2021年講評

機械・ロボット分野

中部大学 名誉教授、慶應義塾大学 名誉教授 稲崎 一郎 氏

高効率・着実な性能向上評価
 今年も機械・ロボット分野には、数多くの申請があり、新規性に富み、その特徴を的確に記述した申請が多かった。
 機械・ロボット分野への申請の中から、日本精工の「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」とNTNの「EV・HEV用高速深溝玉軸受(モータ減速機用超高速対応)」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した。前者は、モーターの回転運動をボールネジ機構で直動運動に変換し、その推力でブレーキ液圧を制御する独自のブレーキ方式を開発したもので、ボールネジ循環溝の一体化で小型化、高効率化を達成した。後者は、高速化に応えるため、深溝玉軸受の性能向上を目指し、保持器の形状や材料の改良に取り組んだもので、詳細な改良計画と実証姿勢が評価された。

 「機械・ロボット部品賞」には、10件を選定した。
 THKの「ならいハンドシリーズ」は、独自の機構でハンドを交換しないで形状の異なる多種多様なワークの吸着、把持を可能にした。
 安川電機の「人協働ロボットMOTOMAN-HC20SDTP」は、小型化、作業性と安全性などの向上を図るため、きめ細かい各種工夫が施された。
 ダイヘンの「直感的なロボットの手動操作を実現する『ジョイスティック・ペンダント』“JoyPEN”」は、ゲーム機感覚でロボット作業のプログラム教示を可能とする手持ちの操作装置で、ジャイロセンサーを内在させて直感的なロボット操作ができる。
 スギノマシンの「小型・汎用 ドリリング&タッピングユニット『SELFEEDER DUO』」は、ドリル加工とタップ加工できるよう主軸と送り軸の両方にサーボモーターを搭載し、回転と送りの同期を実現した。専用機の有効利用への寄与が評価された。

 例年通り、切削工具メーカーからの申請が多く、三菱マテリアルをはじめ4社が「機械・ロボット部品賞」を受賞し、本事業を特徴付けている。
 フジキンは、長年にわたり半導体製造装置の性能向上に寄与する機器開発を進め、着実に成果を挙げていることが評価され、本年も同賞を受賞した。

 装置や機器の開発にあたり、メカトロニクス技術やAI技術の利用が活発であるが、その動作の信頼性と安全性を確保する上で構成部品の性能向上は大前提である。
 汎用的に使用される各種部品は、わが国の伝統ともいえるモノづくり技術を通じて日本の産業を支える“縁の下の力持ち的存在”である。本事業によって開発活動がますます活性化されることを願っている。

電気・電子分野

東京工業大学 学長 益 一哉 氏

小型化や5G対応など評価
 2021年度もモノづくり部品大賞の電気・電子分野に多くの申請をいただいた。いずれも特徴あるもので、これらの部品を生み出している企業の技術力がわが国の産業の発展、さらに世界中が目指すカーボンニュートラル実現にも貢献すると感じた。

 「電気・電子部品賞」に4件が選ばれた。
 日本航空電子工業の「WaveConnect 小型高性能アンテナ」は、メタマテリアル技術を用い、2.4メガヘルツ帯のシングルバンド、2.4メガヘルツと5メガヘルツ帯のデュアルバンド、920メガヘルツ帯それぞれで利用できる小型アンテナである。従来製品と比較して5分の1程度に小型化した点が高く評価された。
 ロームの「1000台メッシュネットワークを実現するWi-SUN FAN対応無線通信モジュール」は、国際無線通信規格「Wi-SUN」の最新規格に準拠し、最大1000台のメッシュネットワークを実現する無線モジュールである。スマートメーターをはじめ、これからのIoT社会の中での利用拡大が期待される。
 岡本硝子の「5G通信用LTCCデバイス用ガラス粉末及びグリーンシート」は、第5世代通信(5G)用通信モジュールで利用される。高周波特性の優れたLTCC(低温焼結同時焼成セラミックス)基板を構成する低誘電率層のためのガラス粉末とセラミック粉末の複合粉末、この複合粉末を使用して形成するグリーンシートである。5G通信技術の進展を支える部品技術として高く評価した。
 日立製作所と日立インダストリアルプロダクツの「小型化と高効率を両立した大型データセンタ向け大容量無停電電源装置」は、2000キロボルトアンペアという大容量と省スペース化を両立した大規模データセンター(DC)用の無停電電源装置(UPS)である。DCがシステムとすれば、停電時のデータ保護に必須の部品であることを評価した。

 今回の審査において、カーボンニュートラルに資する部品という観点の評価も重要になろうという議論があった。どのようにこれを評価していくかが、今後の課題になったことを付け加えさせていただきたい。

モビリティー関連分野

日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏

軽量化・遮音性能両立を評価
 今回も、モビリティー関連分野の審査を担当させていただいた。モビリティーの分野は、CASEという言葉で語られるように、100年に一度のモビリティー革命の時代にあると言われている。
 最近では、特にカーボンニュートラルに向けた電動化などの動きも急である。欧・米・中が電動化へ一気に舵を切る中、日本は電源構成などから多様な選択肢を考えていくような状況にある。
 そのような社会背景の中、各企業においては新技術を盛り込んだ部品や製品の研究開発が盛んである。今回の審査においては、モビリティー関連分野の応募数は多くなかったが、それぞれ大変興味深い技術革新がなされており、国内企業の実力をあらためて感じられた。

 特に、河西工業の「自動車用 高静音軽量2重壁カーゴルーム内装トリム」は、軽量化と遮音性能の両立を目指して二重構造にチャレンジし、製品化を果たしたものとして高く評価される。また、日本精工の「電動ブレーキアクチュエータ用循環溝一体ボールねじ」とNTNの「EV・HEV用高速深溝玉軸受(モータ減速機用超高速対応)」は、自社のこれまでの経験などの蓄積により改良を重ねて非常に良いものが製品化された。これら3点はいずれも「日本力(にっぽんぶらんど)賞」にふさわしいものに仕上がっていると評価した。

 さらに、太平洋工業の「マルチマテリアル軽量アンダーカバー」とKYBの「自動車用電子制御ショックアブソーバ」も、「モビリティー関連部品賞」にふさわしい出来であった。

 今後の自動車産業は、大きな変革の嵐の中を突き進んでいくことになり、サプライヤー各社はこれまで以上に国際競争力を有する部品を提供していかなければならない。なかなか大変だと思うが、日本のモノづくり力を存分に発揮し、良い製品を創り出していってほしい。

環境・資源・エネルギー関連分野

資源・環境ジャーナリスト 谷口 正次 氏

 水素社会実現に貢献高く評価
 科学技術と物質文明の進歩に伴い、資源とエネルギーの需要がますます増大し、環境面で世界的に“不都合な真実”が顕在化してきている。
 現在、日本のモノづくりには、「資源と環境とエネルギーは、表裏一体で密接不可分である」という認識を持つことを期待したい。メタル、レアメタル、レアアース、貴金属など、金属資源の採掘・精錬工程における環境破壊や膨大なエネルギー、水資源の消費、そして温暖化ガス排出は極めて大きい。金属資源の低品位化が進み、需要増大と相まって採掘規模と鉱山廃棄物も増大する一方である。

 このような視点で、2021年度は、電極触媒の大幅削減に貢献するキャタラーの「燃料電池電極触媒」を一番高く評価し、水素社会の実現にも貢献するものとして「モノづくり部品大賞」に推薦した。

 「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞したNECプラットフォームズの「高機能バイオ素材 NeCycle」は、非可食バイオマス素材セルロースで樹脂の優れた耐久性、加工性、軽量化を実現する。石油系プラスチックの代替品でなく、付加価値の高い競合品を作り上げた戦略性と独創性を評価した。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞したNTNの「EV・HEV用高速深溝玉軸受(モータ減速機用超高速対応)」は、内燃機関と同等の出力を得るための小型軽量・高速化という重要課題解決に貢献する。ただし、電気自動車(EV)が内燃機関に比べて銅の使用量が3~4倍、バッテリー正極材にコバルトなどのレアメタルが必要という点とサプライチェーンの上流側での二酸化炭素(CO₂)排出量から、EV化が必ずしも脱炭素化実現のための決め手とは思えない。しかし、世界的なEV化への潮流の中で高性能化につながる点を「日本力(にっぽんぶらんど)賞」として評価した。

 「環境・資源・エネルギー関連部品賞」を受賞したノリタケカンパニーリミテドの「3Dプリンタによるセラミック部品」は、3D(3次元)プリンターによる直接成形に伝統的な施釉によるセラミック含浸と焼成技術を融合させた。伝統文化と新技術を複合したもので、優れた部品である。
 そのほかの「日本力(にっぽんぶらんど)賞」や部品賞を受賞した部品についても、省エネルギー・高効率化指向という点で共通して日本のモノづくりに環境意識が年々高まってきていることを感じた。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏

徹底した検査・性能試験で結実
 世界的なコロナ禍の流れを受けて、2021年度の健康福祉・バイオ・医療機器分野では、医療検査に関わる先進的な技術・システムの応募が数多く見受けられた。

 今回、キヤノンメディカルシステムズの「免疫光導波路センサ」が「モノづくり日本会議 共同議長賞」を、NECプラットフォームズの「高機能バイオ素材 NeCycle」が「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を、日立金属の「医療用シリコーンケーブル『SilMED』」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した。

 キヤノンメディカルシステムズの「免疫光導波路センサ」は、患者から採取した検体中の微量なたんぱく質を、高感度に検出できる迅速検査システムである。従来の検査法では、抗体結合粒子による光の吸収や散乱を目視で判定してきたが、同装置はガラスチップ表面に形成した光導波路の光学的増幅効果を利用して光の粒子を高感度に検出し、判定結果をデジタルで示すことを実現した。インフルエンザウイルス、RSウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、コロナウイルスなどの感染症を迅速検査する抗原キットや、他の疾病検査への応用展開も期待できる。

 NECプラットフォームズの「高機能バイオ素材 NeCycle」は、非可食バイオマスであるセルロースを主原料とし、日本の伝統的な漆の装飾性、蒔絵調印刷の加飾性を付与した高機能バイオ素材である。高い環境調和性だけでなく、バイオプラスチックのコストの壁を優れた装飾性という付加価値で乗り越えたデザイン・オリエンテッドな新素材でもある。

 日立金属の「医療用シリコーンケーブル『SilMED』」も、耐薬品・滅菌性能や生体適合性に優れている製品が長く医療現場から期待されていたが、粘着性のためにホコリが付着しやすく、患者の肌に触れた時の不快感などの課題から、実用化が見送られてきた。滑り性や耐薬品性を高める独自の表面処理技術でこの問題を解決し、超音波診断装置、内視鏡、カテーテルなどへの市場展開を実現した。院内感染などが危惧される中で滅菌、消毒などを重視する医療現場で幅広く受容されるだろう。

 この3者に共通することは、既存検査法との徹底した性能比較検査、マイクロプラスチック問題を解決する加水分解の加速試験、滑り性の維持を確認する1万回に及ぶ拭き取り検査など、開発に先立つ実験と実証に多くの精力が注がれている点である。新領域のモノづくりデザインに求められるこうした不易のアクションを、ここであらためて提起したい。

生活・社会課題ソリューション関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏

 イノベーティブな新材料評価
 部品の定義にはいくつかの視点があるが、生活・社会課題ソリューションという切り口では、「“生活をサポートするもの”すべてが部品である」と定義している。したがって、単に利便性が上がるとか、効率的であるというのではなく、誰にとっても美しい機能を有し、その機能開発のストーリーも美しく、さらに地球環境にとっても十分に配慮されている美しさが部品には求められる。

 多くの応募の中から「ものづくり生命文明機構 理事長賞」には、NECプラットフォームズの「高機能バイオ素材 NeCycle」が選ばれた。プラスチック素材が広く社会に受け入れられ、汎用的であるがゆえに、マイクロプラスチック問題が喫緊の課題として浮上している。NeCycleは、非可食バイオマスであるセルロースを主原料(50%)とし、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)やポリカーボネート(PC)に比べ、環境負荷を40%削減でき、2度Cの海水中ではおよそ1年で分解される。同時に塗装レスで漆ブラック調の光学性能を有するなどの高い装飾性も併せ持ち、プラスチックという範囲ではなく、イノベーティブな新材料として高く評価したい。

 「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」では、アテックの「アテックミスト」が秀逸である。1流体方式で30マイクロメートルのミストを放出することで、浴槽不要で身体を洗え、全身を洗うのに必要な水は200ミリリットルである。ベッドで入浴でき、必要な箇所のみを容易に洗浄できる。高齢化時代に地球環境や人に負荷をかけることなく美しさを取り戻せ、新しい入浴概念の創出につながり得る提案だと思う。

 視点のユニークさでは、交通振動などから生じる微振動と地震動の両方を抑制できる奥村組の「オールラウンド免震」、シンプルな機構でガタつきのない傾斜機能を持つオカムラの「快適なデスクワークをサポートする上下昇降天板傾斜デスク『REGAS』」、アニマルウエルフェア(動物福祉)という視点から鳥を傷つけない竹中工務店とNIPエンジニアリングの「建物における防鳥技術『TORINIX』」が選ばれた。

 応募部品にはどれも明確な特徴があり、“なるほど”と膝を打つものも多い。「機能」と「地球環境」の2つの視点で美しさをさらに追求できれば、さらに変身でき、素晴らしいものになると思う。