2024年受賞部品

モノづくり部品大賞

ダフニーアルファクールNVシリーズ

出光興産

切削加工~油補給40%削減~

  出光興産の水溶性切削加工油「ダフニーアルファクールNVシリーズ」は、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)への貢献を切り口に開発された製品だ。
 水溶性切削加工油とは、水と混ぜて使う潤滑油で、金属部品を切削加工する際に滑りをよくして加工しやすくするために使う。NVシリーズは、加工後の部品への付着を抑えられるなど新しい特性を実現。この特性により、使用量を減らすだけでなく、部品の乾燥に必要なエネルギーを減らし、コスト削減に貢献できる。
 水と混ぜた加工油の濃度を維持するために切削加工装置に油を補給する量を平均で40~60%削減できる点は、経営側がコスト削減として実感するだけでなく、現場で作業負荷の軽減を実感できるほどの変化だった。
 開発にあたっては、目的の性能を実現する原料を導き出す理論を新たに構築。この理論を使い、一般的な強アルカリで揮発しやすい材料から弱アルカリで揮発しにくい材料に変更しつつ、目的の特性を実現した。作業者が強アルカリ成分を吸い込むという健康リスクを減らせることも現場にうれしい効果だ。
 また、付着量の削減と揮発量の低減の両方の効果で、性能維持時間を2.5倍以上に延ばすことができた。
 開発のきっかけは、顧客のモノづくりの現場からの「カーボンニュートラルに貢献できる製品はないか」という声だった。当初はどんな特性があればカーボンニュートラルに貢献できるかわからない状況だったが、食器を洗った後の水切れをよくして速く乾かすという食器用洗剤がヒントになった。現場の声を真摯に聞くことと柔軟な発想がイノベーションを生み出した。

Voice
出光興産 上席執行役員(潤滑油管掌) 寺﨑 与志樹 氏

 「モノづくり部品大賞」という栄えある賞を賜り、誠に光栄に存じます。
 本部品は、現代の要請に応える「就労環境と経営コストの改善」を両立させた水溶性切削油です。新しい評価技術に加え、「モノづくり現場での生の声」が従来にはない性能を実現させたポイントです。お客さまからは「補給量が削減された」と高く評価していただいています。
 切削油などの潤滑剤は、自動車やスマートフォン、産業機械やモノづくりの現場になくてはならないものです。社会の発展とともにトライボロジー技術も進化、生産性の向上と効率的なエネルギー利用に貢献してきました。
 今後も、持続可能な社会の実現やモノづくり現場の改善を支える「縁の下の力持ち」として、“人が使うものである”との観点も入れ、創意工夫と情熱で技術革新にまい進してまいります。

モノづくり日本会議 共同議長賞

バリレスシリーズ

不二越

切削加工~バリ極小化~

 不二越の「バリレスシリーズ」は、3種類の工具の総称で、穴加工やネジ加工、側面加工のバリを低減する。バリ発生のメカニズムを徹底的に分析し、バリを極小化しながら、切削条件は従来と同等で長寿命かつ安定加工を実現した。「切削加工でバリが出るのは当たり前」「加工後のバリ取り作業は必要不可欠」といったこれまでの固定観念を覆した。
 穴加工の出口側でバリを低減する「アクアREVOドリルバリレス」は、先端の刃先を鋭角にして振れを抑制した。外周の形状も切削抵抗が小さくなるようにし、ドリルがワーク(加工対象物)を抜ける際、バリを細かく分断・切除しワークに残さない構造を取り入れた。傘の形をした切りくずを除去し、手作業のバリ取りや検査工程を省ける。時間短縮やコストダウンにつながる。また、「SGスパイラルタップバリレス」は、ネジ加工の内径側でバリを低減。「アクアREVOミルバリレス」は、側面加工の上面側でバリを抑制する。

Voice
不二越 代表取締役 社長執行役員 黒澤 勉 氏

 「切削加工後のバリ除去に時間とコストがかかる」といったユーザーの困りごとを解決するため、これまで培ってきた技術を結集させ「バリが出るのは当たり前」、「加工後のバリ取りは当然」といったこれまでの常識を覆してバリの極小化に挑み、完成したのが今回受賞した「バリレスシリーズ」です。ドリル、タップ、エンドミルの3種類それぞれでバリの発生を抑制する工具形状を採用し、バリの極小化を実現しました。
 この「バリレスシリーズ」を商品化したことにより、自動車部品や産業機械などの幅広い分野で、バリ取り作業やバリ検査工程を削減し、生産性向上に貢献することができました。
 今後も、技術革新により、切削加工に新たな価値を提供していきます。

ものづくり生命文明機構 理事長賞

軟骨伝導振動子

CCHサウンド

~軟骨の振動~音を生成~

 CCHサウンドの「軟骨伝導振動子」は、イヤホンや集音器など、すべての軟骨伝導機器のコア部品である。2021年に開発に成功し、2023年に丸形とディスク型の二つの形状の軟骨伝導振動子を発売した。丸形はイヤホンとして使用でき、ディスク型はスマートフォンやスマートグラスなどに組み込める。
 軟骨伝導振動子のもとになったのは、奈良県立医科大学現学長の細井裕司教授が2004年に発見した第三の聴覚「軟骨伝導」。軟骨の振動が外耳道内に音を生成、鼓膜を通じ音が聞こえる仕組みだ。
 CCHサウンドは軟骨伝導の産業化を目的に、2019年に設立された。同社は軟骨伝導に関する特許の独占的実施権を保有。ライセンス供与により、オーディオテクニカ(東京都町田市)から軟骨伝導ヘッドホンが発売された。
 2025年大阪・関西万博では、パソナグループのパビリオンでスタッフ用インカムに使われる。万博を契機に、軟骨伝導技術を世界に発信していく。

Voice
CCHサウンド 代表取締役 中川 雅永 氏

 このたびは、栄えある賞をいただき、誠に光栄に存じます。
 当社は、2019年に設立しました。奈良県立医科大学現学長の細井裕司教授が2004年に発見した「軟骨伝導」の製品化を通じ世の中に貢献すべく、取り組んでいます。「軟骨伝導」は気導、骨伝導に次ぐ第三の聴覚です。
 難聴は、認知症との相関が指摘されています。人生100年時代において、難聴はコミュニケーションを難しくし、人生の満足感を左右します。集音器などに軟骨伝導技術を応用し、認知症予防に貢献していきたいです。
 軟骨伝導技術は応用範囲が広く、市場は世界にあります。日本発の軟骨伝導技術でイノベーションを起こし、音に関する当たり前を変え、産業界に貢献していきます。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

MCジョイント

日本ニューロン

インフラ配管の破損防ぐ

 日本ニューロンが開発した伸縮可とう管「MCジョイント」は、地震や地盤沈下などによって配管に作用する変位・変形を、既存の伸縮可とう管と比べて短い製品長で吸収する。施工性も良く、近年頻発する自然災害による水道管をはじめとしたインフラ配管の破損防止に、有効な防災部品として注目される。
 伸縮可とう管とは、継ぎ手の一種。配管は、季節変遷による熱伸縮や地盤沈下などで、伸び縮みや曲がり、芯ずれといった変位・変形が発生する。そのため、配管の継ぎ目に、伸縮可とう管を設置するなどして、従来から対策されてきた。ただ、大きな変位に既存の伸縮可とう管で対応するには、製品長を長く取る必要があり、施工性などに課題があった。
 MCジョイントは、山高やピッチが異なる2種類の山形状を組み合せた、金属製の蛇腹構造の伸縮可とう管。一般的とされてきた、すべて同じ山高、ピッチの山形状が連続する同管より柔軟かつ短い製品長で、変位に対応する。

Voice
日本ニューロン エンジニアリング本部 設計解析Gr. 課長 金丸 佑樹 氏

 このたびは「日本力(にっぽんぶらんど)賞」をいただき、誠にありがとうございます。受賞の話をうかがっても、しばらく実感がございませんでした。
 この伸縮可とう管「MCジョイント」は、地震などの自然災害で生じる管路への大きな変位に対しても、短い製品長で対応できる革新的な断水対策部品です。老朽化が進む水道管など、インフラ配管の更新が課題となる中、2024年元日に能登半島地震が発生し、8月には南海トラフ地震臨時情報が初めて発表されました。頻発する自然災害に対する国内の防災意識の高まりも、受賞理由の一つになったのではないかと存じます。
 本賞受賞を旗頭に、MCジョイントの普及に一層拍車をかけ、防災・減災、国土強靭(きょうじん)化に貢献してまいります。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

3次元加飾ハードコートフィルム「ルミアート」

アイカ工業

自動車外装、フィルムで加飾

 自動車の製造で排出される二酸化炭素(CO2)の約25%が塗装工程に起因するといわれ、塗装の代替技術としてフィルム加飾の注目が高まっている。内装向けに普及が進む一方で、外装ボディー向けは実用化が待たれているのが現状だ。
 アイカ工業の自動車外装向け「3次元加飾ハードコートフィルム『ルミアート』」は、高耐久性を持ちながら成形性に優れ、成形後の紫外線硬化が不要と、フィルムならではの特徴を生かしている。スプレー塗装からの切り替えにより、CO2排出量を従来の半分以下に削減すると試算するほか、揮発性有機化合物(VOC)の放散もない。適用可能部品としてボンネット、フロントバンパー、サイドフェンダーなどを想定する。
 国内外から引き合いを得ており、複数社で要求性能をクリアし、本採用に向けた評価試験が進んでいる。脱塗装という概念を確立し、脱炭素への取り組みを通じてフィルム加飾の可能性を広げる技術として普及を図る。

Voice
アイカ工業 代表取締役 社長執行役員 海老原 健治 氏

 「3次元加飾ハードコートフィルム『ルミアート』」は、新規事業を育成する中で誕生した新製品の一つです。当社の技術と、社会課題やニーズを結び付けながら発展させてきた製品が、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」という栄えある賞を賜りましたことを、大変うれしく、光栄に思います。
 本製品は、現代において喫緊の課題であるCO2排出量削減への貢献に加え、製造工程の短縮や、光透過印刷など従来の自動車外装にはなかったデザインも可能となる、新しい素材です。おかげさまで、国内外のメーカーから引き合いをいただいております。“クルマ”から“モビリティ”へと変わりつつある産業に新たな価値を提供できるよう、実用化に向けた取り組みをさらに進めてまいります。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

冷間1470MPa材プレス フロントバンパーR/F

豊田鉃工

複雑形状加工~冷間プレス新工法~

 車体前部に取り付けられ、衝突時にエネルギーを車体の骨格全体に伝達することで衝撃を緩和して、乗客を守る重要部品。限られたスペースで強度を出すため、深い溝が入ったM字断面となる。この形状は加工難易度が高く、従来は材料を加熱する熱間プレスでしか成形できなかった。豊田鉃工は世界で初めて1470メガパスカル(メガは100万)の冷間超高張力鋼板(超ハイテン材)を用いて同形状を実現した。
 伸びが少なく硬い材料に対応するプレスの新工法を開発した。成形後に発生する引っ張り圧縮応力を制御する形状を採用することにより、製品精度のバラつきも抑えた。また、車両衝突時の破断やプレス成形時の材料割れを未然に防ぐコンピューター利用解析(CAE)での予測判定手法も開発した。
 これらの独自技術により、従来の熱間プレス品と同等の質量や性能、高品質を達成するとともに、コスト低減や製造過程の二酸化炭素(CO2)削減も実現した。

Voice
豊田鉃工 代表取締役社長 坂元 康彦 氏

 当社は、創業以来、革新的なプレス技術を絶えず追い求め製品化してきました。今回、名誉ある賞をいただいた世界初「冷間1470MPa材プレス フロントバンパーR/F」もその成果の一つであり、大変光栄に思います。
 この製品は従来、熱間プレスでしか成形できなかった複雑な形状に対し、硬い材料に適した独自工法、理論的な成形割れ判定手法、精度や性能を満足するための形状工夫など過去の知見も掛け合わせた新たな手法を開発し、従来品以上の品質を達成しました。同時に量産体制も確立し、大幅な生産性向上、コスト低減やCO2排出量の削減も可能としました。
 今後も、この栄誉を励みに、もっとお客さまに喜んでもらえるような製品開発に挑戦し続けます。

日本力(にっぽんぶらんど)賞

医療従事者にも患者にも嬉しい搬送アシストロボット MOOVO

日本精工

ロボ片手操作~ストレッチャー搬送~

 日本精工の「搬送アシストロボット MOOVO(ムーボ)」は、看護師や看護補助者によるストレッチャー搬送を支援する。片手での簡単なリモコン操作だけで、医療従事者による自由自在なストレッチャー搬送を実現する。
 ロボットには電動キャスターを搭載し、シームレスに手動と電動を切り替えできる。これまで通り、手動でストレッチャーを動かすことも可能なため、既存の搬送ワークフローを変更することなく導入することができる。また、全方向に対する段差の乗り越え性能を持つとともに、患者視点での乗り心地や静穏性を兼ね備える。
 既存のストレッチャーにアタッチメントを取り付けるだけで装着できるため、ロボット導入時のコストや負担を軽減する。今後、製品改良を重ねてベッド搬送やリネンサプライなどの搬送にも適用拡大する。将来的には病院や医療現場以外での多用途搬送支援ロボットとしても提案する。

Voice
日本精工 執行役専務 技術開発本部長 近江 勇人 氏

 「搬送アシストロボット MOOVO」は、当社の中期経営計画MTP2026の「新商品を育てる」という取り組みから生まれた開発品の一つです。社会・ファイナルユーザーに価値を届ける新商品技術開発として、開発者が何度も医療現場に足を運び、現場の声を聞いてロボットを作り上げました。
 本ロボットは、当社が長年培ってきたコア技術を活用し、四つのモーターの高度な制御により、ストレッチャーの加減速や全方向へのスムーズな移動をアシストします。また、本ロボットは、さまざまな搬送用途への展開が可能であり、労働力不足・労働環境の改善への一助になるものと考えております。
 今後も、コア技術を生かして新商品を育て、新たな価値創出を通じて社会に貢献してまいります。