2024年講評

機械・ロボット分野

日本工業大学 工業技術博物館 館長、上智大学 名誉教授
清水 伸二 氏

独創性に日本の底力感じる
 2024年モノづくり部品大賞の機械・ロボット分野には、41件と多数の申請をいただいた。独創性に富むものが多く、日本のモノづくりの底力を感じた。
 これらの中で、「モノづくり日本会議 共同議長賞」には、不二越の「バリレスシリーズ」が選ばれた。切削加工ではバリが生じるものとし、バリ取りの工程が当たり前のように設けられている。この工程の生産性を高めるため、ロボットで対応する流れもあるが、これをバリの発生元である工具で解決しようというものだ。そのため、バリ発生のメカニズムを徹底的に解析して、バリの発生を極小化する技術を開発し、広くドリル、タップ、エンドミルに適用してシリーズ化した独創的な部品で、切削加工の生産性を革新的に高めることが期待される。

 「日本力(にっぽんぶらんど)賞」には、日本精工の「医療従事者にも患者にも嬉しい搬送アシストロボット MOOVO」が選ばれた。本部品は、病院内で使われる搬送ストレッチャーの下部に装着し、看護師、看護補助者のアシストを行うロボットである。ストレッチャーの下部の狭い空間に設置可能として、前後左右だけではなく、斜め移動、その場旋回も可能だ。さらには、ロボットの着脱も容易として、1台で複数台のストレッチャーをカバーすることも可能としている。

 「機械・ロボット部品賞」には、6件が選ばれた。
 ソディックの「溶融せん断粘度測定装置『Nendy-E(ネンディ)』」は、成形加工と同じ状態で溶融せん断粘度測定可能で、使おうとする材料の変化なども事前に知ることができ、それに伴う製品変化も予測し、事前の対策ができるようにした。
 京セラの「ミーリング工具向け新PVD材料PR18シリーズ」は、耐摩耗性と耐欠損性を両立させた独創的な物理気相成長(PVD)コーティング技術を開発し、ミーリング工具全般に採用することにより、産業界への貢献度をより高めた。
 NACOLの「水圧用スプール式電磁切替弁 DSWシリーズ」は、周辺環境汚染ゼロ、水中でも使えるなど、他の駆動源と比較して多くの特長を持ち、水圧駆動技術の進展に大きな貢献が期待される。
 椿本チエインの「超小形ローラチェーン エプシロンチェーン ステンレス仕様」は、ピッチが1.905ミリメートルと世界最小のもので、ロボットのエンドエフェクタなど、多くの製品の小形化に貢献が期待される。
 スギノマシンの「ロボットバリ取り用スピンドルモーター『BRQ-EZ01』」は、ロボットバリ取り用のエンドエフェクタの開発で、各種機能を持ったフローターを開発し、それらをワンタッチで交換できるようにして、ロボットのティーチング、バリ取り作業の高効率化を図った。
 伊東電機の「フレキシブルノイズレスローラ FNR」は、シャフト、弾力性を持った樹脂ローラーとベルト伝動用のプーリで構成する搬送ローラーであり、軸間スペースを有効活用し、搬送ローラー間ピッチも小さくできるように工夫され、小物、軟包装品のより安定した搬送を可能にした。

電気・電子分野

産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター センター長
益 一哉 氏

特徴的な技術で競争力向上
 本年の電気・電子分野の受賞作品は、いずれも特徴ある技術力に支えられた製品だ。高い技術力の裏付けなしには、受賞は難しいと言える。
 受賞者(受賞会社)と受賞作品の関係に注目してみると、今年の受賞を以下の2つのパターンに分類できると思う。①何か大きなシステム的な製品を製造販売する中で、その中の重要部品を自社開発しているケースと、②受賞製品を含めた部品をシリーズ化し、それが競争力強化につながるケースだ。

 まず、①については、システム全体の競争力を高める点で重要だが、今回は②に注目して考えてみたいと思う。
 部品とは、システムの大小を問わず、システムを構成する要素であり、全体の性能や機能を支える不可欠な存在だ。システムとは、ある目的に向けて複数の要素が連携し、統合された構造体(材料も同じように考えることができる)だ。部品は、このシステムにおいて役割を果たすため、まずその仕様に適合し、期待される性能を満たす必要がある。しかし、たとえ性能を満たす部品を提供できても、競争相手やコスト削減要求に応じて、開発側には常に新たな挑戦が必要となる。

 部品提供を主目的にする企業においては、他社に対して競争力を持たせるために、単に仕様通りの部品を提供するだけでなく、独自の付加価値を持たせることが求められる。そのためには、性能の向上ばかりではなく、耐久性や効率の向上、新素材の採用による軽量化や耐熱性の向上、または複数機能の統合によるコンパクト化、さらには国連の持続可能な開発目標(SDGs)に対応した環境配慮型設計など、他にはない特長を付加することが考えられる。
 また、部品に柔軟な汎用性を持たせるための柔軟な設計思想も重要だ。さらにコスト削減の要請に対しても、生産プロセスや材料の効率化を追求することも不可欠だ。これらにより、常に「新しい価値」を生み出すことで、部品自体が積極的に競争力をもつことが可能となる。このようにして、部品開発が受動的な立場にとどまらず、システム全体の価値向上を見据えた積極的な創造の場となりうる。

 今回のケース②に相当する企業を拝見すると、技術力ばかりではなく、その高い技術力を生かすマーケティング力に長けているのではないか。「良いもの作れば売れる」ではなく、「良いものが売れるマーケット」をしっかりとつかんでいるようだ。これからは、良いものが売れるマーケットを部品目線でも創造するようになることを期待している。

モビリティー関連分野

日本自動車研究所 代表理事・研究所長
鎌田 実 氏

独自技術~他分野へ展開期待~
 今回も多くの優れた技術の応募があり、興味深く拝見した。昨年もそうであったが、モビリティーに特化したものが少なく、他の分野と合わせての評価が多かったことが傾向としてある。
 上位賞に選ばれたものでは、アイカ工業の「3次元加飾ハードコートフィルム『ルミアート』」は、車体の3次元形状にも対応したフィルムで、車の塗装の上塗りを省略できるポテンシャルを有する。
 また、豊田鉃工の「冷間1470MPa材プレス フロントバンパーR/F」は、比較的地味かもしれないが日本の技術力が見られて実績もあがっており、両社とも「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に相応しいものである。

 「モビリティー関連部品賞」としては、3点が選ばれた。
 中興化成工業の「薄肉切削加工技術を用いたふっ素樹脂(PTFE)製ダイヤフラム」は、宇宙機に採用される大型軽量のダイヤフラムで、独自の切削方法が優れている。今後は他の分野での展開も期待される。
 MOLDINOの「高硬度鋼加工用高送り小径複合ラジアスエンドミルEHHRE-TH3 mini」は、溝幅1ミリメートル未満の溝が加工できるもので、特に形状の設計にオリジナリティーがあり、加工時間の大幅短縮を実現している。
 ジェイテクトの「高耐熱リチウムイオンキャパシタ『Libuddy』」は、自動車の過酷な使用環境に対応し、動作温度を高温・低温ともに大幅改善したもので、UPS電源への量産採用のほか、自動車のステアリングや自動運転用のバックアップ電源としての活用が期待されるものである。
 さらに、「奨励賞」となった昭和金属工業の「圧造完結品」、日産自動車の「金型磨きレス加工用工具」は、比較的地味なものであるが、日本の製造業の底力を感じさせる良品である。

 以上、今回のモビリティー関連分野での受賞内容を簡単に紹介した。
 世界的に見ると、自動車産業は中国の台頭や、電動化・ソフトウエア定義車両(SDV)化など大きな変革期にあり、これまでの日本の製造業の優位性が揺らいできているとも言える。日本の基幹産業である自動車産業が世界的な競争に負けないように頑張っていかないといけない状況にある。その意味において、画期的な部品や要素技術の登場を期待したい。

環境・資源・エネルギー関連分野

東北大学大学院 教授
松八重 一代 氏

社会的な負の影響 最小化
 近年、気候変動や環境問題が深刻化する中で、炭素中立社会の実現がますます重要になっている。この目標を達成するために低炭素技術の導入加速が進んでおり、そのためさまざまな希少金属素材需要増大が見込まれる。企業は炭素排出の最小化のみならず、サプライチェーン(供給網)を通じた資源調達に関わる環境攪乱の拡大、周辺環境における社会的影響配慮、人権や労働条件の改善も含めた責任ある調達が求められるようになってきた。責任ある調達では、環境への配慮だけでなく、サプライチェーン全体で人権を尊重し、労働者の権利を守ることが求められている。そのためには事業者は安全で公正な労働環境の提供に努める必要がある。
 今回のさまざまな新規部品・素材の提案には、炭素中立やサーキュラーエコノミー(循環経済)の構築に資する技術提案が多くあり、どの提案も意欲的に炭素排出量の削減や、資源生産性の向上に貢献する志向が強くうかがわれた。

 「モノづくり部品大賞」を受賞した出光興産の「ダフニーアルファクールNVシリーズ」は、水溶性切削油の開発により、工具寿命の延長に加え、ヒュームの発生低減ができる点が魅力的であると感じられた。工具そのものの寿命延伸は、タングステンをはじめ希少資源の消費量そのものの削減効果が期待され、その環境負荷削減効果、資源サプライチェーンリスク軽減効果は評価されるものだ。さらに水溶性切削油の開発により、作業時のヒューム吸入による健康リスクも軽減する点は労働環境改善への効果も期待される。
 「環境・資源・エネルギー関連部品賞」を受賞したタンガロイの「『TungFeedBlade』内部給油機能付き突切り工具」は、給油をスムーズに行うことで工具寿命が5.8倍になる点が評価された。加工性能の向上により、単位あたりの二酸化炭素(CO2)排出を大幅に削減し、超硬工具の廃棄量削減が実現できる点は評価される。
 前述の2つの技術は、共通して部品そのものによる環境負荷削減効果というよりも、用いている工具の長寿命化への貢献が評価されたものだ。炭素排出量の削減による温暖化影響の緩和は重要な技術開発のターゲットだが、さらに資源利用によるサプライチェーンリスクの低減、労働環境の改善や資源調達に関わる社会的な負の影響を最小化することもますます重要になっている。

 炭素排出量の削減を強調するものは多くあったが、製品廃棄後の希少資源の回収可能性まで配慮をしている提案は多くなかった。
 「電気・電子部品賞」を受賞したプロテリアルの「高強度・高耐摩耗トロリ線『SNH合金トロリ線』」は、錫インジウム合金を活用して対摩耗性の向上を実現し、寿命延伸効果がある点が評価された。インジウムを利用している点が資源的には気になるものの、銅精錬で回収可能である点、循環性にも考慮がされている点は評価されるものだった。
素材選択、技術導入の際、環境への負のインパクトを最小化するだけにとどまらず、部品導入・使用を進めることで、自然資本の改善につながるような技術提案を期待したいと思う。

健康・バイオ・医療機器分野

ユニバーサルデザイン総合研究所 所長
赤池 学 氏

革新的な発想で部品開発に挑戦
 医療福祉やバイオ分野のモノづくりには、患者、医療従事者、作業者や家族までを含めた幅広いユーザビリティー、多様な豊かさを提供できるウェルビーイングな技術開発が求められる。
 そうした中、2024年モノづくり部品大賞の「ものづくり生命文明機構 理事長賞」に、CCHサウンドの「軟骨伝導振動子」が選ばれた。通常のイヤホンが音を耳に送り込むのに対し、外耳道軟骨に振動を与えることで、音源を耳の中に創り出す新発想のメカニズムだ。高齢者の難聴対策に効果を発揮するだけでなく、スマート音響グラスや、イヤホンの使えない水中での音楽鑑賞などへの展開も可能となる。

 また、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」に輝いたのは、徳洲会湘南鎌倉総合病院との協業で開発された、日本精工の「医療従事者にも患者にも嬉しい搬送アシストロボット MOOVO」である。看護師、補助者による既存のストレッチャーに脱着が可能。病院内には、ロボット走行に影響を与える段差や傾斜、点字ブロックが数多く存在する。低床型アクティブキャスターの採用により、段差乗り越え性能と患者への振動軽減を各段に向上させることに成功した。
 「健康福祉・バイオ・医療機器部品賞」には、ビー・アイ・テックの「複合材製大腿骨骨折治療用髄内釘」と、太平洋工業の「防災マット『MATOMAT』」が受賞した。
 前者は、骨粗しょう症を背景に多発している大腿骨骨折のための治療機器。従来金属製だった大腿骨髄内釘を、X線透過性に優れ、高い疲労強度特性を有する炭素繊維強化複合材に代替した。大阪大学大学院医学系研究科との連携で開発されたもので、臨床現場からのフィードバックで、さらなる改良も期待できる。
 後者は、普段は椅子のクッションとして、非常時は寝具としても使える、備蓄場所のいらないフェーズフリーな防災マットである。クッション材料も、自動車部品の生産段階で発生するウレタン端材のリサイクル加工で造られたエコプロダクトでもある。

 2024年モノづくり部品大賞を受賞した当分野の事業者たちから学べることは、これまで、定番、常套(じょうとう)とされてきた材料や技術、活用方法そのものに課題や疑いを抱き、革新的な新規発想に基づく部品開発に挑戦する、“コンセプトデザイン”の重要性である。

生活・社会課題ソリューション関連分野

東北大学 名誉教授
石田 秀輝 氏

部品はいつも美しくあってほしい!
 部品であっても美しさを持って欲しいと常々思っている。美しさとは、ビジュアル感もあるが、機能的にも、地球環境的にも求められると考える。特に地球環境視点では、世界中の人が日本人と同じ暮らしをすれば、地球が2.8個必要になるという。もちろん地球は一つしかない。したがって2.8分の1、すなわち現在の約4割の環境負荷に低減させつつ、我慢することなく暮らすためのライフスタイルやそれに必要なテクノロジー、サービスが求められている。逆に4割という制約の中でいかに美しい部品を作っていくかというバックキャスト視点が今後ますます求められるのだと思う。

 このような視点には、まだまだどの部品も距離はあるが、アイカ工業の「3次元加飾ハードコートフィルム『ルミアート』」は脱塗装という概念で創り上げたハードコートフィルムであり、日本ニューロンの「MCジョイント」は大地震などの自然災害時にも水道管などを守り抜く強靭(きょうじん)なインフラ醸成に貢献できるものである。ともにユニークな切り口で地球環境負荷を大きく減らすことが期待でき、「日本力(にっぽんぶらんど)賞」として評価された。

 また、2004年に日本初の第3の聴覚経路として奈良県立医科大学で発見された「軟骨伝導」を用いたCCHサウンドの「軟骨伝導振動子」は、従来の気導や骨伝導では達成できなかった広範囲の音響製品を実現させ、「ものづくり生命文明機構 理事長賞」として評価された。

 三和シヤッター工業の「Re-carboシリーズ『断熱クイックセーバーTR』」は、シャッターの高い断熱化を達成した。竹中工務店、レンタルのニッケン、未来機械の「墨出しロボット『SUMIDAS』」は、3次元レーザー測量機と墨出しロボットから構成され、建築施工時の墨出し効率化と無人化を達成し、それぞれ「生活・社会課題ソリューション関連部品賞」と評価された。
 文化シヤッターの「BX止水版 ラクセット ハイタイプ」は、「奨励賞」と評価された。

 その他、応募された部品は各賞の対象にはならなかったものの、それぞれ個性的なものも多かったが美しさという視点では、まだまだやれることが多いと思う。バックキャスト視点での新次元の挑戦にもさらに期待したい。