2015年講評

機械分野

中部大学理事・名誉教授、慶應義塾大学名誉教授 稲崎 一郎氏

2015年”超”モノづくり部品大賞に機械分野では昨年より10件以上多い45件の応募があった。例年通り工具関連の申請が多いが、日本のモノづくりを支える基盤部品の一つとして心強い。IT、IoT、AMなど新たな技術名を耳にするが、これらを実践する上で基軸となるのは機械装置・設備である。この分野でこれまで築き上げてきた日本の技術力を維持・発展させることが重要で、本賞の意義と役割は大きい。
島津製作所の「ファイバ結合型高輝度青色ダイレクトダイオードレーザ」は、世界で初めて加工用のGaN系青色半導体レーザーを開発したもので大賞に輝いた。独自技術によってフレキシブルに伝送可能なファイバ結合型としているため、自由度の高い取り回しが可能。さらなる高出力化によって次世代レーザー加工光源として期待される。
ものづくり生命文明機構理事長賞には日本精工の「微細操作用『マニピュレーションシステム』」が決まった。同社が得意とする精密機械要素に圧電素子、画図処理技術を活用して微細操作作業を高度化した。バイオ分野への展開が期待される。
部品賞には以下の7件が決まった。穀物などを貯蔵しているサイロから、粉粒状の搬送物をトラックなどに排出する際の発塵を抑制する「ダストレスシュート」(日立プラントメカニクス)、従来製品と同等の性能を維持しつつ、顕著な小型軽量化、低価格化を達成した「高速度カメラ」(フォトロン)、従来の歪ゲージに代わり、トルクの検出に静電容量方式を採用して大幅なコストダウンと軽量化を達成した「トルクセンサ」(第一精工)、従来の3ポート弁と同流量を維持しつつ顕著な小型化、軽量化を図った「超小形3ポート弁」(コガネイ)。
加えて工具関連で、ユーザーの要求に応える多様な切れ刃形状の工具を短納期で納める一貫システムを構築したソディック エフ・ティの「微細加工用PCD工具」、独自な切れ刃部形状(両面Z形状)で、大きなすくい角を与えたままで使用可能なコーナー数を2倍にした三菱マテリアルの「汎用正面フライス用切削工具」、高硬度被膜によって工具性能を向上させた三菱日立ツールの「AJコーティング難削材加工用インサート」が受賞した。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏

世界のテクノロジー市場の中で、日本企業が今後も継続的に高い競争力を発揮できる分野の一つが電子部品市場であると考えられる。スマートフォンやタブレット端末(携帯型情報端末)などの成長市場においても、日本の電子部品なくしては生産不可能と言われるほど日本の電子部品の存在感は大きい。
現在、日本が優位にある電子部品の一つが積層セラミック電子部品である。この部品は究極のモノづくり技術である積層技術をベースにした積層インダクター、積層コンデンサーなどである。
これらの部品に使用される材料は強磁性体のフェライトや強誘電体のチタン酸バリウムのセラミックスである。これらのセラミックスは日本発のオリジナルな材料である。
すなわち、フェライトは1930年に東京工業大学の加藤、武井両博士により、また、チタン酸バリウムは44年、電気試験所の小川、和久両博士らの発明・発見によるものである。これらのセラミックスは日本のセラミック電子部品を支えてきた双璧ともいえる。
積層部品では1μm以下のシートを数百枚も積むというユニークな積層技術が、他国が真似できない日本特有の技術であって、スマートフォンやテレビの部品として圧倒的なシェアを誇っている。スマートフォンなどの小型化に伴い、チップサイズも年々小さくなっている。今回TDKが受賞した日本力(にっぽんぶらんど)賞は積層ダイプレクサー製品に関するものである。世界最小クラス(1.0mm×0.5mm)で低挿入損失、高効率を実現している。
電気・電子部品賞には4件が選ばれているが、これらに共通した技術は省エネ、省資源、エコ技術であり、多くの成果が得られている。今後発展が期待される自動車産業、ロボット産業などではセンサー技術に見るべきものがあった。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

時代は激しく動いている。国際社会の政治・経済はもとより倫理・文化、さらには気象の源に至るまで、事の限りがないほどである。
この激動の中にあって、モノづくりの領域は誠に着実であり、カタストロフィックな動きは存在しない。人類社会の豊かな生活・経済を支える原点としての歩みが重要である。
モノづくり日本会議共同議長賞は、アイシン精機の「高効率・大減速比を実現する小型アクチュエータ」がその栄誉に輝いた。アクチュエータの新たな道を開く発想と理論、成形技術は、高効率にして小型軽量化をもたらし、環境優位性・寿命優位性・信頼優位性などその意義は誠に大である。
日刊工業新聞創刊100周年記念賞の栄誉に輝いたキャタラーの「燃料電池電極触媒」は、燃料電池自動車開発とその実用化のカギともいえるスタック性能の大幅な向上、その希少資源である白金使用量の大幅低減など新たな道を開くものである。
日本力(にっぽんぶらんど)賞の栄誉に輝いたノリタケカンパニーリミテドの「自動車排ガス浄化用白金族触媒低減型セリアジルコニア助触媒」は、地球環境保全におけるエンジン排ガス浄化の新要素技術として、その学際的な独創性と高機能に大いなる期待をもって評価された。
自動車部品賞では、河西工業の「耐傷付き性向上 軽量発泡成形ドアトリム」は車体の安全性・軽量化・生産性・美的成形などを実現。日立オートモティブシステムズ/日立製作所の「環境対応車向けトラクションインバーター」は、高性能を追求する発想のすごさと確かな実績を有し、今後のさらなる発展が期待される。この他の応募にも優れたものが多い。
わが国の産業(Industry)の優秀さ、見事さを学ばせていただいたが、そもそもIndustryの語源は「勤勉」「努力」という意味である。誇り高いモノづくり企業の方々に改めて敬意を表する次第である。

環境関連分野

資源・環境ジャーナリスト、京都大学大学院特任教授 谷口 正次 氏

今回、私が担当した環境関連部品賞候補について大変うれしく思ったことがある。それは、5件の候補のうち3件が燃料電池自動車関連部品で、これまでなかった特徴だ。燃料電池自動車の商業化に向けたブレーク・スルーを行い、経済性と安全性を大幅に向上させているからである。
中でも、日刊工業新聞社創刊100周年記念賞に選ばれた「燃料電池電極触媒」については、待望の水素社会創生夜明け前を感じさせるもので大賞に選ばれてもよい部品であった。
白金の使用量を従来品に比べ50%削減を達成することによって、燃料電池車の経済性が大幅に向上するとともに、世界でもっとも希少性が高く代替物質がない資源で、しかも多分野の先端技術産業には欠かせない白金の省資源は最重要課題だからでる。
もう一つ、日本力(にっぽんぶらんど)賞に選ばれた「自動車排ガス浄化用白金族触媒低減型セリアジルコニア助触媒」は、ハニカムセラミックスの上に助触媒としてセリアジルコニアを担持、さらにその上に白金族触媒を担持させ、白金族の使用量を減らし、資源の希少性に対処するとともに高いレベルで排ガス規制値をクリアしたものだ。これぞ「日本力」と呼ぶにふさわしい部品であるということで審査員が一致した。日本のセラミックス業界の自然との対話によるモノづくりの伝統を感じさせ、その技術レベルの高さを示すものである。
環境関連部品賞を受賞する燃料電池関連2件も燃料電池車実用化のカギを握る安全性に欠かせない重要な部品である。パワーマネージメント装置につても省エネ、大型工作機設備容量削減効果が大きく、他の部品と甲乙つけがたいものである。
日本のモノづくりの強さを支える中小企業は、長寿企業が世界で例を見ないほど多い。創業100年以上の企業は2万5000社を超えるという。その強みとは“モノと心”をつなげる、あるいは自然と人間の対話の一形態としての質の高い労働によるものではなかろうか。 今後とも日本の企業がとるべき方向として大切にしてほしい。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

今年度から“超”モノづくり部品大賞の健康・医療機器分野が「健康・バイオ・医療機器分野」とその名乗りを改めた。人のQOL(Quality of Life)のデザインに資するモノづくりだけでなく、広く生命科学、細胞工学などに貢献する先導的技術を顕彰したいという思いからである。
まさに、このビジョンを象徴する技術が「ものづくり生命文明機構理事長賞」を受賞した。日本精工の細胞などの微小な試料の操作を可能にする「微細操作用『マニピュレーションシステム』」だ。
同社は軸受製造で培った精密位置決め駆動技術と画像処理技術を組み合わせ、最大の課題であった微細作業のスキルフリーを実現した。システムの心臓部であるナノポジショナーに、独自の発想で圧電素子を組み付けて操作を電動化した。
すでにマウス受精卵にDNAを注入し、さまざまな研究用マウスが作成されているが、今後は受精卵へのiPS細胞やES細胞の注入など、発生生物学を大きく進展させる可能性を秘めた優れた技術である。
日立マクセルが開発した、オゾンの酸化力で菌やウイルス、臭いを分解、不活性化させる「低濃度オゾン除菌消臭器『オゾネオ』シリーズ」も優れている。ファンを用いると、発生イオンが混合され、効果が薄くなってしまう。同社は放電するとイオン風を発生させる受電極形状をアナログ技術でデザインし、ファンレスでありながら風が出る静音設計を実現したのだ。
アナログでローテクな技術が、逆に健康・医療機器を進化させる可能性を示した技術が部品賞を受賞した。
木を活用した、金属探知ゲートをそのまま通過できる、アグメントの「非金属車いす」、土木建築作業ごとに異なる筋肉層をサポートする、ダイヤ工業の「職人DARWING」など、大企業がフォローできない実際の活用シーンの多様性に着眼した中小企業の技術開発にも、大きな可能性がたたえられていることを改めて学ぶことができた審査だった。

生活関連分野

東北大学 名誉教授、地球村研究室 代表 石田 秀輝氏

今回の主な賞はエネルギー、バイオ系が中心となった。一つの時代の流れの中でこの分野が注目されるのは避けられないとも言えるが、生活関連部品にももう一頑張りを期待したいところである。
今後、「厳しい地球環境制約の中で心豊かに暮らす」という概念が重要になることは間違いない。それは、現在あるものをより効率的にするとか、さらなる利便性を追求するということではない。ライフスタイルそのものを大きく変え、それに必要な新しいテクノロジーやサービスがどのようなものであるかという、従来の延長ではない視点、あるいは新しい足場が必要になってくる。これこそがイノベーションの本質であると思う。そのような視点に立った商材や部品が生まれてくることを、これからも大いに期待したい。
ともあれ、今年も匠(たくみ)の技で問題を解決し、不便を便利に、より快適な部品開発の知恵には大いに膝を打つところがあり、良い勉強をさせていただいた。
その中でも、「非金属車いす」は、健康・バイオ・医療機器部品のカテゴリーで審査を行ったが、金属を一切使わず、シンプルなデザインで、ガラスベアリングを上手く利用することで価格も20万円に抑えるという、いくつものハードルを飛び越えた逸品である。「防食保護キャップ ジンクハット」は、困難であった高純度亜鉛鋳造技術への挑戦の結果生まれた、簡単に施工できるメンテナンスフリーの商材である。「BCP(火山灰)対策用フィルタ『南風』」は、多プリーツ構造による低圧力損失と負圧時の微振動により、捕捉した灰を自然落下させ97%の火山灰を侵入阻止するだけでなく、取り付け角度の工夫でメンテナンスフリーの可能性もあるという。火山活動の活発なこの国にとっては、一つの朗報である。「苗移植ハンドユニット」は播種後数日経過した小型の苗を100-150の穴の開いた育苗パネルに一株ずつ、傷つけないように確実に植えつけるための自動機であり、「BX止水板 ラクセット」はゲリラ豪雨などの急な増水に対応できる簡易型の止水板である。
これらの商材は、日本独特の力任せでない繊細な技と創意工夫の結実したものであり、心から商材開発に敬意を表したい。