2019年講評

機械・ロボット分野

中部大学 理事・名誉教授/慶応義塾大学 名誉教授

新材料・材質の向上に注目
 今年の機械・ロボット分野への応募は昨年より若干減り32件であった。部品賞の対象分野は拡大しているが、申請部品の評価に当たっては新規性、独創性、性能、社会貢献性、実績などの視点を重視している。特に機械関連部品の開発においては、新材料の開発や材質の向上が部品性能を飛躍的に向上させる可能性があるので注目して評価している。
 今回はフジキンの「超高圧液体水素適合バルブ」が「大賞」を、愛知製鋼/澤藤電機の「Dyフリーボンド磁石『マグファイン』を用いたドローン用モータ」が「モノづくり日本会議共同議長賞」を受賞した。前者は水素ステーションで液体水素の使用を可能にするバルブを開発したもので、構造の改良と材料の変更によって超高圧下での、耐圧性、気密性、流量の増大を達成した。今後の需要増大が見込まれる。後者は愛知製鋼のジスプロシウム(Dy)不使用磁石の一体射出成形技術と沢藤電機のアルミニウムコイルの巻き線技術が中核となって開発されたドローン用モーターで、顕著な軽量化と出力増が達成されている。
 アクアテックスの「羽根のない撹拌体『C―MIX(シーミックス)』」は、独自の形状を持った撹拌体を開発したもので、その新規性が高く評価された。今年も切削用工具の申請が多かった。工具材料と切れ刃形状の開発、改良の両面において申請が活発で、わが国のモノづくり活力を確認することができた。IoTへの対応を目指した典型的な機械装置用部品の申請もあり心強い。これらを含めて全部で7件の部品賞と3件の奨励賞を機械・ロボット分野で授賞した。
 この事業の名称は超モノづくり部品大賞であるから、本来は申請企業の製品にだけではなく、機械装置や機器に広く汎用的に使用される優れた部品の申請がもっと増えることが期待される。そしてモノづくり分野における日本のブランド力を認識させてもらいたい。その際、申請書類の内容の充実が強く要望される。特に申請部品の新規性と特徴を機密保持の範囲内で、審査員に十分に納得させるように記述していただきたい。

電気・電子分野

東京工業大学 学長 益 一哉氏

サービス見据えた開発が重要
 本賞の電気・電子分野の審査を初めて担当させていただいた。申請された電気・電子部品はいずれも特徴あるもので、これら部品を生み出しているそれぞれの企業がわが国の産業を支えていることを再認識する機会となった。
 「モノづくり日本会議共同議長賞」を受賞した「Dyフリーボンド磁石『マグファイン』を用いたドローン用モータ」(愛知製鋼/澤藤電機)は、レアアースのジスプロシウム(Dy)を使用しない磁石と、軽量金属であるアルミニウムを用いたドローン用軽量モーターを開発した作品である。
 農業分野への応用を目指しているが、ドローンの軽量化は長時間飛行に大きく寄与するものであり、その価値は高いと判断される。広い市場への展開を期待したい。
IoT関係では、センサーをモーターなどの機器に取り付け、動作状況モニターや異常検知を行うといった応募作品が多かった。今の技術動向を反映しているのだろう。技術としては高いが、ユーザー目線での、サービスを含めた展開の方向性がそれら製品の将来の発展を決めると思う。 部品といえどもサービスを見据えた開発がますます必要になると強く感じた。これまでの実績をベースとした電子部品に関する作品も多く応募され、その中から性能が高いものが選考された。
 さて、多くの優れた応募書類を見させていただいたが、いくつか気になった点を記載させていただきたい。性能は優れていることは分かるのだが、技術の中身がほとんど記載されていない応募が散見されたことは残念であった。
 技術の詳細は記述できずとも、同業者には何が肝であるかを推察できる程度の記述は必要であろう。また、最近の技術の動向を考えるに、部品の性能追求だけではなく、それを利用する形態やソフトウエアを含むサービスを今まで以上に意識することが必要であることをあらためて感じた。来年も優れた部品の応募を期待したい。

モビリティー関連分野

芝浦工業大学 名誉学長 小口 泰平氏

 超学際的なモビリティーへの挑戦を期待
 ヒト・モノの移動の態様が大きく変わりはじめようとしている。モビリティーの高度化と高質化を求めてIT、MaaS(乗り物のサービス化)などにより便利なシステム、さらにはエレメントに至るまで進化しはじめている。そこでは従来の技術領域を超えた「マインドウエアとアドミンウエア」が「ハードウエアとソフトウエア」に加わり、この四つのウエアの超学際的な統合化が決め手になろうとしている。
 さて、今年の「大賞」の栄誉に輝いたフジキンの「超高圧液体水素適合バルブ」は3分野の合同審査対象となり、水素の輸送・貯蔵・供給に有意な液体状態での安全なバルブ開発を実現。水素エネルギー社会を拓くモノづくりとして高く評価された。
 「モノづくり日本会議共同議長賞」の愛知製鋼/澤藤電機の「Dyフリーボンド磁石『マグファイン』を用いたドローン用モータ」は、同様に3分野の合同審査対象となり、マグファインの特性を生かした飛行体の高性能化と軽量化などの実現が高く評価された。
 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」のNTNの「ステアリング補助機能付ハブベアリング『sHUB』」はコンパクトな一体モジュール化で、既存車両に取り付けることによる車両の重要な基本性能である操縦性・安定性の性能向上効果が高く評価された。また、中村製作所の「航空機用先進熱制御システム用ヒートシンク」は、冷間プレス塑性加工によるフィン形成面積の拡大、伝熱性の改善、さらに環境負荷低減などが高く評価された。
 「モビリティー関連部品賞」は次の3件が受賞。高周波熱錬の「自動車の操舵装置用部品『ハイブリッドラックバー』」は、精度・強度・耐久性を確保した軽量の中空ラックバーを実現した。河西工業の「1STEP成形工法縫製加飾ヘッドライニング」は、縫製の精度や着材などの工夫により美観、工程数の低減、環境配慮を実現。マクセルの「車載用映像表示機器『SuperARHUD』」は光学技術と電子映像技術の高次統合化により、視認性・小型軽量・発光効率などの高性能化を実現している。
 これからのモノづくりは高度な技術に加えて、前述の超学際的な新たな統合とその強化が不可欠であろう。さらなるチャレンジを衷心より祈念する。

環境・資源・エネルギー関連分野

資源・環境ジャーナリスト 谷口正次氏

 「大賞」、水素社会への有効部品
 環境・資源・エネルギー分野の評価は次の四つの視点で行った。①社会変革を起こすきっかけとなる②自然資源生産性を大きく向上させる効果③地球温暖化・気候変動対策効果④自然生態系・生物多様性保全効果。
 本年度の「大賞」を受賞したフジキンの「超高圧液体水素適合バルブ」は来るべき水素社会創生のために有効な部品であり、大賞にふさわしいものである。ミヤサカ工業の「非常用ポリタンク型浄水器『コッくん飲めるゾウミニ』のフィルターユニット」は、これぞ日本力といわれるような機械部品のイメージではないが、世界で頻発する異常気象災害や地震発生時、気候変動による干ばつ、世界的な地下水枯渇の進行など世界の水ストレスが高まる中、本部品は水と生命の関係から「ものづくり生命文明機構理事長賞」にふさわしいものとして選定された。
 「環境・資源・エネルギー関連部品賞」を受賞した三菱電機の「中心部にターボ型リブを有する軽量・省エネファン」は、温暖化の進行で世界的にエアコンの需要が拡大する中、基幹部品としての室外機プロペラファンの構造改変による消費電力減と樹脂材料削減の効果は大きい。ダイヘンの「超小型EV向けワイヤレス充電システム『D―Broad EV CHARGING DOCK』」は現在、自動車業界に期待されるモビリティーの変革のレバレージの一つになる可能性があるが、ポジショニングの制約条件から同賞を受賞。日立金属の「Mn―Zn系高周波電源用ソフトフェライトコア『MaDC―F』シリーズ」は、次世代パワー半導体、特に高周波環境に耐えうる窒化ガリウム(GaN)対応ソフトフェライトコアとして、EVなど電源・電力用エネルギー需要がますます増加する中、機器の小型・軽量化に貢献する部品でその価値は高く、同賞を受賞した。
 なお、今年の応募部品を総体的にみて、資源・エネルギー消費量増大、プラスチック問題、生物多様性の消滅、異常気象など、地球規模の問題に対して通底する意識が、例年に比べて若干希薄に感じられた。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学氏

 今年の健康福祉・バイオ・医療機器分野では東鋼の「外科手術の際、骨の上を滑らない『オメガドリル』」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を、ダイヤ工業の「歩行リハビリ補助ウェアパワーアシストウォーク」が「健康福祉・バイオ・医療機器部品賞」を受賞した。東鋼の「オメガドリル」は整形外科手術などに用いられる骨穿孔用のドリルビットである。高齢者人口の増加とともに、人工関節置換術などを受ける患者の数は増え続けているが、こうした施術には一般的に細くて長い穿孔用ドリルが用いられてきた。しかし、骨は円柱状の曲面形状をしているため、刃が骨に食いつかずに滑りやすく、正常な組織や骨を傷つけてしまうという課題があった。本部品は骨表面をしっかり捉えるスパイク状の先端で速やかに切り込み、切削後の骨くずをスムーズに排出する鋭利な刃を持つ。低回転かつ手技を行うことが可能で、狙った方向にドリリングできるだけでなく、回転摩擦による発熱が抑えられ、組織の壊死も防ぐことができる。二つのデザインされた刃を形成することで、能率、精度、温度という要求項目を同時に満足させる部品を開発した背景には、模擬骨を用い、回転数、送り速度を変化させながら行った切削抵抗テストがあることを特筆しておきたいと思う。
 一方、ダイヤ工業の「歩行リハビリ補助ウェアパワーアシストウォーク」にも、自社の独自技術を生かした同様のデザインクリエーティブがたたえられている。現在、開発されている装置の多くは剛体のフレームや金属部品を用いた仕様が多く、高価格、大重量、装着や操作が困難といった課題を抱えていた。同社は「装置」から「衣類のように着用可能」なウエアラブル化が重要と考え、長年のサポーター製造で培ってきた身体へのフィッティング技術や柔軟で高い伸縮性を有する発泡ゲルのチューブ、支援したい筋肉の走行に沿って配置できる人工筋などを駆使し、ロボット開発メーカーにはまねのできない歩行支援装置を開発したのだ。
 生体を対象とした工具や装置はいまだに発展途上にある。生体への負荷に深く配慮した両社の製品開発は今後の医療機器開発の範となる実践である。

生活関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝氏

 地球環境への負荷小さく、機能的に
 部品は可能な限り地球環境への負荷を小さくしたものでなくてはならない。部品は美しくなくてはならない、それは単にビジュアル的にというだけではなく、無駄がなくシンプルで機能的であってほしい。そして、部品はそれを組み込まれた商材がユーザーを育てるものであってほしい。そんなことを思いながら審査させていただいた。
 台風15号は南房総を中心に大きな被害を与えた。その折の海水温度は水戸近くまで29度C帯が広がり、200キロメートルほど南には巨大な30度Cの暖塊があった。台風は26度C以上で発達すると言われているが、まさに勢力を落とすどころか、発達をしながら上陸したのである。続く19・21号は信じられないほどの大量の雨を降らせ、多くの川が氾濫した。地球温暖化の猛威が具体的な形になりはじめたと言っても過言ではなかろう。
 それだけではない。生物多様性も急激な速度で劣化が進み、また、海洋流出プラスチック問題も人間に大きな害を与える可能性が次々に明らかとなってきた。
 これらの根底には何があるのか、それは人間活動の肥大化である。ちょっとした快適性や利便性を求めるために地下資源型テクノロジーやエネルギーに依存した結果が生み出したのだ。このままでは次の世代に渡すバトンはない。ではどうするのか。それは暮らし方のかたちを変えるしかない。資源やエネルギーを可能な限り使わなくても、ワクワクドキドキ心豊かに暮らせる「暮らし方のか・た・ち」が今求められているのだ。それは何かと何かを置き換えるという従来型の思考ではない。まずはバックキャスト思考でライフスタイルを考え、それに必要なテクノロジーやサービスを新たに生み出すことが今こそ求められるのだ。
 今回の応募は残念ながらいささか小粒だったように思うが、その中でも日本らしい匠の技や思考に膝を打つものも少なくなかった。ミヤサカ工業の「非常用ポリタンク型浄水器『コッくん飲めるゾウミニ』のフィルターユニット」は多くの工夫がありながらとてもシンプルで、ぜひ広く使っていただきたい生活部品である。早和製本の「御朱印帳蛇腹和紙」も職人の技をそのまま生かしたもので、そのこだわりに敬意を表したい。LIXILの「浄水カートリッジ『JF―K10』『JF―K11』」、BXカネシンの「ベースセッター」はともに制約のある空間を最大限生かした技を見せてくれた。それは日本のモノづくりの原点である。