2018年講評

機械・ロボット分野

中部大学理事・名誉教授、慶應義塾大学名誉教授 稲崎 一郎氏

●目的特化し顕著な性能向上
 本年度の機械・ロボット分野への応募は、昨年とほぼ同じ36件であった。今回から分野名称に「ロボット」が加わった。

 その中で安川電機の「産業用ロボット『MOTOMAN-MLT1700』」とシンフォニアテクノロジーの「超小形電磁ブレーキ『SBR』」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した。
 「MOTOMAN-MLT1700」は、大型重量物の搬送や位置決めにその機能を特化したロボット。従来の多機能多関節ロボットに比べて、動作機能の基本は上下動作に限定されるが、動作目的をあえて特化したことによって小型化、低コスト化(従来比50%)、消費電力低減(同85%)などの顕著な性能向上を達成した。新たな開発視点として高く評価できる。すでに自動車メーカーに採用され、国内外の3拠点に導入されて量産稼働済みだ。
 シンフォニアテクノロジーの「超小形電磁ブレーキ『SBR』」は、業界最小、最薄の省エネ超小型化(体積比で従来比45%)を達成した。絶縁方法の工夫、巻線の占有率向上で消費電力の低減を図り、加えてネジを使用しない構造によってトルク容積で従来の2倍を実現。すでに小型の人協働ロボットに採用されて量産を開始している。

 応募部品の評価にあたっては、新規性、独創性、性能、社会貢献性、実績などの視点を重視している。部品開発においては、新材料や材質の向上が部品性能を飛躍的に向上する可能性がある。
 不二越の「フッ素樹脂向け射出成形機用スクリュ部品『NPR-FX25』」は、フッ素樹脂の射出成形機部品用に独自なニッケル合金を開発したもので部品賞となった。従来材と同程度の耐食性の下で摩耗量を5分の1以下に低減し、引っ張り強度2倍以上を達成。寿命向上によって部品費用を50~80%削減、サイクルタイムは従来比80%削減を達成し3年間の事前評価も終了している。
 ハイオスの「ヘクサロビュラリセス『インタトルク』」も注目品だ。ネジは機械部品の中で最も汎用的に使用されており、「機械要素」の一つとして位置づけられている。自動化への対応を飛躍的に高めた独自形状のネジと締め付け工具を開発したもので、すでに各分野で使用例が増えている。

 回を重ねるに従い、応募書類の内容も実証実験を重ねたものが増えて、説得力のあるものが多くなっている。わが国の産業・社会の発展に貢献する「縁の下の力持ち」的存在である部品を対象として、本事業が将来一層その意義を発揮するようモノづくり部品大賞の活動がますます発展することを願う次第である。

電気・電子分野

早稲田大学名誉教授 一ノ瀬 昇氏

●電機産業の未来へ“変革”が必要
 多くの企業が今後の主力事業の見直しに入っている。人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などによってイノベーションが活発になっており、明日は今日の単なる続きとはいえなくなったからである。
 最近100年以上も続いた世界的にも著名な電機メーカーが苦境に立っている。代表的な例として米国ではゼネラル・エレクトリック(GE)が挙げられる。GEは電機、機械、軍事、金融などを主力事業として成長してきたが、モノづくりをないがしろにし、金融事業などで失敗した。今後は電力、航空機、ヘルスケア以外の事業については売却などが進められるなど転換期を迎えている。
 一方、国内では東芝やシャープがその例であろう。東芝は第9回モノづくり部品大賞で「ecoチップ」が大賞を受賞するなど、優良企業として知られていたが、不正会計問題や原子力事業における損失発生などにより業績不振を極めている。
 このような状況下で主力事業をシフトし、収益性を上げている会社がパナソニックだ。かつての家電事業から自動車関連事業へとシフトしている。これは車の電動化や自動運転化にビジネスがあるというのである。
 これからは自社の事業を見直し、企業文化も含めて会社を変えて行くことが必要で、失敗すれば、競争から落後する運命が持ち受けている

モビリティー関連分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

 モノづくりへのプロフェッショナルとしての果敢な挑戦、領域を超えた新たな価値の創造、さらには学際的な取り組みなど、興味深い応募に出会うことができた。
 なお今回よりモビリティー関連として、自動車、鉄道、航空、船舶などのモノづくり部品を募集。初年度のため、自動車分野の応募に偏ってはいたが、鉄道分野に興味深い応募があり、今後への期待をうかがわせていた。

 「モノづくり日本会議 共同議長賞」の栄誉に輝いたロームの「超高速パルス制御技術『Nano Pulse Control』搭載 電源IC」は、電気・電子分野とモビリティー関連分野および環境・資源・エネルギー関連分野の合同審査対象となり、ハイブリッド車の心臓部ともいえる電源部の最適制御、高性能化・コストパフォーマンス・環境保全への貢献など、誠に意義深い技術として高く評価された。
 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」の栄誉に輝いた日本精工の「鉄道車両向け動揺防止アクチュエータ」は、トレードオフの関係にあるパラメーターを効果的に統合し、最適化を追求。ユーザーの評価も高い。

 「モビリティー関連部品賞」の栄誉は3社。エフテックの「ハイブリッド車等用超精密塑性増肉/減肉加工『FUT-1ホイールプレート』」は、リヤサスペンションの新たな塑性加工技術により、大幅なコスト低減、バネ下重量の軽減による乗り心地効果も実現。
 NTNの「超低フリクションシール付玉軸受」は接触タイプシールを考案し、回転トルクを大幅低減、かつ硬質異物の混入を防ぎ、軸受寿命5倍以上を実現。
川崎重工業の「燃料電池車用高圧水素減圧弁」は超高圧制御をフェールセーフの理念のもと、減圧ピストンをボールベアリング支持により高精度の減圧を実現している。
 なお、モビリティー関連について、この他にも興味深いモノづくりが見られた。

 これからのモノづくりには、先端技術と学際技術の新たな統合と強化が期待されている。特に国際化の政治的な不確定性が拡大する中では、ハードウエア・ソフトウエア・マインドウエアに加えて、基準や規制など行政との連携をはかるアドミンウエア(Admin Ware)も重視し、この四つのキーワードへのさらなる取り組みを期待したい

環境・資源・エネルギー関連分野

資源・環境ジャーナリスト、京都大学大学院特任教授 谷口 正次氏

 世界の資源と環境の制約下、日本のモノづくりの方向性としては、資源の採掘から素材・部品製造、製品組み立て、流通、利用・消費そして廃棄に至るまでのサプライチェーンの部分最適化ではなく、トータル最適化を目指すことであろう。
 自動車を例にとれば、サプライチェーンの川下、すなわち車を運転する時、その環境を汚染しないエコカーを作ることを免罪符として販売台数を競うのではなく、モビリティーの変革で競うことが必要な時代である。また原材料資源の視点からみると、ハイブリッド車の銅使用量はガソリン車の2倍、電気自動車(EV)は3倍である。さらに、リチウムイオン電池の正極材に使われるコバルトあるいはニッケル、マンガンなど、先端産業や再生可能エネルギー設備にも使われるレアメタルの需要量は増える一方であり、その採掘・製錬には大きな自然環境破壊が伴い、その価値損失は膨大である。資源と環境は表裏一体であるということが見逃されている。したがって、日本のモノづくりに期待することは、資源生産性の飛躍的向上であり、資源生産性こそモノづくりの基本とすべきと考える。資源を際限なく使って地球環境問題に取り組むということは大いなる矛盾である。

 このような視点から、今年のモノづくり部品大賞の環境・資源・エネルギー関連部門においては、「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞したノリタケカンパニーリミテドの「マイクロナノバブル発生器」を、電気を使うことなく、金属も使わずセラミックスのアルミナ多孔体でつくり上げたことで高く評価した。本部品は、多様な産業分野で導入が期待される。
 そして、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した日立金属の「100kW超級 高周波電力変換器用アモルファスブロックコア『AMBC』」は、太陽光発電など再生可能エネルギー拡大に必要な、電気変換効率が高く低損失の大型パワーコンディショナーのニーズに応える性能を高く評価した。
 そのほか、部門別部品賞についても日本力を如実に示す部品が多かった。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

 酒席での打ち合わせに臨むことの多い酒好きの筆者は、絶えず肝機能、心臓、血管などのデータの増減に一喜一憂してきた。そこで用いられる超音波検査は被爆もなく、リアルタイム性に優れるため、その高い分解能を生かし乳腺、甲状腺、胎児などの検査にも幅広く用いられている。従来、そこで用いられる探触子は、圧電セラミックスの個体振動を利用して超音波の送受信を行ってきたが、人体への伝搬効率が低いことから残響が発生し、画像の分解能向上には限界があった。
 今回、栄えあるモノづくり部品大賞を受賞した日立製作所は、膜の振動により超音波を発生させる原理を世界で初めて実用化し、体内の浅部から深部まで、従来より1.5倍鮮明な超音波画像が撮像できる超音波探触子を実現した。これにより、微小な病変の早期発見や診断精度の向上、そして部位の深さに応じて持ち替えることなく、1本の探触子だけで検査できるため、検査者の利便性にも貢献する。
 ポイントは、半導体微細加工技術により作製した微細な突起と電極孔からなる高音圧構造のデザインで、膜を大振幅で振動させることで、高圧力の超音波送信を可能にしたことだ。
 健康福祉・バイオ・医療機器部品賞を受賞した島津製作所の血漿定量分取用マイクロサンプリングデバイスにも、部品大賞と同様の材料加工技術とデザインがその背景にある。従来の射出成形ガラスキャピラリーでは製作できない、複雑なサンプル採取流路を持つデバイスを特殊な樹脂成型技術で実現したのだ。このデバイスが用いられるのは、新薬開発に先立つ実験動物を用いた新規化合物の薬効薬理、毒性の確認である。同社は独自の発想と加工技術を生かしたデザインで、動物の血液採取からその遠心分離、保管、前処理する作業までを、このデバイスのみで完結できるツールを実現。作業者の負担軽減やヒューマンエラーの削減、そして採取量を大幅に低減できることから、実験動物の苦痛を減らす動物愛護の観点からも高く評価したい。

生活関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝氏

 今年は毎週のように台風が発生し、地球環境の劣化を肌で感じざるを得ない状況になってきた。そんな中で、テクノロジーの役目とは何か、改めて考えさせられる。無論、テクノロジーの役目は人を豊かにすることである。では「豊かさとは何か?」。
 1970年代の高度経済成長の中で、三種の神器と言われたテレビ・冷蔵庫・洗濯機を持つ事が夢であった時代から、これらが家庭にほぼ完全に行き渡った今、残念ながら新しい時代の三種の神器は生まれていない。この間、豊かさの価値は大きく変容し、すでに物質的な豊かさより心の豊かさを求める生活者が圧倒的に増え、両者のギャップに大きな差があるにもかかわらず、相も変わらず、市場に投入される商材は物質的な利便性を追うものばかりである。
 心の豊かさとは、暮らし方のかたちであり、それはライフスタイルである。ますます厳しくなる地球環境制約の中で、企業は我慢することなくいかに心豊かな新しいライフスタイルを社会に示し、それに必要なテクノロジーのかたちを提案することが、今求められているのである。
 残念ながら、全応募作品を見ても、この視点で生まれた部品を見つけることはできなかった。是非、次回は期待したい。無論、それはエコや効率性を否定するものではない。それらはテクノロジーの基盤であり、特に生活関連ではその基盤の上に新しいライフスタイルを醸成するような視点が特に望まれるのではないかと思う。
 生活関連分野では、部品賞に選ばれた「部分高強度鉄筋『ダブルスターク』」、「DIT制震筋かい金物」、「大規模地震でも収納庫が倒れない転倒防止ユニット『L-FORCE』」は、ちょっとした発想の転換で高機能化を生み出すという、極めて日本的な視点での開発であり、同じく透明涼暖フィルム「LE-Comfort」は、遮熱と断熱を1枚のフィルムで再現させるという、ユニークな視点での商材である。どれも思想の美しさが生み出した素晴らしい商材である。