2019年受賞部品

モノづくり部品大賞

超高圧液体水素適合バルブ

フジキン

水素の輸送・貯蔵 飛躍的に効率化

 水素社会の実現でカギを握るのはコスト低減。そのアプローチは大別して自動車やバス、定置用燃料電池など利用機器側と水素の製造・輸送・貯蔵といった供給インフラ側の2種がある。
 フジキンは後者においてキーパーツとなる「超高圧液体水素適合バルブ」を開発した。液体水素は体積が気体の800分の1。従来の輸送や貯蔵に比べ飛躍的な効率化を可能にし、水素社会を後押しする。
 液体水素で必要とされるバルブは-253℃の極低温と99.9メガパスカルの超高圧。これらの厳しい環境下で気密性を確保した上で、複数車両へ同時供給可能な流量や施工、保守しやすいコンパクト性が要求される。
 同社は既に99.9メガパスカル対応の水素ガス用バルブで実績があるが低温対応は-50℃。一方、ロケット用液体水素バルブでは-253℃に対応していたが超高圧ではなく大型で、受賞部品は複数要素を同時に成り立たせる難易度の高い開発だった。
 耐低温バルブは流路と封止部品の位置を離し、低温による部品収縮を抑え、流体外部流出を防ぐが、液体水素は極低温のため、封止部品をほぼ雰囲気温度に保つにはバルブ全体が長尺化する課題があった。このため長軸弁に特殊ステンレスを採用し、耐圧を維持しつつ小径化し熱伝導を削減。流量に関しても、流路を大きくすれば閉止推力を高めるためにバルブ上部が大型化する課題に対し、内部機構部品の特殊表面処理でシール性を高めて大型化を抑制する。バルブ流量を示すCv値を水素ガス用の10倍に高めた。
 水素を液体で輸送・貯蔵する次世代水素ステーションでの採用も既に始まり、同分野や産業用途で幅広い普及を目指す。

Voice
  フジキン 代表取締役社長兼COO 野島 新也 氏

水素社会実現に貢献
 このたびはモノづくり部品大賞において、16年連続受賞と「モノづくり部品大賞」という大変名誉ある賞を頂戴し、誠に光栄に存じます。
 燃料電池自動車(FCV)や家庭用燃料電池「エネファーム」、水素ステーションなど、持続可能な低炭素社会を形成する上で、ますます私たちの身近な存在となる水素エネルギー。今回受賞した超高圧液体水素適合バルブは極低温(-253℃)、超高圧(99.9メガパスカル)といった過酷な条件下でも大流量の流れ(流体)制御機能を有する製品です。宇宙ロケットエンジン燃焼試験設備への燃料供給システムや水素ステーション向け超高圧水素ガス用バルブなど実績ある技術をベースに、新技術を加え開発しました。液体水素を取り扱う次世代水素ステーションにおいてキーパーツの一つとなると確信しております。
 今後も私どもフジキンは、流体制御機器の創造開発・販売を通して、よりよい水素社会実現に貢献してまいりますので、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。




モノづくり日本会議 共同議長賞

Dyフリーボンド磁石「マグファイン」を用いたドローン用モータ

愛知製鋼/澤藤電機

アルミ線で3割軽量化

従来よりも3割軽量化したドローン用モーターで、飛行時間の長時間化や積載量の増大が見込める。愛知製鋼が開発したジスプロシウム(Dy)を使わない磁石と澤藤電機の巻き線技術を組み合わせた。農業や物流などの産業用ドローンへの活用で、性能向上につなげる。
 要素部品を覆うハウジングをマグネシウム製にすると同時に、Dy不使用のネオジム磁石「マグファイン」をハウジングに一体成形する技術を確立した。加えてコイルの線材を一般的な銅線ではなく、巻き線の技術的難易度が高いアルミニウム線にするなどして、軽量化を達成した。最長180分の飛行を実現した。
 他社モーターと比べ最大出力は約2倍、出力密度は3.5倍だ。また磁石成形時の磁場の向きを最適化し、振動の原因となる回転時のトルクの脈動を約2割低減した。すでに農薬散布用ドローンへのサンプル供給を始めており、2020年には量産を始める予定だ。

Voice
愛知製鋼 常務執行役員 小島 勝憲 氏

軽量化 喫緊の課題
 ここのたびは、栄えある「モノづくり日本会議 共同議長賞」を賜り、大変光栄に存じます。
 開発品は、愛知製鋼が資源リスク対応としていち早く開発した重希土類不使用の世界最強のボンド磁石「マグファイン」による一体射出成形技術と澤藤電機が発電機などで培った高度な巻き線技術を融合した製品です。
 産業用ドローンは農業や物流で深刻化する労働力不足対策で期待される一方、積載量増量や飛行時間拡大のための軽量化が喫緊の課題です。両社の共同開発により、課題解決へお役に立てることを大変うれしく思います。
 今後も両社が強みを伸展・融合させながら画期的な部品開発を推進し、さまざまな用途への拡大を図ることで社会課題の解決に貢献してまいります。




ものづくり生命文明機構 理事長賞

非常用ポリタンク型浄水器「コッくん飲めるゾウミニ」のフィルターユニット

ミヤサカ工業

フィルター3層構造

 自社製の小型非常用浄水器「コッくん飲めるゾウミニ」用に開発した3層構造のコンパクトフィルター。大型精密濾過(MF)中空糸膜フィルターと粒状活性炭フィルターに加え、藻やゴミなどを取り除くための不織布と活性炭シートによる脱着式フィルターユニットを組み合わせた。給水用コックへの差し込み式でワンタッチ交換できる。
 同フィルターは、脱着式フィルターユニットで比較的大型のゴミを除去した後、粒状活性炭フィルターで塩素や泥などのにおいを除去し、その後に大腸菌やカビなどの病原体をMF中空糸膜フィルターで取り除く仕組み。手押しポンプによる空気蓄圧式タンク本体に差し込んで利用する。浄化する原水にもよるが、1時間当たり300リットル以上の浄水が可能。1フィルターユニットの可能浄水量は期限切れペットボトル水では5000リットル以上、プールや貯水タンク水では3000リットル、入浴後の風呂水では200~300リットル程度を飲料用に浄水できる。

Voice
ミヤサカ工業 会長 宮坂 義政 氏

個人向けにも販売
 このたびは、当社の非常用ポリタンク型浄水器「コッくん飲めるゾウミニ」に組み込んで利用する3層式フィルターユニットに対し「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞賜り、誠にありがとうございます。これもひとえに開発にご協力いただいた関係諸氏並びに、製品をご購入頂いたお客さま皆方のご厚意が形となって現れたものであるとこの場をお借りして厚くお礼申し上げます。
 当浄水器は長野県内の自治体をはじめ全国の大学、企業、マンションなどで数多くの導入例があります。また、インターネットなどを通じて個人の方々から日々、ご注文を頂いております。開発には苦労しましたが、少しでも世の中のために役立てれば幸いでございます。




日本力(にっぽんぶらんど)賞

ステアリング補助機能付ハブベアリング「sHUB」

NTN

走行の無駄抑え 燃費を改善

 「ステアリング補助機能付ハブベアリング『sHUB』」は、アクチュエーターを一体化した自動車用軸受。車速やハンドル角度から走行状態を計算し、アクチュエーターが車輪を素早く最適な角度に動かして、車のステアリングを補助する。走行の無駄を抑え、燃費を改善できる。自動運転車の回避動作への適用も期待できる世界初の機構だ。
 ステアリングは機械やタイヤの性質上、ハンドルを回してから車両が動くまでに時間差がある。sHUBはステアリングと独立した機構で、走行状態を考慮し、素早く車輪の角度を補正できる。車線を変更する場合、ハンドル操作に連動する車両の応答速度を従来の約半分の0.1秒に短縮できる。ハンドルを回す角度は最大で4割減らせる。
 既存のステアリングを変更せずに後輪駆動車の前輪のサスペンション(懸架装置)に取り付ける。今後、前輪駆動車の前輪に使えるよう改良する計画だ。

Voice
NTN 取締役代表執行役執行役専務 最高技術責任者(CTO) 寺阪 至徳 氏

高機能な商品開発
このたび「モノづくり部品大賞 日本力(にっぽんぶらんど)賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
 新開発の「ステアリング補助機能付ハブベアリング『sHUB』」は、ハブベアリングにコンパクト構造のアクチュエーターをモジュール化することにより、既存の足回り構造を変更することなく、車両に補助転舵機構を搭載できます。これにより、車両の走行条件に合わせて左右輪の角度を個別に最適制御することで、なめらかなコーナリング、高速直進性、スリップなどの非常時の車両安定性や燃費の向上を実現します。
 本受賞を励みに、今後も市場トレンドを先取りする高機能な商品開発に努めるとともに、お客さまのご要望に応えられるモノづくりに一層まい進します。



外科手術の際、骨の上を滑らない「オメガドリル」

東鋼

整形外科手術、斜めに穿孔可能

 東鋼の「オメガドリル」は整形外科手術などで斜めに穿孔できるのが特徴。先端部をスパイク状にしたため、骨の表面に食い込み、位置付けをしてから穿孔する。最小30度の入射角度まで傾けても刺入位置をずらさず、穴を開けることが可能。また、回転摩擦による発熱が抑えられ、組織壊死を防ぐ。
 一般的なドリルビットは面に対して垂直に穴を開ける。斜め方向への穿孔は先端が滑り、決めた位置へ穴を開けることが難しい。人工関節置換術などの整形外科手術では、強斜位角度で骨に穴を開けなければならない場合も多い。従来は手間をかけた加工が必要な上に、適切でない場所に穿孔するリスクもあった。
 同製品は、80年以上切削工具の受託製造・販売をしてきた同社の念願の自社ブランド品。今後は高齢化の進行により患者数の増加が予想され、すでに医療現場から問い合わせが相次ぐ。海外展開も視野に入れながら、製品の拡販を進める。

Voice
東鋼 代表取締役社長 寺島 誠人 氏

患者に優しい製品に
 このたびは、栄えある「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を頂き、誠にありがとうございます。受賞の知らせを聞き、まず驚きました。開発してきた技術が認められ大変うれしいです。
 技術に関しては大企業も中小企業も変わりないと考えております。多くの企業の応募の中、中小企業である当社がこのような高評価を頂くことができ、誠に光栄です。
 今後はより使いやすくするため、製品のバージョンアップを進めます。そして医師にとって作業しやすく、患者にとって優しい製品を広げるため、今後の販売戦略にも力を入れていく所存です。皆さまに製品を使っていただきながら、賞に恥じない働きができるよう精進してまいります。



航空機用先進熱制御システム用ヒートシンク

中村製作所

冷間プレスで35%軽量化

 航空機ジェットエンジンのオイルクーラー用熱交換器の循環油をジェットエンジンの吸気で、冷却するためのアルミニウム合金製冷却フィン。従来は切削でフィンを成形していたが、冷間プレスの専用機を用いることでおよそ35%の軽量化、30%のコストダウンを実現。住友精密工業製のエンジン熱制御システムに採用された。
 アルミなどの金属板の表面に冷間プレスで冷却フィンを連続成形するために、中村製作所が独自に開発した専用機による加工法「オーロラフィン工法」を用いた。切削など他の工法に比べ、フィンやフィン底面ベースの厚さを大幅に薄くできるのが特徴。専用機を通しながら冷媒多穴管上の余白の無垢むく材部分を直接プレス成形するため切りくずも出ず、素早く加工できる。
 また、フィン間の幅を切削加工より狭められるため、多フィン化により冷却面積も増やせる。現在、最大で板材長2.5メートルまでのフィン連続成形ができる。

Voice
中村製作所 社長 宮原 友保 氏

海外市場も開拓
 このたびは、当社の「航空機用先進熱制御システム用ヒートシンクに対しまして、日本力(にっぽんぶらんど)賞を頂き、誠にありがとうございます。これもひとえに、開発にご協力いただいた諸氏並びにお客さま皆さまのおかげと、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。
 今回の受賞作であるヒートシンクは、当社独自のオーロラフィン工法を施す専用装置を用いており、アルミなど板材の表面に冷間プレスでフィンを成形します。優れた加工効率性のみならず切りくずも出ないなど、環境に優しい側面も大きな利点です。今後、自動車や新幹線向けに本格採用を見据えた開発案件が加速します。海外向けにも国の機関や大手商社と市場開拓に努める所存です。