2022年講評

機械・ロボット分野

中部大学 名誉教授、慶應義塾大学 名誉教授 稲崎 一郎 氏

独創的・優秀な部品開発 期待
 今回、機械・ロボット分野には49件の応募があり、新規なアイデアが盛り込まれた製品が多かった。
 NTNの自動車用部品「高効率固定式等速ジョイント『CFJ』」が「モノづくり部品大賞」となった。トルク伝達時に発生するジョイント内の内部力を低減する独自機構を持ち、世界最高水準の小型・軽量化を維持しつつトルク損失率を50%以上低減した。典型的な機械部品として、わが国の技術力の高さを示した。
 「モノづくり日本会議 共同議長賞」を受賞した安川電機の「オープナーロボット MOTOMAN-MPO40」は、自動車塗装時に塗装ロボットの動作を妨げないための作業ロボットで、塗装効率を格段に向上させた。長いリーチとストロークを特徴としながら、40キログラムの高可搬化を実現している。
 「ものづくり生命文明機構 理事長賞」は、高圧水部品洗浄機の消費電力を大幅に削減したスギノマシンの「省エネパッケージ『JCC-eSmart』」に贈られた。

 「機械・ロボット部品賞」は、9件に贈られた。
 製造業をはじめとして、エアーノズルは広く使用され、多量の電力を消費している。トリーエンジニアリングの「Hayate TypeS」は、ノズル内部構造と吐出部形状の独自設計でエア消費量を大幅に減らし、低騒音化も達成した。
 牧野フライス製作所の「SMART TOOL SynchroSpinner」は、マシニングセンターの主軸に取り付けた円状のシール面の加工を行う工具で、大幅な工程集約を可能とした。機械部品の性能を高める上で高強度材料の開発が進められているが、加工効率を高めるための被切削性向上も重要だ。
 日立金属の「高靭性・高切削性 新冷間ダイス鋼SLD-f」は、切削中に工具すくい面へ潤滑性を付与する溶着物を形成して、難削材の被削性向上に成功している。
 MOLDINOの「超硬OHノンステップボーラー 40-50WHNSB」は、その性能検証試験が詳細に行われていることが高く評価された。

 モノづくり産業の基盤となっているのは部品であり、その進歩には独創的な機構・構造を持ち、優れた性能を発揮する部品の開発が必要だ。加えて、その耐久性を高めるための材料開発も重要である。これらのことを念頭に置いてこれからも研究開発を進め、わが国のモノづくり産業を支えていくことを期待したい。



電気・電子分野

東京工業大学 学長 益 一哉 氏

産業の地力生かし 多様性を
 2022年度もモノづくり部品大賞の電気・電子分野に多くの申請をいただいた。いずれも特徴あるもので、これらの部品を生み出している企業の技術力が、わが国の産業の発展を支えているとあらためて感じた。

 「電気・電子部品賞」には、4件が選ばれた。
ミツミ電機の「MW3827」は、高温高湿下でも利用できる温湿度センサー。ホコリや異物の影響を受けない特徴がある。信号処理アナログICと一体化させているため、ユーザーには測定値をデジタル値で出力される。
 住友重機械工業の「AGV/AMR用ドライブソリューションsmartris(スマートリス)」は、無人搬送車(AGV)や自律移動ロボット(AMR)のためのギア、サーボモーター、サーボドライバーを1つのパッケージにした部品である。サイクロン減速機を利用することで、耐衝撃性に優れ長寿命である特徴がある。
 ロームの「次世代自動車の低消費電力化、小型化、高信頼化に貢献するSerDes IC」は、イメージセンサーやディスプレーとSoC(System on Chip)間のデータ転送に利用される集積回路である。自動運転に向けてセンサーやディスプレー数が増加している中、SerDes ICの消費電力低減は大きな課題であり、本製品ではデータレートに依存させて電力消費を変化させる手法を取り入れて低消費電力化を実現している。
 トレックス・セミコンダクターの「理想ダイオード機能搭載 ロードスイッチIC XC8110/XC8111シリーズ」は、ダイオード動作の立ち上がり電圧を極端に低下させた部品である。従来型のショットキーバリアダイオードでは立ち上がり電圧は0.4ボルト程度であったが、本製品では独創的な回路構成により20ミリボルト程度に低減させている特徴がある。

 国家の多様性と製品の遍在性を組み合わせて評価する経済複雑性指標(ECI)がある。これは国家がさまざまな産業分野を有し、さまざまなモノを創ることができる力と言える。実は、わが国は1995年以来ずっと世界一である。モノづくり部品大賞の作品の多様性を考えると納得できる。日本の産業の地力は十分高い。この地力を生かすことの重要性をあらためて感じた。



モビリティー関連分野

日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏

進む電動化-さまざまな挑戦
 100年に一度のモビリティー革命の時代と言われ、CASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)対応が必須となっていくモビリティー分野では、特に電動化に向けた取り組みが活発化している。
そのような中、各企業においてはさまざまなチャレンジがなされている。今回の応募ではモビリティー分野をメーンとした応募数はあまり多くなかったが、大変興味深い技術革新がなされており、日本企業の底力を感じさせるものであった。

 特に、NTNの「高効率固定式等速ジョイント『CFJ』」は、改良により損失トルクの大幅低減を実現できており、車両としての効率アップにもつながり、大変優れたものである。
 安川電機の「オープナーロボット MOTOMAN-MPO40」は、ロボット技術の応用として、塗装ラインでの対象物への対応として、長いリーチで40キログラムの可搬質量を実現し、正確な位置決めが求められるものに対して技術的に成立させ、稼働先からも高評価であった。
 日本タングステンの「高耐久二軸押出機部材『MAZELLOY』」は、極めて高い耐摩耗性を実現し、コストは高いが交換頻度を10分の1にでき、実稼働評価で高評価を得ている。
 山田マシンツールの「次世代自動車部材用の超耐久刻印システム:YN-1」は、産学連携の成果であり、良いものができたと言える。
 ダイヘンの「電気自動車(EV)用180kWプラグイン急速充電器」は、今後車両の電動化が進むと考えられ、そこにおいて必要な急速充電器であり、普及が期待される。
 マクセルの「MA-Guardian」は、電波吸収のパネル・シートで、最近普及が進む先進運転支援システム(ADAS)の車検整備などでのエーミング作業に必須のもので、磁性粉開発の技術でシート状のものを実現している。
 エヌティーツールの「Boost Master」は、高圧洗浄機能により、切りくず除去ができるもので、これをマシニングセンターに付加することで、工数低減が可能となり効果が大きい。

 今後の自動車産業は、大きな変革の嵐の中を突き進んでいくことになる。各社はこれまで以上に国際競争力を有する部品を提供していかなければならず、なかなか大変だと思うが、日本のモノづくり力を存分に発揮し、良い製品を創り出していってほしい。



環境・資源・エネルギー関連分野

資源・環境ジャーナリスト 谷口 正次 氏

 世界へ普及-環境貢献度大きい
 今、世界は、温暖化と気候変動で大洪水や森林火災・干ばつと水資源不足などの環境問題が深刻化し、脱炭素が強く求められている。そのような中、環境・資源・エネルギー関連分野に限らず、省電力・省エネルギーと二酸化炭素(CO2)排出削減志向がうかがえる。

 「“超”モノづくり部品大賞」を受賞したNTNの自動車用ドライブシャフト「高効率固定式等速ジョイント『CFJ』」は、トルク損失を50%以上低減するもので、その高効率性能により低燃費・低電費を達成し、大幅にCO2排出を削減する。世界へ普及すれば環境貢献度は極めて大きい。
「ものづくり生命文明機構 理事長賞」のスギノマシンの「省エネパッケージ『JCC-eSmart』」は、自動車など産業用部品の高圧水洗浄機の洗浄圧力と流量をIoT(モノのインターネット)により最適化し、高圧水ポンプの消費電力とCO2排出を大幅に削減する。

 「環境・資源・エネルギー関連部品賞」として選ばれたファインマシーンカタオカの「エコdeヒート(EHP-140-i)」も部品洗浄機向けで、蒸気ボイラや電気加熱ヒーターでなく、高効率ヒートポンプにより洗浄液を加熱する。大幅な省エネルギー、CO2排出削減となる。その性能と経済性、そして環境貢献度が評価された。
 同じく、GF技研の「IDEC・ミニヒートポンプハイブリットシステム」は、世界的な熱波や電力不足もあり、エアコンの省電力が大きな課題となっている時、パンデミック対策としての換気効果も含め、その革新性が高く評価された。
 三恵金型工業の「プラごみの出ないランナーレス4段多段式射出成形金型」は、汎用性が高いこととプラゴミが出ないという省資源効果が評価された。

 以上、いずれも脱炭素が主眼となっていると言える。しかし、世界的な電気自動車(EV)や情報通信技術(ICT)、人工知能(AI)、ロボット、メタバース(仮想空間)、第5世代通信(5G)など、工業化社会の急速な進歩発展に伴い、枯渇性金属資源の消費量が大幅に増えることになる。EVだけでも銅はガソリン車の3~4倍、バッテリーの正極材(Ni/Co/Mn)の2030年における需要予測では2021年比で9.5倍となる。
 脱炭素だけでなく、サーキュラー・エコノミー(循環型経済)構築を目指して、有限な金属資源の飛躍的な生産性向上にも努力が求められる。



健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏

独自ノウハウー循環と螺旋的高度化
 私はこの四半世紀、ユニバーサル&サステナブルデザインに基づく商品、施設、地域開発のデザインコンサルティングを手がけ、日本独自の基盤技術や熟練技能をリスペクトしながら、かつてないビジネスモデルの創造にこだわり続けてきた。
 そこでは、オンリーワンの素材や技術がもたらすハードウエアの「機能品質」、その戦略的アプリケーションにより新規市場を開拓するソフトウエアの「展開品質」、グローバルユーザーの心と五感に訴求するセンスウエアとしての「感性品質」、ユーザーを超えてその他多くのステークホルダーにもメリットをもたらすソーシャルウエアとしての「公益品質」。この4つのウエア開発の磨き上げと循環、螺旋(らせん)的高度化を提起してきた。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した太平洋工業の「マルチセンシングロガー『e-WAVES』」は、ワクチンをはじめとする医薬品、チルド食品などの温度や湿度、加速度、照度、気圧、位置の6項目の同時センシング、遠隔地からのリアルタイム監視、サブスク型の運用を実現する極めて意欲的な技術である。その背景にあるのは、自動車部品メーカーとして磨き上げてきた、タイヤ空気圧監視システムだ。
 同じく、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞したオカムラの「椅子の体格感知部品」も、板バネとスリット構造を巧妙にデザインし、多様なユーザーの体格差に合わせて背もたれと座面が包み込むように樹脂が変形する万人向け設計のチェアである。

 「健康福祉・バイオ・医療機器部品賞」を受賞した竹中工務店と日本エアーテックの「吸引捕虫機『バグキーパーLED』」は、薬剤を使用しない紫外線LEDを用いた、高い捕虫性能と省エネ性、省スペース性、そして意匠性を実現している。
 新発想のプラズマ処理で表面改質を行った新規性・汎用性の高い魁半導体の表面改質装置、同じく材料の高度化で工場火災を回避する新東工業の「難燃性カートリッジフィルタ『FRシリーズ』」にも、独自の素材技術を新たな市場に展開しようという革新への努力が深く感じられる。

 感染症医療対応やワーケーションの普及を経験し、ポストコロナ禍のモノづくりを試行錯誤する中での本年度審査から感じたことは、4つの自社保有ノウハウを棚卸しし、その戦略的な新市場展開に注力している事業者たちの、目覚めた胎動と力強さだった。



生活・社会課題ソリューション関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏

縮減する美しさ 見つけたい!
 2020年12月に人工物量が地球上の生物総重量約1兆1000億トンを超え、さらに毎週全世界の人々が自分の体重以上の人工物を生み出し続け、2030年には2兆トンを超えるという。20世紀初めの人工物量は350億トンだったので、31倍になったことになる。
 一方で、生物の1兆1000億トンは、主に太陽のエネルギーだけで完璧な循環をするが、人工物は価値を失えばそのほとんどがゴミになる。人工物をつくるために地球のあらゆるところに穴を開け、資源やエネルギーを掘り出した結果、修復不可能なほどの生物多様性の劣化を招き、気候変動危機をつくり出してしまった。これが地球環境問題の本質なのだ。
 これからのモノづくりや暮らし方のかたちは、「縮減(自立)」というプラットフォームであらゆるものを考えなくてはならない。あらゆるものが循環する、循環しないものはつくらない、使わない、そしてそれが自立につながるという概念である。かといって我慢になってはならない、縮減というプラットフォームに居ながら、心豊かに暮らすことができるものであるべきと思う。生活関連の部品は、そのようなものを美しいと定義したい。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」のオカムラの「椅子の体格感知部品」は、少ない部品で多くの操作を必要とせず、広い範囲の体格に対応できるという新しい視点を評価した。体にフィットさせようとすると操作部が多くなり高価格となり、低価格の椅子は体に適応させることができず疲れる。このような矛盾に挑戦した視点は十分に評価すべきだろう。
 「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」を受賞した宇都宮工業の「鋼製バネ板材『ミュート』」、トヨタ紡織の「飛沫防止パーテーション『vi:ease』」、文化シヤッターの「高遮音スチールドア SDT-DB35 SDT-DB40」、アイクライスの「簡単装着の荷崩れ防止ベルト『接合及びリング兼用ベルト』」は、ともに高い発想視点で汎用可能な部品に仕上げられ、さらに美しく、縮減という視点も部分的には取り込まれており、評価できる。

 そのほか、審査させていただいた応募部品にはどれも明確な特徴があり、“なるほど”と膝を打つものも多い。「縮減」という地球環境の制約視点で、生活者にとっての美しさ(機能・コンセプト)を追求できれば、さらに素晴らしいものが生まれるのだと思う。