2021年受賞部品

モノづくり部品大賞

燃料電池電極触媒

株式会社キャタラー

反応効率大幅に向上、白金使用量も削減
良品状態、3次元画像で可視化

 カーボンニュートラル実現に向けて、燃料電池技術の発展が期待されている。水素と酸素を化学反応させ、二酸化炭素(CO₂)を排出せずにエネルギーを取り出せる燃料電池の普及には、より一層の性能向上と電極触媒中の貴金属使用量の低減が求められている。
 キャタラーは、酸素分解するプラス極(カソード)触媒層に用いる白金とコバルトの合金粒子を、カーボン担体のナノメートル単位細孔内に配置する技術を開発し、反応効率を従来より大幅に高めた。
 従来の触媒を反応抵抗解析した結果、水素陽イオンであるプロトンを運ぶ役割を持つ合成樹脂のアイオノマーが合金粒子を覆っているため、酸素拡散性の低下で反応効率が落ちていることを見いだした。
 自動車の排ガス浄化触媒技術を活用し、細孔に白金を配置する薬液を用いることで合金粒子の細孔配置を実現した。また、温度や反応時間など触媒の生産条件の最適化で合金粒子を小径で均一にする技術を確立し、合金粒子の表面積が大きくなることで酸素拡散性や反応効率が高まった。白金の使用量も大幅に削減できる。
 課題は、良品状態の可視化技術だった。カーボン表面の貴金属とカーボン細孔内の貴金属を切り分ける必要があったが、2次元画像では表面内部を切り分けできない。このため、電子顕微鏡による3次元画像をさまざまな角度で解析する技術で可視化を実現し、モノづくり技術に自信を得て開発スピードが速まった。
 本製品は、トヨタ自動車が2020年に発売した燃料電池自動車(FCV)の2代目「MIRAI」に採用された。今後はバスやトラック、鉄道、船舶など大型モビリティーへの用途拡大が見込まれる。

Voice
  キャタラー 代表取締役社長 砂川 博明 氏

 このたびは、「モノづくり部品大賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
 当社は1967年創業以来、触媒による空気や水を浄化する環境技術を開発し、環境問題の解決に取り組んでまいりました。燃料電池はカーボンニュートラル実現の1つの選択肢です。
 今回受賞した電極触媒は、当社の新規事業の柱として取り組んでいる製品であり、50年間培ってきた技術の粋を集めて応用した結晶です。特徴は、ナノサイズで制御した貴金属粒子を、カーボン内部に配置することで電池性能を飛躍的に高め、貴金属使用量を大幅に削減したことです。当社の触媒と炭素材技術は、さまざまな環境課題に対応できる可能性を秘めています。
 今回の受賞で満足することなく、さらに高性能な次世代電極触媒や環境触媒の開発を推進し、人と環境に優しく持続可能な未来社会の創造に貢献してまいります。

モノづくり日本会議 共同議長賞

免疫光導波路センサ

キヤノンメディカルシステムズ株式会社

新型コロナ検出精度5倍向上

 キヤノンメディカルシステムズは、新型コロナウイルス感染の有無を調べる抗原定性検査向けに、光導波路の解析を利用した「免疫光導波路センサ」を開発した。従来の抗原定性検査やイムノクロマト法と比較して、検査精度は5倍向上した。陽性反応の場合は最短4分、最長15分で判定する。
 同センサーの高感度検出技術を採用した抗原定性検査キット「Rapiim(ラピーム)」シリーズは、横浜市立大学大学院医学研究科微生物学の梁明秀主任教授と共同研究し、実用化した。
 これまで簡易型の抗原定性検査では、感度の低さが課題だった。開発した「免疫光導波検出法」により、高精度で判定時間を短縮した検査方法を確立して課題を解決した。偽陰性率の低減に期待できる。
 デルタ株などの新型コロナウイルス変異株の検出も可能。試薬を変えることによって新型コロナウイルス以外にも、インフルエンザウイルスやRSウイルスなどを検出できる。

Voice
キャノンメディカルシステムズ 代表取締役社長 瀧口 登志夫 氏

 このたびは、「モノづくり日本会議 共同議長賞」という栄誉ある賞を賜り、光栄に存じます。
 「免疫光導波路センサ」は、迅速検査ソリューションRapiimシリーズで、抗原(ウイルスなど)を高感度で検出する当社独自の光学検出技術のキー部品です。表面上に塗布する試薬を変えることで、インフルエンザなどのさまざまな病原体を検出できます。コロナ禍の医療現場では迅速検査が求められ、本部品を利用した新型コロナウイルス抗原定性検査は、陽性者を最短4分で判定します。
 “Made for Life”のスローガンの下、医療関係者や患者さんが優れた医療を享受できる未来の実現を目指し、製品やサービスの開発に取り組んでまいります。

ものづくり生命文明機構 理事長賞

高機能バイオ素材 NeCycle®

NECプラットフォームズ株式会社

プラ並み耐久性・生分解性 両立

 「NeCycle」は、地球環境に優しい高機能のバイオ素材で、幅広い製品に適用できる。食料問題に影響のない非可食バイオマスのセルロースを主原料とし、プラスチックの優れた機能性と、日本の伝統的な漆の装飾性を兼ね備える。
 木材などの非可食植物資源から天然高分子のセルロースを取り出し、酢酸などの安全な成分によって化学的に性質を変え、独自の着色剤などを添加して製造する。セルロース含有率は50%で、残りも環境調和性の高い安全な成分を使用する。プラスチックと同等の耐久性と、自然環境での長期的な生分解性を併せ持つ。
 日本を代表する漆芸家の下出祐太郎氏と共同開発し、高級感のある漆ブラックと同等の光学特性を塗装レスで付与する。工業製品に求められる量産性も実現した。
 現在、国連の持続可能な開発目標(SDGs)とカーボンニュートラルへの関心の高まりを背景に、国内外から引き合いが増えている。

Voice
NECプラットフォームズ 代表取締役 執行役員社長 福田 公彦 氏

 このたびは、栄えある「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を賜り、心よりお礼を申し上げます。
 「高機能バイオ素材 NeCycle」は、長年NEC研究所が開発に取り組み、コストや耐久性など数々の課題を乗り越えて量産化に至りました。ご協力を賜りました漆芸家の下出氏をはじめ、多くの方々へ感謝を伝えるとともに、NECグループ関係各位の努力をたたえたいと思います。
 当社は、持続可能な社会の実現を目指す「NEC Platforms Vision 2025」に沿って、気候変動を核とした環境課題の対応や、食やコミュニケーション、モビリティーなどの社会生活における課題の解決に今後とも取り組んでまいります。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

自動車用 高静音軽量2重壁カーゴルーム内装トリム

河西工業株式会社

軽量・低コスト 環境にも配慮

 河西工業は、顧客から要望される機能、コストに加えて環境に配慮した「自動車用 高静音軽量2重壁カーゴルーム内装トリム」を開発した。カーゴルーム内装トリムは、自動車荷室を囲む内装材で、荷室容積を大きくするための薄い構造と自動車室内を静かにするための高遮音性が求められる。
 リサイクルによるポリプロピレン(PP)とポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を用いた独自のリサイクルシート基材を、2重壁構造として採用。荷室の広さ、高い遮音性能による低ロードノイズ、燃費向上につながる軽量化、低コストを実現した。
 音響探索装置を用いて透過騒音レベルの大きい部位を調べて、遮音性能の高い2重壁構造部位の範囲を決めた。製品のリサイクル性を高めるため、材料はPPとPETのみで構成。リサイクル時に障害となるホットメルトの使用を廃止し、溶着で組み立てる構造とした。容易に粉砕リサイクルができる。

Voice
河西工業 代表取締役社長 社長役員 渡邊 邦幸 氏

 このたびは、モノづくり部品大賞の「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
 当社は、環境に配慮したリサイクルPPとリサイクルPET繊維を混ぜた独自シート基材「河西ハイパピア KHP」を用いた自動車用ソフト内装トリムの開発、生産を行ってまいりました。
 今回受賞した「高静音軽量2重壁カーゴルーム内装トリム」は、従来の環境に優しいという特徴を損なうことなく、近年要望の高まっているお客さまの使い勝手の良さと自動車室内の快適さを両立させたオリジナル製品です。
 今後もお客さまに喜んでいただける環境に配慮した商品の開発を続け、モビリティー社会の課題解決に貢献していきたいと存じます。

電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ

日本精工株式会社

高応答性、小型・高効率化を実現

 日本精工の「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」は、衝突被害軽減ブレーキなどに使われる部品。
 モーターの回転運動をボールネジ機構で直動運動に変換し、ブレーキ液圧を制御する。モーターでブレーキに必要な液圧を与え、踏力を支援する既存の方式に比べて応答性が高く、小型・高効率化を実現する。
 同製品は、軸受など周辺部分を一体化していることが特徴。従来設計と比べて全長を約18%、外径を約6%小型化した。ボールネジには、チューブやこまなどのボールの循環部品が取り付けられることが一般的だが、ナット内径に循環部を一体で成形することにより、これを廃止した。部品点数削減による小型化やコストメリットだけでなく、循環部品の脱落なども防げる。
 循環溝は、冷間鍛造成形でナットの内壁に成形される。製造ラインも完全自動化を実現しており、今後高まる需要に対して量産体制を整えている。

Voice
日本精工 執行役専務 自動車事業本部長 御地合 英季 氏

 このたびは、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」をいただき、光栄に存じます。
 自動車業界は、「CASE」をキーワードに大きく変化しています。当社も軸受やステアリングなどの既存製品だけでなく、CASEに適した新製品を開発しています。
 「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」は、緊急ブレーキなど、事故を未然に防止する運転支援システムを構成するものです。当社のコア技術であるボールネジと軸受を一体化し、コンパクトながら高い応答性を実現しました。
 同製品は今後、世の中で求められるものであり、新たなビジネスとして育てる必要があります。受賞を励みに市場やお客さまへのさらなるアピールにつなげる所存です。

医療用シリコーンケーブル「SilMED®」

日立金属株式会社

滑り性改善と耐薬品性 実現

 「医療用シリコーンケーブル『SilMED(シルメッド)』」は、表面に独自のコート処理を施すことで、従来のシリコーンケーブルの機械・伝送特性、拭き取り耐性を維持したまま、滑り性の改善と耐薬品性を実現した。コロナ禍で高まっている消毒・滅菌のニーズに対応した。静止摩擦係数を従来品の約2割に低減し、滑りやすさを向上させた。すでに超音波診断装置のプローブケーブルに採用されており、量産を開始。内視鏡やカテーテルの電源ケーブルへの採用も進んでいる。
 表面には、消毒液を含浸させた不織布の応力を受け流す処理を施した。同社の1万回の拭き取り試験では、滑り性を維持しながら、病院で使用するさまざまな薬液を使用してもほぼ変色がなかったという。
 シリコーンケーブルは耐薬品性に優れるが、表面に粘着性があることで、塵が付着しやすく汚れやすいという課題があった。また、医師や患者が触れた際に不快感もあり、今回そうした課題を解決した。

Voice
日立金属 執行役常務 兼 機能部材事業本部長 村上 和也 氏

 栄えある賞を頂き、誠に光栄に存じます。
 当社グループは、材料開発をベースにさまざまな産業分野において高機能部材を展開しております。このたび受賞した製品は、従来から求められていた特性・信頼性だけではなく、昨今の医療機関の課題である感染症対策に貢献できる次世代をリードする製品です。独自の表面処理でシリコーンが持つ表面粘着性の問題を解消させることに努力がつぎ込まれました。
 今後も当社ならではの「素材の観点」に基づく解決策を提供し、ニーズが多角化する医療分野に向けて貢献をし続けます。素材の特性を引き出す新製品開発を進め、医療機器を含む産業部材の高性能化に貢献できるよう精進いたします。

EV・HEV用高速深溝玉軸受(モータ減速機用超高速対応)

NTN株式会社

小型・高速回転モーターに対応

 EVやハイブリッド車(HV)を駆動するモーター・減速機用に開発した。モーターの高速化で駆動機構をオイル冷却するニーズが増えると予想し、一層の高速回転に対応している。オイルの潤滑条件に適した保持器の形状や材料を採用した。
 深溝玉軸受を高速で回転させるには、軌道輪と転動体の転がり接触面や、保持器と転動体の接触部(ポケット面)に、潤滑剤を保つことが重要になる。
 そこで、高速回転時に軸受損傷に影響を及ぼす保持器の破損プロセスを解明した。遠心力による変形に伴うポケット内の干渉で起きる局部的な潤滑不良と、保持器の剛性を改善することで破損を抑制できることを見いだした。ポケット間の肉抜き(軽量化)で遠心力を低減し、高強度材料で剛性を高めた。
 樹脂製の保持器のため軽量化でき、慣性によるエネルギー損失も70%以上減らせる。二酸化炭素(CO2)を減らせる小型・高速回転モーターの開発を軸受技術で実現する。

Voice
NTN 執行役 CTO 江上 正樹 氏

 このたびは、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を賜り、誠に光栄に存じます。新開発の「EV・HEV用高速深溝玉軸受」は、進展著しい自動車の電動化に貢献するもので、EVやHEVに搭載されるモーターの高速回転を支えます。
 高速回転時の遠心力による樹脂製保持器の変形を最小化するため、形状の最適化、新規強化樹脂材の採用などで、軸受の回転性能を表すdmn値で業界最高レベルの180万の高速回転を実現しました。グリース、オイルいずれの潤滑環境下でも使用でき、すでに複数のEVやHEVに採用いただいております。
 本受賞を励みに、市場トレンドを先取りした高機能商品の開発に努め、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。