モノづくり部品大賞
カーボンフリー燃料の直接供給型燃料電池用部品「セラミックスセル」および「封止ガラス」
ノリタケカンパニーリミテド
製品概要
アンモニアを燃料に、二酸化炭素(CO2)が発生しない燃料電池を開発する。「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の委託研究課題として、京都大学を中心に産学連携で進むプロジェクトがある。ノリタケカンパニーリミテドは参加企業として、心臓部のセラミックス部品を担当した。
一般的な燃料電池では、燃料の水素を都市ガスから製造する過程で、CO2が発生する。一方、アンモニアは全ての工程でCO2が発生しないことで注目されている。
ただ、アンモニアを燃料にすると、心臓部の部品であるセラミックスセル、封止ガラスが腐食・劣化してしまう問題がある。ノリタケはその解決に挑んだ。
セラミックスセルと金属板が封止ガラスで接合され、積層した部品をスタックという。スタックにアンモニアを供給すると、セラミックスセルなどが腐食・劣化する。
京大からノリタケに研究の依頼が来たのは2013年。開発担当の高橋洋祐開発・技術本部研究開発センター機能材料グループリーダーは「難しいが、夢があると思った」と振り返る。
腐食・劣化させないためには、セラミックスの成分構成を変える必要がある。大型放射光施設「スプリング8」を活用して成分構造を解析し、どの成分を取り除くかを決めた。
ここで生きたのが、ノリタケの祖業、洋食器事業での蓄積だ。洋食器の表面の色を変えるには、成分の構成を変える必要がある。同じ成分構成でも、配合の順番によって色が変わることもある。
これまで幾多の洋食器を手がけた知見が、ノリタケにはある。スプリング8の実験も効率的に実施。14年の研究開始から1年半ほどと、短期間で完成させた。高橋グループリーダーは「不安もあったが、いざ動きだすと駆け抜けていった」と開発期間を表現する。
15年7月、アンモニアを燃料とした固体酸化型燃料電池(SOFC)で、200Wクラスと世界最大規模の発電に成功した。現在は実用化に向けた準備段階にある。
ノリタケが開発したのはスタックまでで、発電ユニットなど燃料電池全体は手がけない。燃料電池メーカーに今回のスタックを提供しており、発電の長時間化と効率化を目指している。高橋グループリーダーは「20年の東京五輪・パラリンピック開催時期にデモ運転を実施したい」と意気込む。1kWクラスの発電が目標だ。
Voice
ノリタケカンパニーリミテド 執行役員 開発・技術本部長 永田滉氏
当社の開発いたしました「カーボンフリー燃料の直接供給型燃料電池用部品『セラミックスセル』および『封止ガラス』」が栄えある「“超”モノづくり部品大賞」を頂戴し、大変光栄に存じます。
これはカーボンを含まないアンモニアを直接燃料にし、CO2フリー発電あるいはCO2排出を低減した高効率発電を可能とした燃料電池用部品です。
この部品は110年以上培ってきた食器用絵の具の製造プロセスや釉薬(食器表面のガラスコーティング技術)の要素技術を応用し、アンモニアを直接供給する燃料電池で、世界最大規模の発電を実現しました。
また、風力発電や太陽光発電で得た電気を利用し、アンモニアに変換して貯蔵・輸送することも可能なので、将来的に完全CO2フリーのエネルギー社会の実現にも寄与できると考えております。
モノづくり日本会議 共同議長賞
自動車用薄型サスペンションシート
日本発条
製品概要
日本発条の「自動車用薄型サスペンションシート」は、走行時の振動を吸収して、長時間運転するドライバーの乗り心地を高め、疲労を減らすものだ。振動を吸収するシートは以前からあるがサイズが大きく、2トンクラスの小型トラックには搭載しにくかった。新シートはその課題をクリアし、ドライバーの労働環境改善と交通事故低減が図れる品として注目されている。
主な従来品は、乗員の体圧を分散しながら姿勢を保ち、振動を吸収するウレタン製のクッションパッドと、パッドの下の磁気サスペンション機構で構成。同機構はオイルダンパーやバネを用いる複雑な構造のため大型化し、小型トラックには積みづらかった。
開発したシートは、体に接するウレタン製の薄型形状パッドと、同機構の代替として同パッドの下に据えるウレタン製厚型サポートパッドで構成。バネやパッドからシートを一貫生産する中で培った技術を駆使して、最適な構造のウレタンを開発。サポートパッドがダンパーのように働き、従来品より薄型で高性能を発揮。コストは従来比約4割、重さは同1割以上減った。乗員の臀部(でんぶ)の位置が40mm低くなり「小型トラックでも搭載できる」(伏木田基弘シート生産本部第二設計部長)。
シートは、共同開発したいすゞ自動車の欧米向け車両に搭載。他メーカーも次期車での採用を検討中だ。軽トラック向けなどの開発も視野に、乗員の疲労と交通事故の低減に貢献する考えだ。
Voice
日本発条 代表取締役副社長 畑山薫氏
このたび、栄えある賞をいただき、誠に光栄に存じます。
当社は、自動車用シートにおいて、開発・設計から組み立てまで一貫生産しています。今回、受賞となった自動車用薄型サスペンションシートは、乗り心地性能を向上させ、さらに、小型・軽量・低コストを実現したほか、耐久性にも優れた小型商用車向けの製品です。あらゆる部門の担当者が素晴らしいチームワークで、一つの目標に向かってさまざまな異なる技術を融合させ、高い評価をいただける製品をつくり上げることができました。
これからも、お客さまのニーズにお応えするとともに、クルマに乗られる方々にも満足されるモノづくりに努め、豊かな社会の発展に貢献してまいります。
ものづくり生命文明機構 理事長賞
業務用手洗い洗剤 クイックメルティ
鈴木油脂工業
製品概要
業務用手洗い洗剤「クイックメルティ」は、洗浄効果を高めるために使用するスクラブ(粒子)を環境負荷の低い溶解性にした。新規スクラブは安全性が高く安価な工業用乳糖を基剤に、pH変化で水に溶けるコーティングを施した。
これまで腸溶性製薬に用いられてきたpH感受性溶解性樹脂に着目した。製品の状態では保存安定性も良く、手洗い中はスクラブとしての機能を保つ。すすぎ終了後は水のpHに応答し、使用後3-5分で完全に溶解する。
スクラブは吸着能力が高く、皮膚の毛穴などに入り込んだ汚れを除去するために配合されている。ただ従来のスクラブは大半がポリエチレンなどの合成樹脂製で、分解しないため排水溝や浄化槽、油水分離槽などの目詰まりの原因となっていた。
また従来の合成樹脂製スクラブが海洋を汚染し、生物などに影響を与えるマイクロプラスチック問題が世界的に懸念されている。クイックメルティは新たに開発した溶解性スクラブを用い、同問題の解決にも貢献する。
環境対応としては生分解性樹脂やバイオマスの使用も考えられるが、いずれもクイックメルティの新規スクラブに比べて高価で、分解するのに時間がかかる。
大量の洗剤を使用するユーザーにとって、溶解性スクラブへの切り替えで排水処理費用の低減につながるだけでなく、環境負荷を目に見えて減らせる利点がある。
Voice
鈴木油脂工業 常務取締役 鈴木秀夫氏
当社はゲル状工業用手洗い洗剤の商品化にいち早く着手、お客さまの信頼を獲得しました。以後、顧客ニーズを製品に反映することを心がけ、アイテム数を増やしています。
今回のクイックメルティも、スクラブの有無に関する要望を伺う中で、両方の利点を享受できる製品として開発しました。従来の合成樹脂スクラブによる海洋汚染が米国など海外で懸念が高まっています。この点でも溶解性スクラブであるクイックメルティは貢献でき、環境意識の高いお客さまから高い評価を得ています。
大阪トップランナー育成事業でプロジェクト認定をいただいた大阪市には、知的財産権保護の問題などで有効な後押しをいただき、感謝申し上げます。
日本力(にっぽんぶらんど)賞
複屈折マッピング計測装置「KAMAKIRI」向け計測モジュール「PI-5」
フォトロン
製品概要
フォトロンの複屈折マッピング計測装置「KAMAKIRI」向け計測モジュールの偏光高速度カメラ「PI-5」はスマートフォンやタブレットなどの画面内部フラットディスプレーパネルなどに使用する産業用フィルムや、板硝子向けの生産ラインおよび開発試作ラインで使用する。
従来、高速度カメラは光の振れ幅と波長を輝度情報と色情報として検出できるが、偏光情報はできなかった。同社は4年かけて、偏光高速度イメージセンサーを独自開発し、各画素に異なる方位のマイクロ偏光素子を実装し高速で2次元の偏光情報を検出可能にした。
また、従来の局所検査は1秒間あたりの測定点数が20点程度で、偏光板を回転させて複数回に分けて取り込んだ光強度情報を順次計算して得ていた。同部品は並列計算処理をシステム全体にもたせ、1秒間に10万点程度の計測速度を実現した。
これにより材料内部の光学歪みを全長全幅での計測・品質保証や、材料の廃棄領域の決定、生産条件の最適化、新規開発品の超時短評価が行え、環境負荷低減と生産コスト低減などの効果があげられる。常時計測データをふまえて、生産ロットごとの品質や廃棄ロットをユーザーが決定し、出荷品に対するクレーム対応や廃棄ロットの適正化が可能になった。また、従来のオフライン計測でA4サイズのサンプル測定時間は10時間必要だったが、同製品は5秒と高速の検査速度で開発の実験回数を増やすことも可能だ。
Voice
フォトロン 社長 布施信夫氏
このような賞をいただき、誠に光栄でございます。当社は長年にわたり、画像に関わるものに携わっております。当社ビジョンの「画像へのこだわり」はただ画質にこだわるのでなく、付加価値をつけてお客さまに役立つという考えのもと、事業を続けてきました。今回、見えないものを見る”可視化”を計測や解析へ発展させ、画像は見るだけの用途でないものへ付加価値を追求した結果、複屈折マッピング装置「KAMAKIRI」が完成しました。
今後も高速度カメラがあらゆる分野で実用できるように、お客さまのニーズをくみ取って、さらなる付加価値を画像に与えていき、業務効率に貢献できるように続けていきます。
低被ばく化X線透視診断装置向け動画処理モジュール
日立製作所
製品概要
X線透視診断装置はこれまで、胃や腸などの消化管検査での使用が主流だった。だが最近では患者への負担が少ない低侵襲治療への関心が高まっており、カテーテルなどを体内に挿入して治療する経皮的治療や内視鏡治療などでのX線透視の利用が増えている。
このため、X線透視診断装置には内視鏡やカテーテルの位置を正確に確認するため透視像(動画)の高画質化が求められる一方で、X線透視中の医療従事者や患者の被ばく低減もより重要になっている。
日立製作所の「低被ばく化X線透視診断装置向け動画処理モジュール」は高画質化と被ばく低減を両立した技術。動き追従型ノイズ除去技術「MTNR(モーション・トラッキング・ノイズ・リダクション)」や映像フレームレート補完技術「FRC(フレーム・レート・コンバージョン)」などで構成し、医療の質の向上に貢献できる。
MTNRはX線透視中に、内視鏡やカテーテルなどの動きを検出。動きに合わせてノイズを除去することで、動きによる残像を抑えて画質を向上できる。動きの少ない領域にも効果的なノイズ除去処理を併用し、明瞭な透視像を表示する。
FRCは実際のX線を照射した画像から、時間的に前後の画像と「中間フレーム」として生成して補完するもの。フレーム数が倍増することで滑らかな透視像を表示できる。これより、X線の照射回数を低減でき、医療従事者や患者の被ばくを従来の2分の1に低減できる。
Voice
日立製作所 ヘルスケアビジネスユニット診断システム事業部長
河野敏彦氏
このたびは「日本力(にっぽんぶらんど)賞」をいただき、誠に光栄です。
医用X線透視診断装置は、従来から活用されてきた消化器の検査に加え、近年では内視鏡治療でも用いられるなど、ますますその重要性が高まりつつあります。
今回受賞することになった動画処理モジュールは、低被ばく条件下でも、滑らかで高画質な動画像をご提供することより、検査や治療の行いやすさを向上させるとともに、被検者や医療従事者の被ばくによる健康リスクを低減するものです。
今回の受賞を励みに、引き続き一人ひとりが健康で安心して暮らせる社会の実現に貢献できるよう、さらなる開発に取り組んでまいります。