2023年講評

機械・ロボット分野

中部大学 名誉教授、慶應義塾大学 名誉教授 稲崎 一郎 氏

独創性に優れ、高い汎用性
 今年で20回目を迎えた2023年モノづくり部品大賞に、機械・ロボット分野では34件の応募があった。機械部品らしい汎用性の高い、そして独創的なアイデアが盛り込まれた部品の申請が例年より多かった。

 複数分野で高い評価を得たティーケーエンジニアリングの「一体造形誘導加熱コイル(AMコイル)」が「モノづくり部品大賞」に輝いた。機械部品の焼き入れに使用する誘導加熱コイルの製造に、コンピューターシミュレーション(CAE)、積層造形(AM)技術、トポロジー最適化など、新しい工学的手法を駆使して誘導加熱コイルの性能向上、製作期間の短縮を達成し、積極的な開発姿勢が高く評価された。

 ニッセーの「緩み防止ねじPLB v2」がその独創的な発想が評価されて「モノづくり日本会議 共同議長賞」を受賞した。摩擦でナットの緩みを防ぐのではなく、メカニカルにロックをする世界に例を見ない新規性のある機構を組み込んだ。「ダブルナット」方式で緩み止め性能を高めている。汎用性のある典型的な機械部品である。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」には、ソディックの「金属3Dプリンタ用 試験造形対応ユニット『Material Trial Unit』」とジェイテクトの「自転車ホイール用超低トルク玉軸受『ONI BEARING』」に与えられた。前者は、本機1台で多種類の粉末材料の試験造形に対応できる。ユーザーが簡単に脱着できるアタッチメントによって大掛かりな交換作業が不要になる実用的なAM用部品である。

 「機械・ロボット部品賞」には、北川鉄工所の「大径ワークに適応したダウンサイジング高速傾斜円テーブル」、日本精工の「NSKリニアガイド 長寿命シリーズDH型/DS型」、MOLDINOの「高能率側面切削用エンドミルER5HS-PN」、TRINCの「スリムシートクリーナ」、NTNの「センサ内蔵転がり軸受『しゃべる軸受』」、日本アキュムレータの「水圧モータ[NWM-012]」の6件が決まった。

 今回は、材料開発に関する申請が複数あったが、どのような部品に有効に使用されているかを明確に述べていないため、評価が低くなったものが複数あった。
 申請書は、開発品の独自性と有用性を理解されやすく記述することが必要である。装置や機器の開発にあたって、メカトロニクス技術やAI技術の利用がますます活発になると予想されるが、その動作の信頼性と安全性を確保する上で、構成部品の性能向上は大前提である。
 汎用的に使用される各種部品は、わが国の伝統ともいえるモノづくり技術を通して日本の産業を支える、まさに縁の下の力持ち的存在であり、本事業によりその開発活動がますます活性化されることが期待される。

電気・電子分野

東京工業大学 学長 益 一哉 氏

部品レベルでシステム的発想
 2023年モノづくり部品大賞の電気・電子分野に多くの申請をいただいた。いずれも特徴ある技術に基づくものであり、受賞された各企業の技術力がわが国の産業、とりわけ電気・電子関連産業の発展を支えていると改めて感じた。

 本年は、「電気・電子部品賞」には4件が選ばれた。
 オン・セミコンダクターの「バッテリーセンシングIC LC709204/9」は、リチウム二次電池の劣化診断に加え、過充電・過放電保護機能を備えたバッテリー機能センシング集積回路チップである。残量測定や電池利用状況把握機能、さらに保護機能を従来製品や競合製品に比較して大幅な低消費電力で実現している。スマートウオッチやワイヤレスイヤホンに採用されており、より安全な電気・電子製品にも生かされると期待する。
 オムロンの「カラーセンサ 形B5WC」は、製造装置に利用される油の劣化状態を赤(R)、緑(G)、青(B)の透過光強度分布で測定するカラーセンサーモジュールである。油の状態をリアルタイムで監視することで、製造現場の省人化、効率的製造に貢献が期待される。
 セブンシックスの「超短パルスファイバレーザー『iQoM』」は、外部から半導体レーザー光を入力し、ピコ秒の極短光パルスを発生するファイバーレーザー部品である。波長選択素子を巧みに利用することで、部品構成を簡略化し、従来の同等製品と比較して、小型化、低価格化を実現している。レーザー加工機や半導体ウエハー欠陥検査などの検査装置に広く利用が期待される。
 ロームの「機器の省エネ、小型化に大きく貢献するGaNデバイス『EcoGaN』」は、独自デバイス構造による150ボルトで動作する窒化ガリウム製高電子移動度トランジスタ(GaN HEMT)の開発を行い、さらに超高速駆動制御が可能な制御ICを開発し、これらを組み合わせることで、小型、高効率のパワー半導体モジュールを実現している。今後、通信基地局やデータセンター用サーバーの電源部品に広く採用されていくことが期待される。

 部品というと単純なものといった認識があるようにも思う。しかし、受賞した製品をご覧いただくとわかるが、いずれも単純ではない。部品を作るにあたっても、何にいかに利用されるのかといったことを見通し、最適なモジュールという形になっている。部品レベルにおいてもシステム的な発想が求められている。

モビリティー関連分野

日本自動車研究所 代表理事・研究所長 鎌田 実 氏

電動化・脱炭素 実現の原動力
 今回も多くの優れた技術の応募を審査させていただいた。
 今回の特徴は、モビリティーに特化したものが少なく、他の分野と合わせての評価が多かったこと、またせっかく優れた技術であっても、実績が十分伴わない段階での応募で評価が低くなってしまったケースもあったのが少々残念なところ。

 ティーケーエンジニアリングの「一体造形誘導加熱コイル(AMコイル)」は、ロウ付け部での破損から解放される一体成型のもので、高品質・低コストの高周波熱処理が可能になり、特に自動車部品メーカーからの要求に応えられる優れものであり、「モノづくり部品大賞」にふさわしい。
 NTNの「センサ内蔵転がり軸受『しゃべる軸受』」は、軸受内に発電機を設け、センサー出力を無線で飛ばすことが可能で、今後ますます重要になるIoT技術による状態監視などに使えるもの。現状では評価実施中とのことだが、これからの普及が大いに期待できる。
 ダイキョーニシカワと龍田化学の「自動車用インストルメントパネル」は、低収縮かつ高触感のPVC表皮を実現し、自動車メーカーでの採用数は現在でも年間30万台あり、今後も車のモデルチェンジ時に増加が見込めるものである。低コストで高触感を実現したものとして、日本車の良さを示す一つとなり、優れた技術である。
 豊田合成の「ゴムリサイクル技術を用いたオープニングトリムWS」は、廃材をリサイクルして、廃棄物の低減による二酸化炭素(CO2)削減に寄与できながら、性能は十分確保できているという優れものである。これから本格採用が進むようで、その展開を期待したい。
 フジキンの「大流量水素ステーション向け超高圧バルブ機器」は、今後、大型車への水素充填において、大流量が求められるが、そこに向けた製品である。大流量対応のほか、コンパクト化、高耐久化、さらには冗長設計が取り入れられており、今後の水素社会に向けた貢献が期待される。
 少し変わったところでは、ジェイテクトの「自転車ホイール用超低トルク玉軸受『ONI BEARING』」は、今のところ自転車用ということだが、転がり抵抗トルクを22分の1に低減しており、技術革新として素晴らしいものである。

 このように、優れた技術がいろいろあることが日本の製造業の底力であるといえ、電動化やカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)という荒波にもまれる日本の自動車産業の生き残りに向けての原動力になっていくことを期待したい。

環境・資源・エネルギー関連分野

東北大学大学院 教授 松八重 一代 氏

脱炭素・循環資源型が加速
 2015年12月にフランス・パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)で、世界約200か国が合意して成立した「パリ協定」は、「京都議定書」の後を継ぎ、国際社会全体で温暖化対策を進めていくための礎となる条約で、その目標達成のために、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が示す科学的根拠に基づいて、2050年までの二酸化炭素(CO2)排出ネットゼロに向けた技術の導入を加速させていく必要がある。グリーントランスフォーメーション(GX)においては、低炭素を支える技術導入が加速し、各地で太陽光発電や風力発電などの技術が導入されている。
 また、サーキュラー・エコノミー(CE)の推進においては、循環資源の活用、クローズドループの実現により、一次資源消費量を抑え、環境・社会への負のインパクトを減らす努力が求められている。その一方で、低炭素技術の導入は新たな資源需要の拡大を引き起こすこともさまざまな研究者によって指摘され、再エネ導入によるネットゼロ達成には、再エネ設備導入に伴う構造材需要と太陽光パネルなどを構成する素材の需要が大幅に拡大することが指摘されている。
 今回のさまざまな新規部品・素材の提案には、GXやCEに資する技術提案が多くあり、どの提案も意欲的に炭素排出量の削減や、資源生産性の向上に貢献する志向が強くうかがわれた。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞した魁半導体の「革新的な液切れ向上技術」は、素材変換ではなく、表面処理により液面との離れをよくする技術が魅力的であると感じられた。素材変換は使用における負荷軽減や効率向上に貢献する反面、大きな環境負荷をもたらす資源利用を拡大することも多く、そのトレードオフに注意を払う必要がある。素材変換をもたらすことなく、使用段階の負荷を軽減する技術は、その意味で重要な貢献があるものと考える。現在の用いられている化粧品製造プロセス以外にも適応先候補はあるように思われる。とりわけ、高齢化や疫病などの発生などによって市場拡大が見込まれる医療サービスにおいて、一滴も無駄にしない部品導入は、現場での生産性向上に大きく貢献するものと期待される。
 また、同じく「日本力(にっぽんぶらんど)賞」を受賞したソディックの「金属3Dプリンタ用 試験造形対応ユニット『Material Trail Unit』」では、小ロットでの金属3Dプリンティングができる点は、顧客ニーズに沿った開発であり、普及が見込まれ、将来的な3Dプリンティングによる材料生産への貢献に期待がもたれる。

 今後も引き続き、脱炭素、循環資源に貢献する部品製造、技術導入はますます加速を必要としている。しかしながら、脱炭素にとどまらない提案もますます必要とされる。とりわけネイチャーポジティブ(自然再生)アクションは、ゼロカーボンを超えて、次なる活動としてその推進が求められている。責任ある消費と生産において、素材選択、技術導入の際、自然資本への負のインパクトを最小化するだけにとどまらず、自然資本を改善するような技術提案、仕組みの構築に向けた提案を期待したい。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長 赤池 学 氏

ノウハウ~新領域デザインに~
 2023年モノづくり部品大賞の「ものづくり生命文明機構 理事長賞」には、太平洋工業の「CAPSULE SENSE」が選ばれた。子機であるカプセル型センサーを牛の反芻胃に滞留させ、生体情報を24時間、受信管理するとともに、牛舎内の環境情報をクラウドにデータ送信。個体ごとの発情、分娩(ぶんべん)、疾病兆候を生産者に知らせる飼育管理の効率化システムだ。夜間の分娩予測時間を教えることで事故がなくなり、発熱を検知し、通知することで、疾病による生産性の低下が最小限で済むようになる。岐阜県の自動車部品メーカーである同社が、地元の畜産研究所、農業大学校、生産獣医療センターとの協業で開発した独創的な技術だ。

 また、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に輝いたのは、魁半導体の「革新的な液切れ向上技術」である。独自の表面真空プラズマ処理によるノズル部の表面改質により、撥液性、滴下精度、液切れ性能を改善した、化粧品、医療分野での市場性が期待できる装置。京都工芸繊維大学発ベンチャーとして設立された同社が、京都大学、大阪大学、東北大学などとのアライアンスを実施し、開発した技術だ。

 「健康福祉・バイオ・医療機器部品賞」には、オー・ケー・シーの「一般医療機器 手術用ドリルビット Ecuma-Stab」と、オリエンタルモーターの「電動グリッパ EHシリーズ 3つ爪タイプ」が選ばれた。前者は、整形・口腔外科用のインプラント手術に使用される、先端の食付き精度を向上させ、目標位置に対して滑らず、ズレのない穴加工を実現するドリルビット。後者は、これまで多用されていた平行グリッパーの課題を見直し、回転構造を採用しながら、3つのフィンガーの組み合わせにより確実な把持特性を発揮する、汎用性の高いグリッパーだ。いずれも、自動車・航空機産業で培った部品技術を、医療、バイオ分野に展開したビジネスである。

 医療、バイオ分野のモノづくりには、今後、安全・安心で、健康的なヘルス対応に留まらず、患者、作業者、そして家畜までを含めた快適なウェルネス・ユーザビリティー、経済性の向上を含めた、多様な豊かさを提供できるウェルビーイングな技術開発が期待されている。

 コロナ禍、円安、燃料・資材・搬送費の高騰により、国内企業の多くが、現業の維持、拡大に苦慮していることは、改めていうまでもない。その解決策をいかにして見出すのか。2023年モノづくり部品大賞を受賞した当分野の事業者から学べることは、現業のノウハウを新領域デザインへと展開する、チャレンジと戦略的協業の大切さである。

生活・社会課題ソリューション関連分野

東北大学 名誉教授 石田 秀輝 氏

一元論的ものづくりは美しい?
 部品は形や機能は無論のこと、地球環境に対しても美しくなくてはならないと思う。それは「縮減する美しさ」といえるのかもしれない。
 いかにシンプルに目的とする機能を発現させるか、太平洋工業の「CAPSULE SENSE」は、まさにそのような視点を持った部品だろう。牛の反芻胃に留まるカプセルセンサーの情報を解析することで、発情・分娩(ぶんべん)・疾病などの体調変化を検知するという。自動車部品メーカーの新たな挑戦という意味も含め、「ものづくり生命文明機構 理事長賞」に相応しい部品だと思う。
 ジェイテクトの「自転車ホイール用超低トルク玉軸受『ONI BEARING』」は、セラミクスボールを使った自転車ホイール用の玉軸受で、その性能は耐久性、転がり摩擦抵抗など、あらゆる性能で過去の部品を凌駕している。小さな部品だがそこにはきらりと光るこだわりの挑戦があり、開発ストーリーも実に興味深く、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に相応しい部品であり、今後の具体的な展開を期待したい。
 土壌環境プロセス研究所の「キャビテイション無軸連続混合器『DEM』」は、大学を含め、多くの関係部門を巻き込み、キャビテーションを利用した小型土壌洗浄システムを創り上げた。従来の水使用量を大幅に削減し、全く新しいメカニズムでの洗浄システムである。複雑・高度汚染土壌などへの応用が期待でき、「20周年記念賞」に選ばせていただいた。

 「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」には、オカムラ、帝人フロンティア、テクセット、エコ・ワールドの「編成樹脂網状構造体 座面クッション材(E-LOOPシリーズ)」が選ばれた。リサイクルの比較的困難なウレタン発泡剤からポリエチレンにクッション材を変更し、異硬度クッションの考え方で良好な座り心地を実現した。具体的なリサイクルシステムの稼働が待たれる。

 生活・社会課題に関わる部品は、前述したように、いろいろな意味で美しくなくてはならないし、それが明確に見えるカテゴリーだとも思う。
 「奨励賞」の三和シヤッター工業の「耐風形軽量シャッター『耐風ガードLS』」も含め、今回の受賞部品は、どれもがその美しさを自慢できるものである。それは、デカルトのいうような二言論的なモノづくりではなく、柳宗悦の「用の美」に代表される「物心は二相でなく不二である」、すなわち一元論的なモノづくりからしか生まれない美しさかもしれないと思っている。