機械分野
中部大学理事・名誉教授、慶應義塾大学名誉教授 稲崎 一郎氏
機械分野への申請数は昨年より減り30件であった。独創性の高さと優れた性能が評価されてフォトロンの複屈折マッピング計測装置用モジュール「PI-5」が日本力(にっぽんぶらんど)賞に輝いた。産業用フィルムや板硝子の生産ラインで材料内部の光学歪みを全長全幅で高速に計測する装置で、その特徴は対象品の偏光を平面的に計測するためにCCD素子ごとに異なる方位の偏光素子を実装した点にある。これは世界初のもので、従来方式と比較して5000倍の速度で対象品の光学歪みを計測でき、品質管理を格段に向上させることを可能とした。
例年通り工具の申請が多かった。工具の高性能化には高強度、高耐摩耗性材料の開発が必須であるが、日本特殊陶業の耐熱合金加工用切削工具「BIDEMICS」はこの要求に沿ったもので、ウイスカーセラミックス工具やPVD被覆工具より優れた切削性能を達成した。切れ刃をバレル形状にして切削性能を高めた三菱日立ツールの「刃先交換式異形工具シリーズ」は刃先交換式工具としては最初のものである。
汎用的に使用される機械部品の申請として、長年にわたる製造実績に立脚して接触面積の最適化を図った日本精工のリニアガイド「NH、NSシリーズ」、ガイド部にローラーガイドを搭載して高剛性化を図ったアイセルの「アクチュエータ」、悪環境でもロバストに動作できるようにスケールと検出ヘッドを金属膜で完全密封したマグネスケールの「SmartSCALE」が部品賞となった。
独自に開発した機械部品を組み込んで優れた性能を達成した機械装置として、各部品の小型化を図ったフジキンの「超小型集積化ガス供給システム」と、麺生地加工工程での真空度を顕著に高めたソディックの「麺生地混合装置」が部品賞として評価された。
センサーと情報技術を駆使して各種システムの高機能・高性能化を図る動きが活発であるが、これら技術が効果を発揮するには優れた機械システムの存在が大前提である。そしてその縁の下の力持ちとなるのが機械部品である。わが国産業の強みである機械部品開発の一層の活性化とその維持が強く望まれる。
電気・電子分野
早稲田大学 名誉教授 一ノ瀬 昇氏
電子部品のグローバルな出荷額は電子情報技術産業協会(JEITA)会員で調査に参加する企業の取りまとめた電子部品グローバル出荷統計によれば、ここ3年連続のプラス成長を遂げているという。けん引役であるスマートフォンの世界市場の成長ペースが鈍化する中、自動車、産業機械、医療・ヘルスケア、エネルギーなどの分野でスマホに代わる収益の柱を模索する動きも見られる。
今回の各部品賞に輝く製品の中には、「IoTセンサー」(日立製作所)、「TMR角度センサ」(TDK)など、センサーに関連したものにすぐれたものが見られる。センサーは日系企業が非常に強みを発揮できる分野で、世界的にも高い競争力を有している。JEITAの調査によれば、センサーの出荷額は2012年には9791億8800万円だったが、2013年に1兆1239億4400万円(前年比15%増)、2014年には1兆3172億8100万円(同17%増)と伸びを見せている。2014年における日系企業の金額シェアは47%で、出荷数は251億0386万7000個(同17%増)に達している。
今後、IoT(モノのインターネット)や自動運転をはじめとする自動車のIT化、健康・医療分野、省エネ分野などを中心にセンサーの需要は高まっていくものと思われる。現状のスマホの世界市場の成長鈍化などを勘案すれば、スマホに代わる新しい収益の柱を模索する必要があろう。新たな成長分野の一つとして、わが国の得意とするセンサー電子部品に活路があるものと思われる。
自動車分野
芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏
モノづくり産業はかつてない激しさの中にある。この流れの中にあって、モノづくり部品にも学際的な技の進化がみられるようになった。従来はトレードオフの関係にあった「性能」「機能」「コスト」を追求したクロスオーバーの技である。これからは、「ハードウエア」「ソフトウエア」「マインドウエア」「アドミンウエア」の四つのキーワードを統合する学際的な技術がモノづくりの鍵になることであろう。
モノづくり日本会議共同議長賞は、日本発条の「自動車用薄型サスペンションシート」がその栄誉に輝いた。自動車用シートの基本である振動吸収性、姿勢保持性、薄型空間化そしてコスト低減化は、これまでトレードオフの関係にあったが、同シートはこれを克服。学際技術としてその意義は誠に大である。
自動車部品賞は3件が受賞した。河西工業の「自動車内装用高輝度原着メタリック樹脂加飾部品」は、成形樹脂の高輝度・高光沢・高度三次元感覚を実現し、かつ環境負荷の軽減、そして大幅なコストダウンなどの新たな道を拓くものとして注目される。
TDKの「TMR角度センサ」は、独自の薄膜プロセス技術により高性能・高品質の膜構成を実現。安定した制度の確保、経年変化の改善と冗長性の向上、そして困難とされていたコスト削減などの経済効果も優れている。
太平洋工業とUACJの「摩擦攪拌接合によるアルミテーラードブランクを用いた自動車用ボデー部品」は、テーラードの意義を追求したボデーフードの合理的技術、加工の最適高速化、コスト低減化など新たな道を拓いている。なお、この他の応募にも優れたものがみられ、敬意を表したい。
最後に、今年度の全ての応募を拝見して、「学際的なモノづくり部品の道を拓く新たな取り組み」が印象的であったが、今後更なるご尽力を期待したい。
環境関連分野
資源・環境ジャーナリスト、京都大学大学院特任教授 谷口 正次 氏
今年度、環境関連分野の応募部品は三つのカテゴリーに分類できる。
①付加価値の高い製品の部品として組み込み、製品を利用することによって省エネ、CO2排出削減効果がある。
②部品の素材を、希少資源である金属を使用せず、セラミックスにすることによって、サプライチェーンの最上流である資源採掘に伴う自然破壊を防ぐ効果。
③部品そのものの環境貢献ではなく、ものつくりの過程で使用する溶剤、洗剤など有害な廃棄物となって大気・海洋・土地を汚染することがないように無害化あるいは消滅させる効果。
これら、三つのカテゴリーのうち、環境貢献部品としての評価に際して最も重視したのはカテゴリー②であり、ノリタケカンパニーリミテドの燃料電池用部品「セラミックスセル」および「封止ガラス」が大賞を受賞した。
ものづくり生命文明機構理事長賞を受賞した鈴木油脂工業の「業務用油汚れ手洗い洗剤」はカテゴリー③に相当する。これは、付加価値の高い製品の部品そのものではないが、ものつくりの過程で使う洗剤が使用後に短期間に消滅し、海洋の汚染源となることを完全に防ぐという環境貢献度と汎用性の価値は大きい。生命にあふれる海洋の汚染は、地球規模で深刻になりつつあることから同賞にふさわしい。
環境関連部品賞の3件はすべてカテゴリー①である。
2015年7月、大気中のCO2濃度は、ついに400ppmに達した。温暖化と異常気象は現代物資文明にとって大きな脅威になっている。ものつくりに際して、製品の使用時に排出するCO2を削減することはきわめて重要であるが、資源多消費の高付加価値製品を、大量生産・大量消費のパラダイムのもとで、個々の製品の温暖化ガスの排出削減を免罪符とした、際限のない販売台数競争を続けることは、「資源と環境」=「自然資本の有限性」を考えると望ましいことではない。
今後、ものつくりのパラダイムの転換でこそ競う時代であろう。
健康・バイオ・医療機器分野
ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏
2016年“超”モノづくり部品大賞の健康・バイオ・医療機器分野では、日立製作所の低被ばく条件下でも滑らかな高画質動画を生成することができる、X線透視診断装置のための動画処理モジュールが日本力(にっぽんぶらんど)賞を受賞した。X線透視診断装置はこれまで、胃や腸などの検査に利用されることが主であったが、近年では、ガイドワイヤやカテーテルを用いた内視鏡治療に使用される頻度が増えている。そこでは、こうした機器を胆管や膵管に誘導する位置や動きを確認する必要があるが、X線の照射回数を減らすと、ノイズが増加したり、画像がぎくしゃくするといった課題があった。同社は、テレビなどの映像研究で培ってきた技術を応用し、低被ばくでありながら、欠損した動きのフレームを補完するアルゴリズムを開発し、X線感受性の高い病児などの被験者だけでなく、術者の被ばく低減をも形にした。
ダイヤ工業の電動義手も優れている。3Dプリンターで造形したソケットとサポーターを組み合わせ、採型不要な軽量、安価な装着部を実現。筋収縮による隆起の距離変化をセンシングすることで、球握り、指先つまみ、側面把持などの多様な操作を可能にした。
また今回、体操の平行棒にヒントを得て、肘を力点として被介護者の体重を支え、胸部への負荷低減と落下防止を可能にした共栄プロセスの介護用移乗機や、一度の操作で複数個のキャスターのタイヤ回転を止めることができる、日乃本錠前のナースカート用ブレーキシステムなど、コメディカル分野の医療機器が部品賞を受賞した。看護師、理学療法士、臨床検査技師など、医療スタッフの作業軽減や現場ニーズに応える医療機器の開発は、中小のメーカーにとって、大きな可能性がある。コメディカル視点の医工連携がこれから、この分野の大きなトレンドとなることを期待している。
生活関連分野
東北大学 名誉教授、地球村研究室 代表 石田 秀輝氏
生活関連部品を審査させていただく時の基本は「美」だと思っている。もちろん、形や機能が美しいことも大事であるが、コンセプトが美しいという前提がなければ意味はない。それは単にユーザーにとって快適であるとか利便性が高いということではない。
11月4日に温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定が発効した。気候変動のみならず、エネルギー、資源、生物多様性など、今多くのリスクを抱え、このままでは文明崩壊の危機さえ考えなければならない状態にある中で、工業製品とは単にユーザーにとっての価値という近視眼的なものではなく、作る・使うという連続した流れが可能な限り自然の循環に近いことがますます求められることは間違いない。そういう意味では、ものづくり生命文明機構理事長賞の鈴木油脂工業「業務用油汚れ手洗い洗剤 クイックメルティ」は、自然の循環と人が求める機能を同時に満足していると言える。
業務用手洗い洗剤の多くはポリエチレン樹脂を粒子として配合するものが多いが、これは最終的に海洋に流れ、大きな問題になっているマイクロプラスチックとなる可能性が極めて高い。「クイックメルティ」は、乳糖を粒子とし、それをpH感受性樹脂でコーティングし、手洗い動作で粒子が消失するという新規なアプローチで商品化に成功した。見事な、そして美しいコンセプトである。
部品賞のLIXIL「アクアセラミック」は汚れの本質を正確に捉え、超親水表面の価値を見いだした商材であり、サンマックスの水圧駆動による伸縮装置は40リットルの水と電源さえあれば稼働させることができる。ともに高い環境親和性を有しながら、高機能化に成功したものである。
JXエネルギーの高い透明度を有するスクリーン用フィルム「カレイドスクリーン」、川口電機製作所の「平面静電モータ」はともに地球環境視点では議論がいささか弱いものの、機能が遊び心を誘発するという視点で評価させていただいた。その他、選にはもれたものの、なるほどとうならされたものも多くあった。
ぜひ「人と自然を考えた美しいコンセプト」という視点で挑戦を続けていただきたいと思う。