2017年講評

機械分野

中部大学 理事・名誉教授、慶應義塾大学 名誉教授  稲崎 一郎 氏

 本年度の機械分野への応募は、昨年より5件増えて35件であった。そのうち、15件は本年度が初めての応募である。毎年新たな企業からの応募が続くように、今後も活発な募集活動が望まれる。
 日本電産シンポの「超偏平アクチュエータ」がモノづくり部品大賞に輝いた。要介護者の自立支援用アシストスーツ、電動車いすなどの関節部使用に適した、偏平軽量小型アクチュエーターで世界最薄である。減速機と電動機を、同一平面上に並列に配置するという独自の構造で、薄型化(従来比40%減)に成功した。これによって電動いすにおいては、車輪の内部に収めることができコンパクト化が可能である。応用範囲の広い、典型的な機械部品としてその普及が期待できる。
 日本力(にっぽんぶらんど)賞の一つに、ダイヘンの「アーク溶接高電流水冷トーチ用銅合金3D積層造形部品」が決まった。銅合金の3D積層造形に世界で初めて成功し、銅合金の優れた熱伝導性と電導性を生かして複雑形状溶接トーチの小型化(従来品と比べて直径3分の1、重量は10分の1)と冷却性能向上を達成した。銅合金粉末の材料開発と3D造形技術の効果的な組み合わせによるトーチ用部品製造は、部品点数の削減、製品原価削減、ロボットハンドリングの容易化にもつながり評価できる。
 機械部品賞に輝いたのは、樹脂の射出成形において、しばしば問題となる「糸引き」を防止した糸引き防止スプルーブシュ(プラモール精工)。コントローラー、サーボドライバ、I/O(入出力)機器の機能の一体化を図ったACサーボドライブ(安川電機)。搬送物の分岐処理を要する箇所で使用するフラット直角分岐装置(伊東電機)のほか、合計8件である。例年通り工具関連の応募が多かったが、不二越の「Hyper Zタップ」シリーズが部品賞となった。そのほか、工具関連で5件が奨励賞となった。
 我が国の生産活動に活力を与えているのは、機械機器・装置とそれらを支える機械部品である。とりわけ機器・装置の動作信頼性は、部品の信頼性によるところが大きい。日本の技術力を最大限発揮できる分野である。わが国産業の強みである、機械部品開発の一層の活性化と、その維持が強く望まれる。

電気・電子分野

早稲田大学 名誉教授  一ノ瀬 昇 氏

 かつて日本が世界に対して高いシェア(市場占有率)を有していたが、その後、韓国や台湾に追いつかれシェアを落としていった代表的な分野は、メモリー用半導体であろう。当初は技術的な優位性があり、コストもカバーしながら高いシェアを保持できたが、技術的に優位性がなくなりコスト競争になると刃が立たなくなり、ジリジリとシェアを落としていっている。
 同様のケースとしては、最近では、リチウム二次電池が挙げられる。さらに、日本が最も得意とするチップ部品でも、チップサイズが0.4ミリ×0.2ミリメートルまで小さくなり、技術的な優位性はあるようだが、時間の問題かもしれない。
 さて、次世代の日本の電気・電子デバイス分野で世界に勝てる分野は何であろうか。
 その一つは、パワー電子デバイスであると言われている。これはパワー半導体を利用したもので、電気・電子装置、産業用機器、自動車、鉄道車両、高耐圧直流送電など、広範な分野に応用の可能性がある。
 パワー半導体として有望視されているのは、炭化ケイ素(SiC)半導体で、省エネルギーの切り札として期待されており、最近、実用化を意識した評価、実装技術など、SiC半導体の周辺技術開発が開発している。
 SiCはバンドギャップが、Siの3倍と大きく、絶縁破壊電界が10倍あることから、パワー電子デバイスに応用した場合、同じデバイス構造で従来のSiデバイスより、1ケタ高い耐電圧を得ることができる。したがって、SiCに置換することにより機器の大幅な小型化と低損失化が期待されるのである。モノづくり部品大賞での成果を期待したい。

自動車分野

芝浦工業大学 名誉学長  小口 泰平 氏

 モノづくりのパラダイムシフトが一段と加速している。人工知能(AI)分野の競争の激化、その一方で、伝統技術を大切にしたモノづくりの高質化が進んでいる。日本の誇りであり、強みであるモノづくりの本質を、今回の審査でも改めて学ばせていただいた。
 自動車産業の分野においては、電気自動車(EV)や自動運転への取り組みが急加速している。この動きは重要であり評価されるが、これからのモノづくりは先端技術と伝統技術と、学際技術の新たな統合による進化こそが大切である。ハードウエア(Hard ware)とソフトウエア(Soft ware)、そして文化的観点のマインドウエア(Mind ware)、加えてアドミンウエア(Admin ware)、この4つのキーワードが鍵となる。アドミンウエアはいわゆる行政であり、自動車交通の安全や環境保全、さらには各種基準や規格、規制、審査、支援体制、経済政策などであり国際化が進めば進ほど重要な意味を持つことになる。モノづくりは、こうした観点からのモノづくりといえよう。次元の異なるこれらウエアの統合への取り組み強化を期待したい。
 自動車部品賞は、3件が受賞。大成化研の「CTN潤滑油ナノコロオイル」は、カーボンナノチューブの均一分散配合による潤滑性能向上、過酷条件下の性能維持、その経済効果などが高く評価される。NTNの「自動車用ULTAGE円すいころ軸受」は、新たな設計手法により、大幅なる高性能化・長寿命化などを実現、その経済効果は誠に大である。太平洋工業の「PHV用スプラインプレート」は、新工法と高度な設計技術により、ワンウエイクラッチ機構の高トルク化と小型軽量化を実現、その効果は有意である。
 最後に、この他にも興味深いモノづくりが見られたことを記し、ここに衷心より敬意を表する次第である。

環境関連分野

資源・環境ジャーナリスト、京都大学大学院特任教授  谷口 正次 氏

 環境関連分野においては、モノづくりの①原材料資源の採取からはじまり、②素材・加工、③部品製造、④組み立、⑤使用・消費、⑥廃棄までの、サプライチェーンのどの過程で、どのように環境負荷低減効果を発揮するのか、といった視点で評価を行った。
 ものづくり生命文明機構 理事長賞を受賞した、共同技研化学の「メカニカルファイバーテープ(メカニカル疑似架橋)」は、基材を用いないで両面テープの性能を発現させたもので、その環境負荷低減効果を発揮する過程は最上流の①である。その環境貢献の内容は、基材としての原材料資源を使用しないことによって節減できる貴重な水資源、基材の原材料資源そして二酸化炭素(CO2)削減である。当該部品は、機械・電子部品などと異なり、目立つものではなく地味ではあるが、ものづくり生命文明機構の理念にそった環境貢献製品として評価した。
 環境関連部品賞には3件選ばれた。環境に貢献する過程は、⑤である。うち2件(ネツシンの「極低温用標準白金抵抗温度計『NSR-13K-1000』」と島津製作所の「FC-3Dモニタ『FCM-3D-Oxy』」)は、水素社会実現のためには重要な部品である。1件(安川電機の「次世代産業用汎用インバータ『GA700』)は、世界の膨大な数の一般産業機械設備のモーター駆動装置に適用されると、その省エネ効果は大きくスマートな日本的な技術である。
 評者が重視するサプライチェーンの最上流の過程①、原材料資源の採取の現場における深刻な環境負荷=自然資本の劣化・減耗(生態系破壊、生物多様性消滅、水資源の大量消費、水質・土壌汚染、資源枯渇など)が見逃されることが多いばかりか、わかっていても定量的に把握することが困難を理由に「外部不経済」として無視されてきた。環境問題と言えば、温暖化ガスの排出削減に問題意識が集中しすぎている傾向があるためである。最近、欧州連合(EU)諸国を中心にサーキュラー・エコノミーと称し、特に金属資源のリサイクルが戦略的に重視され始めた。わが国のモノづくり戦略としても、資源生産性を重視すべき時代になった。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長  赤池 学 氏

 日進月歩で進化する電子制御技術は、人間の身体、生活環境といった動的対象に向けた制御を行う、「生体制御技術」をさまざまに生み出そうとしている。超高齢化社会による労働人口の減少や介護人口の増加を背景に、身体の機能性、効率性を増強する生体制御技術は、今後の健康・医療機器を形にする上で、極めて重要なエンジンとなることは言うまでもない。要介護者のための電動車いす、少ないエネルギーで多様な動作を実現するパワーアシスト、高齢者や障害者とのコミュニケーションや自律支援を行う介護ロボットが、これからさまざまに台頭してくるだろう。
 こうした次世代医療ビジネスを語る時、ともすれば人工知能(AI)や、ディープラーニングのインパクトをマスコミは言いはやしがちである。しかし、理想的な「人機一体」を目指して進化していく生体制御技術には、優れた装着性、操作性、機能性を実現する、マシンサイドの技術革新が不可欠なのである。
 こうした医療機器の課題に直球で挑んできた要素技術が、2017年モノづくり部品大賞のグランプリを受賞した。日本電産シンポの「超偏平アクチュエータ」だ。同社は、最適な形状のモーターとアクチュエーターを一体化することで、厚みが従来他社製品比2分の1以下のドライブユニットを開発。電動車いすにおいては、偏平構造を生かして車輪の内部に収めることで、狭路の走行性を各段に向上させ、パワーアシストにおいては、このユニットを関節部に使用することで、薄く、軽く、コンパクトなユニットを提供することが可能だ。今後は、医療分野以外の機器やロボットにも、同社のドライブユニットは様々に貢献していくだろう。
 部品賞を受賞した、ダイヤ工業の「DARWING SATT」も、同様の問題意識から開発された製品だ。背中のアシスト機能と骨盤のコルセット機能を併せ持つ軽労化サポーターも、腰への負担が多い工事、農業、建築、介護従事者の負担を軽減することで、労働環境の改善にさまざまに貢献することが期待できる。

生活関連分野

東北大学 名誉教授、地球村研究室 代表  石田 秀輝 氏

 部品は美しくなくてはならない、部品が美しければ商品も美しくなる。もちろん、美しさとは、形や機能だけではなく、思想が重要である。そして、それは使用者にとっての快適性や利便性だけではなく、急激に劣化する地球環境に配慮しながらも、従来の延長ではなく、視点を大きく変えた機能改質であったりする。
 モノづくり日本会議 共同議長賞の日立製作所と日立ジョンソンコントロールズ空調のエアコン画像処理モジュールは、冷房運転時45%もの省エネ効果を発揮する優れモノではあるが、特に高く評価されたのは、人の顔周辺の色情報を利用した画像カメラによる人識別技術の開発である。これと温度カメラによる人温度の組み合わせにより、エアコンの制御を行う。新しい切り口の発想が生んだシンプルなセンシングおよび制御システムである。エアコン以外の多くの用途に応用できる技術であり、今後の展開を期待したい。
 部品賞のオン・セミコンダクターのリチウムイオン電池残量計は、従来型の外付けのシステムではなく、電池内部のインピーダンス測定で残量を高精度に測定できる小型省電力装置であり、パナソニックのOHラジカル生成デバイスは、電極形状を変えることで電圧を上げることなくOHラジカル生成量を従来の10倍にした。これらの部品は、発想の視点を従来技術から大きく変え、最少の部品で高機能を発現させた成果であり、評価したい。積水ナノコートテクノロジーのスマート窓クールは、金属をナノメートルの薄さで布にスパッタコーティングする技術の応用でつくられた遮熱ネットで、今後さらに多くの機能開発が期待される特異技術である。また、マツザキの3Dラベルは、マイクロレンズを使い、文字深度を自由に設定できる。セキュリティー対策などに高い効果があるが、楽しいアイテム、個人アイテムへの展開も是非期待したい。
 今、「モノを欲しがらない若者」が増えているが、彼らはモノが欲しくないのではなく、欲しいモノが無いというのが現実である。彼らが求めるテクノロジーとは、すべてお任せではなく、自らが関与できるテクノロジーなのである。今後、全自動化とマニュアル化という2極にテクノロジーは分化していくだろう。マニュアル化をけん引する最先端部品とは何か、定義も含めて、今後に大いに期待したい。