したことになるわけで、日本のものつくりにおいて地球環境を意識したパラダイム・シフトが始まっていることを示す事象で大変望ましい傾向であると考える。
 環境関連分野から特別賞候補にもう一つ、ソディックLEDの「水銀灯代替LED大光量単一光源型投光器」を挙げたが、惜しくも部品賞にとどまった。折しも青色LEDの基盤技術がノーベル賞を授与されたこともあり、日本発で世界の市場拡大とともに省エネルギー、温暖化ガス排出削減に大きく寄与するものと期待したい。
 なお、きらりと光った部品が、ロスフィーの「フラクタルひよけ」。ヒートアイランド抑制だけでなく、自然界のフラクタル構造を模倣した人工的な森の木漏れ日により快適な空間を演出する。この木漏れ日を浴びた人間の基幹脳を刺激して人をストレスフリーにする効果があると評価したい。
 なお、今後の日本のものつくり産業に対しては、自然資本の有限性を強く意識した経営を期待したい。将来世代のために。

健康・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

健康・医療機器部門から、東芝の「重粒子線がん治療装置用超伝導電磁石」が、モノづくり日本会議共同議長賞を受賞した。重粒子線がん治療とは、炭素イオンビームを加速してがん細胞に照射する放射線治療で、深部にあるがんにピンポイントで照射できるため、周りの正常細胞を傷つけにくく、がん細胞の殺傷能力も高い。しかし、その半面、粒子線を輸送、制御するために高い磁場を必要とするため、装置が大型化することが課題となっていた。同社は、強力な磁場を作り出せる超伝導コイルを世界で初めて採用することで、回転ガントリーの大幅な小型化、軽量化、省エネルギー化を実現した。導入医療施設のコンパクト化に貢献する画期的な技術である。
 同グループの東芝メディカルシステムズが開発した被ばく線量モニタリングシステム「DoseRite DTS」も極めて優れている。見えないX線や被ばく線量をリアルタイムでカラーマップとして可視化することで、患者の見えない不安を解消し、過剰被ばくを防ぐことを可能にした。放射線皮膚障害の合併症リスクを低減させ、患者にやさしい循環器医療の普及を、国内外で促していくものと期待される。
 人にやさしい技術がもう二つ、部品賞を受賞している。一つは、ツキオカフィルム製薬の「下痢止めフィルム剤」。セルロース系の基材に下痢止め成分を加え、フィルムに薄くコーティングした製品は、水なし服用と携帯性を実現する。
 そして私の一押しは、子どもでも安全に使えるデザインに配慮した、岡村製作所の点滴スタンド「divo」である。患児と介助者が一緒にどこからでも握れる、歩行の際の持ちやすさと小物掛けに配慮した丸いハンドル、子どもが勝手に調整することを防ぐ、一見ストッパーとはわからない安全ストッパーの形状、壁に沿わせて輸液をフックに掛けられる、業界初のリング状輸液フック、そして看護師が説明しやすい、五色展開の美しいカラーリングと、子ども視点、子ども目線を徹底的に取り入れた優れた製品である。 医療現場におけるキッズデザインの模範演技として、開発者に深い敬意を捧げたいと思う。

生活関連分野

東北大学 名誉教授、地球村研究室 代表 石田 秀輝氏

 生活関連部品とは、無論、生活関連用品の部品を主なものとするが、生活そのものを構成する部品でもあると考えている。そしてそれは、機能的であることは無論、劣化を続けている地球環境にも配慮され、美しくなくてはならない。
 日本力(にっぽんぶらんど)賞に選ばれた止水ドア「アクアード」は、一般的なスチールドアと同等の軽い操作性を有しながら、簡単に止水でき、厚さ4cmのドア厚でありながら水深3m時にかかる約3.7トンの水圧にも耐えるという。無論低コストで、特定防火設備としても対応可能である。これは、「止水グレモン」で扉を枠に密着させ、2重構造の止水ゴムで止水するという、簡にして明なる技術の成果であり、まさに日本力賞に値する。
 生活関連部品賞の3件も、日本の部品らしく、力任せではなく、なるほどと膝を打つような創意と工夫の賜物である。その中でも、樽生ビールディスペンサーのカランに装着する部品はたった1.3gであり、これをビールの泡の注ぎ口に装着することで、泡が15%も消えにくくなり、飲用時の口当たりも良くなるという。コーヒーサーバー用の小型高効率コーヒーミルは、従来のものに比べ、粉砕時のカッターの回転数を1/5にし、消費電力を1/4に、重さを1/3にし、さらに抽出部の清掃回数を最大1/20にまで削減した。シートシャッター用防虫設備「バグシールド」は、建物内に侵入した飛来侵入昆虫を誘虫燈で誘因、シャッター左右の捕虫器で吸い込み捕獲し、さらにその排気で歩行侵入昆虫を吹き飛ばすというもので、薬剤を使わず従来の約10倍の捕虫力を持つという。
 どれもが、従来の延長ではなく、視点を変えた発想が生み出した新しい価値観である。それがシンプルでより効率的で、地球環境負荷の低い部品として新しい形をつくっている。モノ離れが危惧される中、今求められる商材はブラックボックスだらけのものではなく、それを使う人たちが理解でき、自分で操作し、時によってはその使い方さえ自分たちで工夫できるものではないかと最近強く感じている。それこそが、人の心を豊かにする新しいモノづくりの価値のようにも思う。