2020年講評

機械・ロボット分野

慶應義塾大学 名誉教授、中部大学 名誉教授 稲崎 一郎 氏

モノづくりの活力 再認識
 機械・ロボット分野への応募は、昨年より大幅に増えて47件であった。例年通り、工具製品の応募が多かったが、潤滑油など機械部品の性能を高める製品の応募が複数あったことは、今年の応募状況を特徴づけている。
 機械・ロボット分野からは、次の2件が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」となった。南武の「省エネ・常時補正制御型電動油圧アクチュエータ『e-Zero』」は、サーボモーターを使用した新規の電動油圧アクチュエーターで、従来の従来の大型油圧タンク、モーター、サーボ弁で構成されている油圧駆動システムの諸欠点である大スペースと多量のエネルギー消費を見事に解決している。
 ノリタケカンパニーリミテドの「研磨剤スラリーを使用しない半固定砥粒研磨工具『LHAパッド』」は、ポリッシングで使用するパッド表面部に砥粒(とりゅう)を内包して回転可能な半固定状態にする空間を設け、スラリーの使用を回避して加工面のスクラッチ発生抑制を可能にした。加工面の品質向上と研磨剤スラリーの廃棄、リサイクル費用を不要にした。今後使用が増える炭化ケイ素(SiC)や窒化カリウム(GaN)の研磨に対応できる工具として評価された。
 機械・ロボット部品賞には、合計12件が決定した。日進工具の「極小径多刃ラジアスエンドミルシリーズ」は、放電加工での微細精密金型の加工を、切削加工に転換することを目指して直径0.1ミリメートルで4枚刃の微細エンドミル工具を開発したもので、金型の短納期、コストダウンを達成した。
 スギノマシンの「液中微細コンタミ・油分除去ユニット『JCC-HM』」は、マイクロバブル(粒径1マイクロ~100マイクロメートル)が持つ異物・油分を浮上分離させる作用を利用し、液中の異物を分離させる新規の洗浄機器で金属加工ラインでの幅広い使用が期待される。
 日本トムソンの「液晶潤滑リニアウェイ」は、各種機械の直動案内機器として新開発の液晶潤滑剤を使用し、真空、クリーン、高温の特殊環境下での潤滑剤からのアウトガスや発塵粒子の飛散、油分の蒸発を抑制した。
 そのほか、9件が機械・ロボット部品賞、2件が奨励賞を受賞した。今回、応募された機械・ロボット関連部品には、長年培ってきた技術の上に達成されたものだけではなく、新規の発想に基づくものまで多岐にわたり、わが国のモノづくり技術の活力を再認識することができた。応募企業には開発部品が受賞されるよう、その特徴、新規性が理解されるためにも、可能な限り検証結果も加えて応募書類を作成することを期待したい。

電気・電子分野

東京工業大学 学長 益 一哉 氏

高い技術力 開発支える
 昨年度に引き続き、「モノづくり部品大賞」電気・電子分野の審査を担当させていただいた。申請された電気・電子部品はいずれも特徴あるもので、これら部品を産み出しているそれぞれの企業の技術力がわが国の産業を支えていることをあらためて感じた。
 “超”モノづくり部品大賞に輝いた日立製作所と日立ハイテクの「正確で高感度な血液検査を実現する画像処理モジュール」は、免疫分析装置において血液検体を正確に抽出するための画像処理モジュールである。血液検体表面の泡の状況から吸引の可否を判断するに際し、複雑な表面の状況を機械学習による特徴量抽出を行うことで正確性を格段に改善した。結果として、本モジュールを搭載した免疫分析装置は、2019年度世界シェア1位となることに大きく寄与している。本技術は対象画像を変えることで、他の医療検査装置などへも展開が期待される。極めて高い技術力に裏づけられた部品開発であり、審査会においても非常に高い評価を得た。
 電気・電子部品賞は、6件が選考された。ENEOSの「高耐熱波長板『Nanoable Waveplate』」は、ナノインプリント技術でガラス基板表面上に形成した微細構造による複屈折を利用した波長板である。高輝度レーザー光源プロジェクターの重要部品であり、部品賞にふさわしい製品として評価された。
 ロームの「SiC MOS内蔵AC/DCコンバータIC」、ミネベアミツミとルネサスエレクトロニクスの「レゾルバ付きステッピングモーター制御ソリューション」、安川電機の「小型高機能タイプインバータ GA500」は、開発者の高い技術力に支えられた部品である。
 KELKの「電池レス 熱電 EH 振動センサデバイス『KELGEN SD KSGD-SV』」は、エネルギーハーベスティング(EH)を実用化した点で高く評価されている。日東工業の「放電検出ユニット『スパーテクト』の検出センター」は、電気火災の予防の貢献に期待される。
 本年は高い技術力に支えられた部品の受賞が多かったように感じた。来年も優れた部品の応募を期待している。

モビリティー関連分野

日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏

革命時代、新技術 興味深く
 今回より前任の小口先生の後を受けて、モビリティー関連分野の審査を担当させていただいた。
 モビリティーの分野は、「CASE」や「MaaS」という言葉で語られるように、100年に一度のモビリティー革命の時代にあると言われている。
 これまでの日本の自動車は高い品質を安い価格で提供できており、世界の自動車マーケットで高い支持を受けてきたが、自動車の機能や使われ方などが大きく変わっていく中で、さらなる進化が求められている。これに追随できないと国際競争に勝てなくなるという危機感も持たれるようになっている。
 そのような社会背景の中、各企業においては、新技術を盛り込んだ部品や製品の研究開発が盛んである。今回の審査においても応募数はあまり多くなかったが、それぞれ大変興味深い技術革新がなされており、日本企業の実力をあらためて感じることができた。
 特に、住友ゴム工業の「低燃費タイヤDUNLOP『エナセーブ NEXTⅢ』」は、従来のポリマーとは全く異なる水素添加ポリマーを用い、耐摩耗性を20%向上させ2万キロメートル走行後のウエットブレーキ性能の低下を半減させることができている。
 また、小糸製作所の「ブレードスキャン」は、ブレードミラーの高速回転により発光ダイオード(LED)の光を制御することで前方車両や対向車にハイビームの光が当たらないように、遮光範囲を走行状態に応じて制御できている。これらは「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に値すると評価した。
 日本精工の「電動パワーステアリング用シャフト冷間成形技術」とNTNの「低フリクションハブベアリングⅢ」は、コツコツと改善改良を重ね、結果として前者で18%の軽量化、後者でフリクションを62%低減を達成している。両者は日本のモノづくりの底力を感じさせる素晴らしいものであり、モビリティー関連部品賞に値すると評価した。
 コロナ禍により研究開発の現場の仕事の仕方も変様しているかもしれないが、このような日本のモノづくりの良さを今後も維持してほしい。

環境・資源・エネルギー関連分野

資源・環境ジャーナリスト 谷口 正次 氏

 環境意識の高まり 部品にも
 環境・資源・エネルギー分野の最終審査件数は44件中16件と例年より多く、その内4件が上位賞を、4件が部門賞を獲得し、モノづくりにおける環境意識の高まりを感じた。
 人口増と気候変動によって深刻さを増す世界の水問題に取り組み、造水能力の飛躍的向上と安価にして高品位の水を製造する東レの部品が「モノづくり日本会議 共同議長賞」に選ばれたのは順当であろう。
 また、単に部品の高性能、高機能を誇るのではなく、モビリティー社会に求められる「性能持続性」と低燃費性能を同時に達成した住友ゴム工業も環境貢献部品として他の上位賞と甲乙付けがたい評価であった。
 特に印象に残ったのはKELKの有線式センサーでもなく、電池が必要な無線式センサーでもない、回転機器などから放出されるわずかな熱エネルギーを電力に変換して作動するエネルギーハーベスティング(EH)を電源にした世界初の振動センサーデバイスである。電気・電子分野で部門賞を受賞したが、環境・資源・エネルギー分野でも高く評価したい。このEHの考え方は、自然界(陸・海)のヒトの目に見えない、耳に聞こえない、匂わない、生物・無生物が発するわずかだが多様なエネルギー、化学物質、物理現象をハーベストする、IoTならぬIoN(Internet of Nature)のためのデバイスの開発に応用できないだろうか。
 このEHは、IoT、ICT、AIよる第4次産業革命が叫ばれる中、自然との共生という、モノづくり産業の目指す新たな方向性を示唆するものであろう。なお、日本は鉱物・エネルギー資源、食料、水資源(輸入品の生産に使用された水=バーチャルウオーター)を諸外国に大きく依存しており、経済安全保障上、持続可能性が危ぶまれる。
 一方、日本は世界第6位の広大な領海と排他的経済水域を有しているにもかかわらず、その豊富な海洋の再生可能エネルギーや海底の鉱物資源開発に欧米・韓国などの周回遅れに甘んじている。諸資源の自給率アップを目指し、国家ならびに企業戦略として海洋産業への進出が急がれる。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏

免疫分析の技術、コロナ判定にも
 コロナ禍の中、注目されていた健康福祉・バイオ・医療機器分野では、日立製作所と日立ハイテクの「正確で高感度な血液検査を実現する画像処理モジュール」がモノづくり部品大賞に輝いた。
 マクセルの「ガルバニ電池式鉛フリー酸素センサ」、日本パーカライジングの「ディスポーザブルアクティブ電極『CHIDORI』、アイカムス・ラボの「超小型な送液用ポンプ『マイクロチューブポンプカセット』」が部品賞を受賞した。
 グランプリに輝いたのは、日立製作所と日立ハイテクのHIVやB型肝炎などの免疫分析装置における血液検査の正確性を各段に向上させた画像処理モジュールである。免疫分析では検体と各試薬を別々に混ぜて検査を行うが、その際に発生する泡の影響で陰性と誤判断する課題があった。
 両社は独自の特徴抽出構造を備えた機械学習技術により、問題を解決した。この機能を搭載した免疫分析装置は2019年度の世界シェア1位に輝いた。特筆すべきは対象画像を変えることで、病理診断支援システムや細菌検査システム、そして世界的に大流行しているCOVID-19の短時間判定などにも応用が可能なことだ。
 マクセルの「ガルバニ電池式鉛フリー酸素センサ」は、長寿命で、安価に酸素濃度を測定できる画期的なセンサーである。鉛に代わる負極と、その反応生成物を長期的かつ安定的に溶解させる弱酸性電解液を業界に先駆けて開発した。麻酔器、人工呼吸器などの医療機器における酸素濃度の検出をはじめ、幅広い分野での活用が期待できる技術である。
 また、自社のコア技術を医療分野に展開した2つの製品が部品賞を受賞した。人体を切開、止血する電気メスは血液が焦げ付くことで電気の流れが悪くなり、切開能力が低下する。
 日本パーカライジングは、自社の防錆・塗装技術を応用し、炭化物の付着を抑制する表面処理剤を開発し、この問題を解決した。アイカムス・ラボも自社の超小型プラスチック歯車の技術を応用し、流体チップへの送液を可能にする超小型のチューブポンプを開発した。医療分野にとどまらず、細胞培養などの生物学分野でも、その活躍が期待される優れた製品として高く評価したい。

生活・社会課題ソリューション関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏

 地球への思い馳せる「現代風用の美」
 美しい部品から出来上がった商材は、間違いなく人の心をとらえる。その視点からも現代は柳宗悦の言う「用の美」(用とは共に物心への用であり、物心は二相でなく不二である)をあらためて考えなくてはならない時代ともいえる。近代における物心の「心」とは、地球にも思いを馳せるということも含まれるだろう。
 日本でもようやく政府が2050年までにカーボン・ニュートラルの達成を表明したが、これは単にエネルギー源を再生可能エネルギーに変えるだけでは到底達成できない。
 エレン・マッカーサー財団のサーキュラー・エコノミーに関するリポートは、再生可能エネルギーへのシフトで55%、鉄、プラスチック、アルミニウム、セメントの4領域の商材をシェア、修理による長寿命化、さらに部品のリユース、最後の最後でリサイクルをして枯渇性資源の量を徹底的に少なくすると報告している。しかし、これでも削減率はトータル95%で、これに食料を加えることで何とかカーボン・ニュートラルを達成できるという。
 要はこれから求められる部品は、あらゆる視点での徹底的な長寿命化が求められ。これに耐えうることが必要だ。さらに、今回のコロナ禍で明らかになったように、最先端テクノロジーの投入なしで人の行動が変わった結果、温室効果ガスが圧倒的に削減された(おそらく日本では30%程度)。
 今回は我慢という制約下であったが、これを愛着や心豊かといった概念に変えることができれば、カーボン・ニュートラルへのハードルは大きく下がる。そのためにも「美しい」ということが重要なのだ。
 上位賞に選ばれた東レの「RO(逆浸透)膜浄水システム用『高造水・高回収率RO膜エレメント』」は、高分子精密加工技術で造水量と回収率を画期的に高めた。大協技研工業は粘着捕虫シートに「ひし形模様」を付けるだけで捕虫能力を1.6倍に向上させた。ともに地球への思いを強く感じられる部品である。
 部門賞の浪速工作所、東京測振/竹中工務店、オカムラ、ジェイテクトの部品は、無駄を省き、シンプルさを追求した中に高い機能性を見いだしたもので、部品への愛着を見せていただいた。
 「現代風用の美」、未来の子どもたちのためにも、さらに真摯に正対してほしいと思う。