2023年受賞部品

モノづくり部品大賞

一体造形誘導加熱コイル(AMコイル)

ティーケーエンジニアリング

積層造形でコイル長寿命化
設計の自由度 向上

 コンピューター利用解析(CAE)を用いた熱処理シミュレーションと金属3次元(3D)プリンターを用いて製作する「一体造形誘導加熱コイル(AMコイル)」は、従来手法のロウ付け接合で組み立てた誘導加熱コイルに比べて長寿命、性能向上を実現した。「熱処理シミュレーション(トポロジー最適化含む)+金属積層造形(AM)」による品質の安定化や設計の最適化を追求。安定的に高性能な誘導加熱コイルを製作できる。
 機械加工した銅部品をロウ付けで接合し、組み立てる誘導加熱コイルの場合、破損部位の大半が接合部といわれる。ロウ付けの適否がコイル寿命を決めるとされており、長期の耐久性に乏しいことが課題だった。
 AMコイルは、金属積層造形のため継ぎ目がなく、ロウ付け接合の課題を解決。銅の造形に最適なパラメーター開発を行い、面粗さや造形の精巧さを損なわずに実用に適した耐久性、性能を備えた。
 製作期間は、前後工程を合わせても9日間程度と、従来手法に比べて大幅に短縮。銅部品を機械加工で製作する必要がないため、コイル設計の自由度も向上した。
 CAEを用いたコイル設計により任意の形状が表現でき、製品形状、熱処理仕様といった条件を満たす最適化計算で得られるコイルは、従来にない形状の設計を容易にした。
 また、完成した誘導加熱コイルで加工対象物(ワーク)を実際に焼き入れすると、熱処理仕様を満足させる焼き入れパターンを確認済み。
 設計者が行うコイル設計をコンピューターに置き換え、熟練技能者によるロウ付け作業を金属3Dプリンターが担うことで、自動車関連をはじめとするユーザーからの品質向上、コスト低減の要請とともにカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)達成への貢献が期待できる。

Voice
  ティーケーエンジニアリング 代表取締役社長 下村 豊 氏

 このたびは、「モノづくり部品大賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
 今回受賞した「一体造形誘導加熱コイル(AMコイル)」は、機械部品の焼き入れに使用する誘導加熱コイルの製造に金属3DプリンターやCAEという新しい手法を駆使し、製作期間の短縮、設計自由度の向上などを実現しました。安定的に、高性能な加熱コイルを製作でき、熟練技能者不足という製造現場の課題解決に貢献します。
 当社は、自動車の駆動部品を手がける高雄工業が50年にわたり培った技術を受け継ぎ、新しい技術開発の発信を担うグループ会社として2021年に設立しました。
 工場の困りごとを解決したいという設立の原点を忘れず、今回の受賞を新しいモノづくりのスタートとして、さらに努力してまいります。

モノづくり日本会議 共同議長賞

緩み防止ねじPLB v2

ニッセー

「ワンアクション」で締結・解除

 ニッセーが開発した「緩み防止ねじPLB v2」は、確実に締結して緩まないといった本来の目的に加え、作業性に優れる点が特徴だ。1本のボルトに対して内外二つのナットを使う「ダブルナット」方式を採用しているが、外側のナットを回すだけで締結・解除ができる。
 緩まないねじは、1本のボルトに大小二つのリードのねじ山を加工する。内側の大きなリードのナットを外側の小さなリードのナットが機械的に干渉し、高い緩み止め性能を発揮する。1回転で進む距離の違う多条ねじと一条ねじをそれぞれ、内側・外側に配置したことで「ワンアクション」での締結・解除を可能にした。
 緩み止め性能は高い。ルクセンブルクの試験機関が国際規格「ISO16130」に準拠した振動試験を行ったところ、数社の製品の中で唯一、同社のPLB v2に最高評価を与えた。こうした緩み止め性能の高さと、通常の工具を使用できるメンテナンスの容易さ、作業性の高さを訴求して普及を図っていく。

Voice
ニッセー 代表取締役会長 新仏 利仲 氏

 このたびは、「モノづくり日本会議 共同議長賞」を賜り、誠に光栄に存じます。
 当社のスローガンは、「日々、ワクワク・ドキドキ・キラキラと!」です。賞をいただいた「緩み防止ねじPLB v2」は、開発に着手して18年がたちます。18年間、ワクワク・ドキドキした結果、キラキラとした瞬間を迎えることができました。
 技術面では一つの目標が達成できましたので、次は利益性を高めた製品事業として国内外に打って出たいと思います。
 先般、海外の展示会に出展した際は「ジャパンブランド」である点を訴求し、好評を博しました。これからもジャパンブランドをさらに高めていけるよう、技術を追求して世界に発信していきたいと思います。

ものづくり生命文明機構 理事長賞

CAPSULE SENSE

太平洋工業

AI活用~牛の体調 遠隔監視~

 太平洋工業の「CAPSULE SENSE」は、牛の体調を遠隔で監視するシステム。牛に飲ませたカプセル状のセンサーが胃中に留まり、体温や行動パターンのデータを無線で親機に送る。発情や分娩(ぶんべん)、疾病などの兆候を察知でき、酪農家の監視作業が容易になる。センサーはメンテナンスフリーで運用もしやすい。
 牛は一般に、分娩時の事故や疾病で飼育数の数%が出荷できなくなる。カプセルセンスは、温度と加速度のセンサーを内蔵し、その数値の変化を分析する。発情なら数時間以内、分娩なら約1日前にスマートフォンやタブレットに通知する。
 発熱、水を飲む量や回数から体調の変化もわかる。AIを搭載し、継続使用で検知能力が向上する。水やり・餌やりの適正化にも応用可能。牛の体外に付ける他のセンサーより高精度で、破損もしにくい。
 国内では、同社が唯一、製品化している自動車のタイヤ空気圧監視システム「TPMS」の測定と通信の技術を応用した。

Voice
太平洋工業 代表取締役社長 小川 哲史 氏

 このたびは、「ものづくり生命文明機構 理事長賞」という栄えある賞を賜り、心より感謝申し上げます。
 「CAPSULE SENSE」は、自動車用のタイヤ空気圧監視システム「TPMS」で培ったセンシングと無線通信の技術を生かし、ハードとソフトを社内で一貫開発しました。牛の体調変化をAIで解析し、発情や分娩の予兆、疾病などの兆候を検出します。
 畜産業界のニーズや課題を解決し、作業の効率化とゆとりをもてる持続可能な畜産に貢献したいとの思いから、新分野への挑戦を進めています。今後も社会や顧客の課題を解決する製品を開発し、社会に必要とされる企業を目指してまいります。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

自転車ホイール用超低トルク玉軸受「ONI BEARING」

ジェイテクト

自転車~こぎ出し軽く・楽に加速~

 ジェイテクトの「自転車ホイール用超低トルク玉軸受『ONI BEARING』」は、“ダントツ”の低トルクとメンテナンスフリーを実現した製品。自転車のこぎ出しを軽くし、速度維持や加速が楽になり疲労を低減する。
 以前、トラック競技の自転車用に軸受を開発した経験から、初のBtoC(対消費者)製品として着想した。一方、トラック競技用軸受と異なり、ロードバイク用は長時間走行を前提とするため、耐久性にも重点を置いた。
 潤滑方法の改良や、自転車専用の特殊軌道形状などの工夫で低トルクと耐久性の両立を実現した。アフターマーケット事業本部の藤原英樹フェローは「自転車は軽量化や空気抵抗を減らす方向で進化してきたが、転がり抵抗低減の効果も体感してもらい、業界に訴求したい」とする。
 今後は自転車のクランク軸周辺に用いる「ボトムブラケット」向けにも展開するほか、海外市場にも参入し、同製品の拡大を図る。

Voice
ジェイテクト 取締役社長 佐藤 和弘 氏

 このたびは、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」という栄えある賞を賜りましたこと、心より感謝申し上げます。
 「ONI BEARING」は、シニア社員であるエンジニアが「こんな商品をつくりたい」という思いからはじまり、自身の足でユーザーの声を聞き、開発を進め商品化されたものです。
 これまで当社が培ってきたベアリングの技術を生かし、ロードバイク用ベアリングとして圧倒的な低トルクを誇るナンバーワン&オンリーワン商品であることが今回の受賞につながったと思います。もっと速く走りたい、疲れずに走り続けたい、安心してロードバイクに乗り続けたいといったお客さまのニーズに応える商品として、「ONI BEARING」による喜びの輪を広げてまいります。

革新的な液切れ向上技術

魁半導体

医薬・化粧品~高価な液体 残留低減~

 化粧品、医薬品、食品で使う容器のノズル先端や注ぎ口などの撥液性を高めて液切れを良くし、高価な液体の残留や液垂れといったロスを低減する液切れ向上の独自技術。プラズマによる表面改質に独自処理を加え、溶媒や触媒不要のプロセスで環境負荷が少なく、加工対象の表面に溶媒をはじめとする不純物が残留しないことも特徴だ。化粧品を一定量吐出するディスペンサー容器や液体医薬品を入れる容器などの受託加工事業として展開し、注目されている。
 液切れ改善で一般的なコーティングや表面加工と比べて液切れ性能は同等で、残留不純物が無い。プラズマ表面改質と同時に行う独自処理で加工対象の素材を問わずに液切れ具合が調整でき、加工コスト・時間も少なく、競争力が高い。液垂れで無駄になるロスを半減でき、衛生管理にも優れる。濃度や成分に影響する液垂れ抑制で、研究開発や半導体の工場で使う機器などへ用途は広がっている。

Voice
魁半導体 代表取締役 田口 貢士 氏

 創業以来、当社はプラズマ技術の革新への挑戦を続けてまいりました。この取り組みが実を結び、「革新的な液切れ向上技術」が「日本力(にっぽんぶらんど)賞」という名誉ある賞をいただき大変光栄です。
 この技術は、容器ノズルから液体が流れ落ちる「液切れ」性を改善し、省資源化や省労働力化に貢献するものです。着想から試行錯誤を繰り返し、社会貢献と環境への配慮を常に心がけながら技術の完成に至りました。この成果は関係者の皆さまや日々の努力を惜しまない社員の支えがあってこそ。皆さまに心から感謝申し上げます。当社は、「とにかくやってみる」の社是と自由な発想を尊重し、世界に貢献する技術開発にまい進します。

金属3Dプリンタ用 試験造形対応ユニット「Material Trial Unit」

ソディック

粉末交換30分/材料5kgで造形

 「Material Trial Unit」は、金属3次元(3D)プリンター用試験造形対応ユニット。画期的なアタッチメント方式を導入し、ユーザーが手軽に扱えるように設計。従来2日以上かかっていた煩雑な粉末材料交換から解放され、粉末材料の交換が30分で可能になった。2種類の材料で試験造形をする場合、前後の作業期間は合計で5日間かかっていたものを1日で済ませられる。
 また、同社機械での試験造形には通常20キログラムの材料が必要だったが、同ユニットの活用で材料を5キログラム程度に抑制。材料使用量の大幅な削減による低コスト化と、試験後の廃棄物の大幅な削減も実現できる。
 これらにより、従来の材料交換における手間や時間、高額な費用の問題を解決。多様な材料での試験造形が容易になり、金属3Dプリンターにおけるモノづくりの適応範囲を大幅に拡張した。
 消費税抜きの価格は、造形可能サイズ80ミリ×80ミリ×20ミリメートルのタイプが50万円、同50ミリ×50ミリ×100ミリメートルのタイプが70万円。

Voice
ソディック 代表取締役社長 古川 健一 氏

 モノづくり現場での日々の問題解決を図ることを使命として、お客さまの声に耳を傾けながら、社員の創意と工夫で作り上げた本製品が高く評価されたことを大変喜ばしく思います。
 今回受賞した製品は、金属3Dプリンター向けの画期的なユニットで、大掛かりな粉末材料交換作業を不要とする簡単アタッチメント方式を採用しており、さまざまな金属粉末の試験造形にかかる手間や時間を大幅に削減します。同時に少量の材料で試作できるため低コスト化も図れ、金属3Dプリンターの可能性や適応範囲が飛躍的に広がります。
 今後もこの栄誉を励みに、お客さまに最適なソリューションを提供し、日本と世界中のモノづくりを全力で支援してまいります。

20周年記念賞

キャビテイション無軸連続混合器「DEM」

土壌環境プロセス研究所

微細な気泡、汚染物質・細粒分を除去

 土壌環境プロセス研究所の「キャビテイション無軸連続混合器『DEM』」は、秒速50メートル以上の高速水流によりキャビテーション(気泡の発生と消滅)を起こし、水の中に土壌粒子を分散させる特許技術。高圧ポンプによる水流とマイクロバブル(微細な気泡)破砕の衝撃力で瞬時に混合する。無数の微細な気泡が弾ける衝撃で土壌に密着した微粒子を解砕・剝離し、汚染物質や細粒分(粘土・シルト)の除去が可能になる。
 これまでの工場や事業所跡地などに大型プラントを据え付ける化学物質・油汚染土壌浄化に加え、公園の砂場やゴルフ場のバンカーなどで細粒分を取り除く可搬型の小型洗浄装置を開発。
 砂場やバンカーの細粒分が増えると硬い感触になってしまうほか、細菌などが繁殖しやすくなり、臭いを含め衛生管理上の問題にもつながる。
 細粒分の除去では、通気性・排水性が求められるサツマイモ砂地畑の土壌改良にDEMを適用し、作物の品質向上効果が確認されている。

Voice
土壌環境プロセス研究所 代表取締役 藤井 忠広 氏

 当社は、機械、化学、電子、土木など、各分野で活躍してきた企業OBをメンバーとする技術者集団です。
 今回、受賞した「キャビテイション無軸連続混合器『DEM』」は、多様な分野の顧客ニーズに応えるため約20年間、共同開発してきた成果です。東京農工大学の寺田・利谷研究室、東京電力技術開発センター、徳島県立農業研究所などと油汚染土壌洗浄、畑砂洗浄、放射能汚染土壌の除染、下水の活性汚泥の破砕、エマルジョン製造といったテーマに取り組んできました。
 近年、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による2年間の委託研究でDEMの作動現象を解明し、世界でオンリーワンの技術として今回の受賞に至ったものと喜んでおります。